狙いは③
異空間を出て人間界に戻れば、高位魔族二人と神の息子が暴れ回っていた割に王国に異常は起きていない。異空間に移動する前はかなり激しく暴れていたのに。屋敷の庭もいつの間にか元通りで……神の息子の首根っこを掴んでいるウアリウスに駆け寄った。
「何時直したの?」
「異空間に入る前。自動修正させた。時間が経てば直る様にね。案外早く終わっていて助かったよ」
「そうだね」
「もしもまだ直っていなかったら、これをどうにかしてしまいそうだった」
これ、と言ってウアリウスは神の息子を持ち上げた。うわあ……ものすごく綺麗な笑顔。裏に隠されている魔族の性質を知っているが為にドン引きしてしまう。さっきから神の息子としか言ってないけれど、よくよく考えるとこの人の名前知らないや。
「この人名前なんて言うの?」
「さあ?彼に聞いてみればって言ってあげたいけれど」
全身血だらけで意識を失っており、今聞いたところで答えられない。手加減無しにも程がある。ウアリウスは彼を転移魔法で地下へ抛り込んだ後、私の手を引いて邸内に戻った。
連れて来られたのは寝室。
「うわ」
腰に手を回され、強く抱かれるとウアリウスを下にベッドに倒れ込んだ。
「痛くない?」
「全然。はあ、天界側が一体何を考えているのか、分かるせいで面白くない」
「え」
ウアリウスの上に倒れた私は気になる発言を聞いては退くという選択肢が消え、乗ったままウアリウスにどういう意味かを聞いた。だって今の発言、どう考えてもウアリウスは事情を知っているっぽい。内通者の天使に聞いた訳ではないみたい。
「彼は次期神になると言っていたろう? あれは嘘。本物の次期後継者は天界の姫とよく似ている」
「母様と?」
あの人でもちょっと似ているなって思えた。次期後継者は驚くことに母様の双子の兄。歴代の神の一族で特に力を持つのがこの人。
「神の一族は、魔族と違って近親婚はしないんだ。天界の姫が感応増幅能力を持っていると判明した時、神は大層嘆いていたよ。彼女が分家なら、問題なく息子の花嫁に出来たのにって」
「だから母様は熾天使を婚約者にされていたってことか」
近親婚が御法度なら納得だ。人間で考えると近親婚って問題ありまくりなのに、魔族に限って無問題なのはそういう種族だから、としか言えない。前世女子高生の人格がある私の感覚としてはぶっちゃけ無しなんだけど、アフィーリアとしてまあまあの時間を過ごしたせいか嫌悪感っていうのが無くなっている。
「あの人を尋問するんだよね。私も同席していい? どうしてウアリウスや私を襲撃したのか知りたい」
「僕が教えてあげよう。まあ、下らな過ぎて笑えもしない」
「え」
「さっき、天界の姫の双子の兄が次期後継者だって言ったね」
「うん」
「彼以外の子供達は、強いけれど彼と比べると月と蟻の差がある。神が次期後継者に彼を推しているけれど、他の子供達が彼よりも強いと証明されれば後継者の座は変わる」
「もしかして、次の神になりたくてこんな無謀なことを?」
「そう」
曰く、始祖の魔王の転生者たるウアリウスの首、私と母様を天界へ持ち帰ればそれだけで次期後継者の座を得られる。魔界を襲った神の一族については、地下に抛り込まれた人の尋問で聞き出すにしろ、女でも神になれる為次期後継者の座欲しさで襲撃した確率が非常に高い。
「天界も魔界とそう変わらないね」
「当主の座を賭けてってやつで?」
「うん。魔界だって、魔王の座を欲する魔族は大勢いるじゃない? ライバルを蹴落として自分がその座に就きたい人は大勢いるもの」
魔王になる条件で最重要なのは魔力。知能が優れていようと、武功を上げようと、野心が強かろうと、求められるのは魔力の強さ。この一点。政治については五大公爵家の当主達がサポートをすればいい。平民出身の魔王の時がそうだったと聞く。
「もしも私や母様が天界に連れ戻されたら、絶対碌なことにならないよ……」
「天界の姫はともかく、アフィーリアは半分魔族の血が流れているんだ。先ずは、魔族の血を洗い流す作業に取り掛かるね」
「血を洗い流す……?」
き、聞くだけで怖すぎる言葉……!で、でも聞いてみたい。
「聞きたい?」
「グロそうだけど聞きたい」
「グロいと思うよ。アフィーリアの血から魔族の血だけを除去するんだ」
その方法というのが十八禁グロテスク映画を彷彿とさせる行いなので敢えて割愛させていただく。聞いているだけで場面が頭に浮かんで痛いを通り越して別の何かになりそうだもん……。
「ドン引きにも程がある」
「神や天使なんて魔族と同じくらい血生臭くてグロいよ?人間達は自分達の都合の良いように解釈するけれどね」
アニメや漫画で描かれる天使や神は、どれも美麗に描かれ、性格も人間を導く優しい存在か時に厳しく接する側に分かれる。時に敵対する場面はあれど基本は味方の描写が多い。
「彼の尋問は明日にしよう。今日はもう気分が乗らない」
「うわあ、気紛れ」
「否定はしない」
騒ぎについては庭の修正と共に王国全体に暗示の魔法を掛けた為起きない。魔力を微調整しつつ彼の相手をしていたと言うものだから吃驚を通り越して感嘆とする。相手がウアリウス視点で言うととんでもなく弱いから実現出来ただけで少し面倒臭いと感じる相手だったら無理だった。
「アフィーリア」
私はこの後どうしよう……ちょっとだけ眠くなってきたかも。小さく欠伸をしたら、身体を下に倒された。え?と驚いている間もなくキスをされた。
「ん……」
魔族は近親婚が当たり前。祖父に当たる人にキスをされても嫌じゃないのは、魔族特有の性質も関係している。後は私自身ウアリウスを嫌いじゃない。どこぞの誰か達と違って魔力は奪わない、無理矢理キスをして来ないもん。
「……ふふ」
「……?」
「アフィーリアは僕を信用してキスをさせてくれるの?」
「信用というか……嫌じゃない」
「前にも聞いたっけ。これがユーリやハイネなら、君は抵抗する?」
「それ以前にされるって予想を抑々していない。あの二人は、私が嫌いなんだし」
「もしも、キスをされそうになったら?」
ユーリとハイネの二人と……。……うん。
「抵抗して逃げる、かな」
「どうして」
「キスだけで終わる気がしないのと私がユーリとハイネとはキスしたくない」
嫌いじゃない。同じ父親の血が流れていたとしても、魔族は近親婚を重要視するから問題ない。アフィーリアとしての記憶が戻った以上、あの二人にエグい方法で殺された過去は消えない。ゲームでもエグいと思うのだ、実際に思い出すとよりエグい。
「ウアリウスは、私がどんな方法でユーリとハイネに殺されたか知ってるよね?」
「全部ではないけれど」
「もしも、はないと思うけれど、私はユーリとハイネとだけはキスしたくない」
「そう」
「んっ……」
私の返答に満足そうに笑ったウアリウスはまたキスをしてきた。唇を触れるだけでそれ以上はしない。キスが終わると目を開けた。
「魔界を襲撃した方はどうなってると思う?」
「まず間違いなく返り討ちになっているだろうね。ロゼを眠らせていると言えど、魔界にはシルヴァ家を除いた五大公爵家の当主達がいる。リエルもいるけれど、公爵達がいれば無問題さ」
「だよね」
父様がいなければどうにもならない相手だったら、真っ先にシルヴァ公爵に連絡がいく筈。何もないということはそういうこと。
そろそろ起きる? と言われ、もう少し寝転がっていたい私は最初みたいにウアリウスを下にし、身体に乗っかった。
「珍しいね」
「気紛れな人の血を引いてるんだよ、私も」
「はは、違いない」
血を辿れば私の先祖はウアリウスになる。気紛れなのは血筋だと強調すれば可笑しそうに笑われる。一緒に生活をし始めて言われた台詞で印象に残っているのは、義務的に過ごしていた一日が私と暮らし始めて楽しくなったって言われたこと。一時の気紛れだとしても私にとっては嬉しい台詞。こうやってウアリウスとのんびり暮らしていければ何も要らない。贅沢だって求めない。ウアリウスは私に贅沢をさせたいようだけれど、前世女子高生の人格が強いせいで贅沢をしたいと思えない。
「このまま寝るのもありだね。無駄に働かされて疲れた」
「楽しんでたように見えたよ」
「当たってるけれど、奥の手があるのかもって期待して外れを引かされたせいで萎えちゃった。寝て忘れる」
「——その前に彼の尋問でもするべきでは? ウアリウス様」
部屋には私達二人しかいなかったのに、第三者の呆れ声が飛んだ。扉の方を見やれば、声色と同じ表情を浮かべているシルヴァ公爵が立っていた。ベッド付近まで来るとより呆れを濃くさせた。
「やあシャルル。孫娘と戯れているのに邪魔をするのは無粋だよ」
「女性と戯れたいなら、魔王の座に返り咲くというのはどうです。どんな美姫も選び放題ですぞ」
「魔王の座に戻ってほしいなら、アフィーリアを説得してごらん。アフィーリアが僕の妻になるなら、魔王に戻っていいよって言ってある」
「また貴方は……」
私が最初聞いた時は、半分冗談半分本気だったけれど、長い付き合いのシルヴァ公爵は冗談として受け取っている。と思ったのは大間違いだった。
「陛下を怒らせて楽しいですか」
「ロゼは関係ない。アフィーリアは何百年一緒にいてもきっと退屈しない。そんな子が妻になるなら、退屈な魔王になってもいいって考えただけ」
「始祖の貴方が魔王の座を退屈と言ってしまうとね……」
魔界の全てにおける基礎を創り上げた人の台詞とは思えない。
「アフィーリア様。ウアリウス様はこう仰っていますが?」
「へ。あ、えっと……ウアリウスの奥さんになるって考えはありませんけど、引き続き一緒に暮らしたいです。楽しいですよ」
「アフィーリア様を大事に育てているのは予想出来ておりました。陛下と違ってウアリウス様に懐いておられるので」
小さい頃の父様やリエル叔父様について聞きたいのにウアリウス様ははぐらかすだけでちっとも教えてくれない。
体勢についてシルヴァ公爵に指摘を受けた。ベルベットにも前に怒られたっけ。
「小さい頃からウアリウスの上に乗っかってます」
「アフィーリア様が嫌がってないなら、まあいいでしょう」
いいんだ。
「ウアリウス様。先程、ガルディオス殿より連絡が来ました。魔界を襲撃したのは、シェリー様の姉に当たるようで」
「天界の姫の姉か。武人気取りの役立たずな子さ。僕に情報をくれる天使曰く、見栄っ張りで神と次期後継者以外には高飛車だってさ」
「そんな感じだったそうですな。レオンハルト殿が魔術師団を使って尋問をしている最中だと。ガルディオス殿によると、シェリー様やアフィーリア様だけではなく、アイリーン様も連れ帰ると言っていたと」
「ふーん?」
あれ?人間界に来た人は私と母様って言ってたのに、魔界を襲撃した方はアイリーンも?
どうしてと考え始めた矢先、私に一声掛けたウアリウスに身体を起こされるとベッドの上に座った。
「アイリーンもか。少しだけ興味が沸いた。シャルル、お前尋問は得意だった?」
「すぐに対象を死なせてしまうウアリウス様よりかは得意ですぞ」
「うるさいよ」
読んでいただきありがとうございます。




