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狙いは②

 


 今、神の一族の女はこう言い放った。シェリーと魔界の姫二人を天界へ連れ帰ると。魔界の姫二人とはアフィーリアとアイリーンを指す。魔界全土に掛けられた『代償誓約魔術』が解除されて間もない襲撃。天界に影響があったと思えないがタイミングが良すぎる。そっとガルディオスに耳打ちしたレオンハルトは「恐らく天界に影響はなかった筈」と首をゆるりと横に振られた。だとするなら完全なる偶然。女は名をアステリアと名乗ると純白に輝く槍を出現させ、対峙する魔族達に矛先を向けた。



「お前達一人残らず殲滅する。魔族がいるだけで害だというのに、父上は私達兄妹に一度も魔界への侵攻を許して下さらなかった!」



 それはそうだろう、と誰かが溜め息を吐いた。嘗てロゼがシェリーを連れ去った際、天界側は大軍を率いてシェリー奪還を試みた。しかし、レオンハルトやセリカを筆頭に成す術もなく退けられた。何度繰り返しても同じ。侵攻する度に多数の天使を犠牲にするなら頻度を抑えるのは当然の成り行き。今回大胆にも魔界の地へ降り立ったのはアステリアの兄が人間界にいる始祖の魔王の首を取ると決断した為。始祖の魔王の首の下りから魔王の側近達は呆れ果てた。



「かなり前のことですがウアリウス様は仰っていました。次代の神となる天界の王子は、今までで最も強い力を持つと」

「なるほどね……自信過剰になってあの人を殺すって決めたんだ」



 ガルディオスの説明に最も呆れ果てているのはウアリウスの息子リエル。この場にロゼがいなくて良かったとしか言えない。



「天界の神は、これまで何人もウアリウス様によって殺されています」

「あの人がロゼみたいに天界を襲撃するとは思えないな」

「ええ。神の方からウアリウス様を襲撃したのです。全員返り討ちに遭っていますが」

「だよねえ」



 潜在魔力を開花させたただ一人の魔族。暴虐で我儘で横暴、そして気紛れ。この世で最も恐ろしく美しい男を殺せる相手等果たして存在するのか。勝手に魔族側で盛り上がっているのを好機と捉えたアステリアが突然ガルディオスの前に立った。瞠目するガルディオスへ挑発的な笑みを浮かべたアステリアは、腰を低くして手に槍を出現させガルディオスの心臓目掛けて突いた。


 刃の切っ先がガルディオスの衣服を、皮膚を貫き、体内へ侵入——となることはなかった。



「なっ」



 貫けなかった。刃の切っ先はガルディオスの衣服の手前で固く防御されていた。

 懐に入った、隙を突いた、油断していない、絶好の好機を使った、なのに何故貫けない、柄を掴まれている。大量の汗がアステリアの額から頬にかけて落ち、地面に水玉模様を作っていく。

 柄を掴んでいるのはセリカだ。



「見たところ貴殿の腕前は付け焼刃といったところ。何故使いこなせない、抑々使ったことがあるのか甚だ疑問な武器を持って襲撃したのですか」

「私を侮辱するな! 私は天使を統率する将軍の教えを受けていた! その私の腕が付け焼刃だと!?」

「ええ。ただ、魔界と天界で槍に関する技術に違いがあるなら、貴殿の腕前はその将軍とやらに習った大した物なのかと」



 激昂するアステリアが次に口を開きかけた瞬間——セリカの拳がアステリアの顔面に捻じ込まれた。絶対に槍を放さない誓約でも掛けていたのか、セリカの拳によって後方へ吹き飛んだアステリアの両腕は槍を持ったままの状態が保たれたまま、両肩と離れ離れになってしまった。千切れた箇所から大量の血液が噴出し、勢いよく後方へ吹き飛ぶアステリアの両肩からも血が噴出しているせいで、血を撒き散らす始末。神の一族の血は弱い悪魔が触れれば大怪我を負う。呆気な過ぎる幕引きにレオンハルトは興が醒めたと言わんばかりに興味を失くし、手を二度叩いた。瞬時に現れた部下に「周辺の土地の洗浄を。それとあの女の身柄を拘束し、死なないよう手当をしろ」と命じた。

「何だったの一体?」とアシェリー。



「吾輩達が聞きたいのだよ。威勢よく単身乗り込んで来たのはいいが碌な戦闘経験はない。今代の神は一体何を考えているのやら」



 血縁者であるシェリーに訊ねても答えは絶対に返って来ない。



「どうしたネフィ」



 呆気ない幕引きが却って不気味だと呟いたソラは横目で意識が遠くにいっていそうなネフィに気付いた。声を掛けるとネフィの意識はしっかりとしており「ああ」と頷き、今人間界にいるベルベットと念話を交わしている最中だと告げた。



「人間界にも確か始祖のじいさんとアフィーリア目当てで行ったんだっけ」

「ああ。魔界と違って人間界は、かなりド派手に殺り合ってるってよ」

「良いのかよ、アフィーリア達がいるのは神のお気に入りの国なんだろう」



 今後の影響を考え、無理矢理天界の王子を異空間に引き込んで戦っており、側にいるアフィーリアが始祖の魔王とシャルルを心配して付いて行ってしまい、ベルベットも付いて行ったのだ。異空間に抛り込まれた神の一族——基アステリアの兄は憤慨し、怒りと殺意を力に変え始祖の魔王だけを狙い続けている。

 しかし、とネフィは続けた。



「アステリアとかいう女と一緒。威勢が良いだけで明らかに始祖のじいさんが圧勝してるってさ」



 現在の肉体で三千年は生きる始祖の魔王だが、その力は未だ衰えを見せず。歴代の神で最も強い力を有していようと始祖の魔王にとれば赤子も同然の相手に負ける筈がない。



「ベティ曰く、始祖のじいさんが遊んでるのをシルヴァ公爵が小言を言い続けてるんだと」

「……ねえ」



 話を聞いていたアシェリーが誰もが抱く疑問を口にした。



「本気で始祖のじいさんや高位魔族に勝って、アフィーリアやシェリー様達を連れ去る気でいたの?」

「知らねえよ」



 アステリアの口振りからして本気だったのは窺える。詳細はアステリアの尋問が始まってからだとレオンハルトはこの場を解散させた。


 


 


 


 


 ——同じ頃人間界。地上で戦っては王都の被害が甚大では済まなくなり、魔族の魔力を感じ取ったとして今後平穏に暮らせなくなる不安を排除するべく、あっさりと異空間へ相手を抛り込んだウアリウス。彼の後を追ってシャルルも飛び込み、二人を心配したアフィーリアとアフィーリアが心配でベルベットも飛び込んだ。異空間は出現主の想像力によって場が再現される。ウアリウスの創り出した異空間は天国かと突っ込みたくなる心地好い温度、美しい花畑、透き通る青空が広がっていた。こんな場所で戦いを? と疑問が過った直後、凄まじい爆発音が響いた。アフィーリア達に飛んで来る爆風は狂いもなく組み立てられた結界によって防がれる。結界の出現者はベルベットだ。



「ありがとう」

「どういたしまして。つうか何此処……始祖のじいさんの頭の中がお花畑ってこと?」

「ど、どうかな」



 頭の中はともかく、ウアリウスは動植物が好きだ。自分で花を育て、野良猫や野犬、時に傷付いた動物を見つけては保護をする。屋敷の一棟丸ごと保護動物が暮らし、アフィーリアもよく足を運んではお世話を手伝っている。

 視線の先にいるウアリウスと憎悪や怒気を込めた相貌で攻撃する天界の王子に意識を集中させる。悪魔にとって猛毒に等しい神聖力が多数の帯となって具現化、殺気を込めてウアリウスに放たれた。逃げもせず、動揺もせず、余裕の笑みを崩さないウアリウスの眼前に帯が迫った時には……粒子となって消え去った。次々に新しい帯が放たれても結果は同じ、ウアリウスの眼前まで迫ると消えていく。



「シルヴァ公爵は全然手を貸さないね……」

「フィーだって見れば分かるでしょう。始祖のじいさんは、どう見たって遊んでる」

「う、うん」



 天界の王子は自身を次期神で歴代で最も強い力を持っていると自負していた。始祖の魔王の転生者たるウアリウスを前にしても、その絶対的な自信を持っていた。

 にも関わらず、いざ戦いが始まると実力の差は歴然。大人が赤子の手を捻るが如き差で男を追い詰めているのはウアリウスの方。

 どんな攻撃を仕掛けてもウアリウスは余裕の笑みを浮かべたまま全て屠った。傷は勿論、衣服に汚れの一つ与えられない。



「ウアリウス様。そろそろ止めを刺しましょう。意地が悪いですぞ」

「魔族の僕にそれを言う?」

「実力の差は見て分かる通り。初めは、我々が驚く隠し玉を持っているのかと警戒していましたがどうもそうではないらしい」

「大口を叩いた割に何も出て来ないから、彼が手の内を出し切るのを待っていたんだ」



「まあ」とウアリウスは、息を切らす男を冷めた銀瞳で収めた後、ゆっくりな歩みで近付いた。



「な、何故だっ、何故私の攻撃が一切通用しないのだ!?」

「やれやれ。今代の神は子供が僕に喧嘩を売る様な育て方をしていたのかな。先代の神は……ああ、僕が殺したな」



 経緯は至って単純だったねえ、と他人事のように話しながら、近付く度に後退る天界の王子との距離をじわじわと詰めていく。経緯を知っているシャルルは「教訓というものが天界にはないのか」と呆れるのみ。それを知らないアフィーリア達は二人の会話を聞いても頭に疑問符を浮かべるのみ。



「天界の王子。君は僕が狙っている王子じゃない。歴代の神より強い力を持つなら、もうちょっと僕を楽しませてくれる」

「何を」

「どうせ、一月後に開催される祝祭で王都に降臨する役目を担いたかった、っていうのが理由かな」

「っ!?」



 何故知っているのかとありありと天界の王子には書かれている。

「ウアリウス!」と勝敗は目に見えていると判断し、駆け付けたアフィーリアに振り向いたウアリウスは飛び付いた体を容易く受け止めた。



「さっきの台詞どういう意味?」

「そのままの意味。彼が言っていた歴代の神より強いっていうのは大嘘。詳しくは、この後する尋問で吐かせるけれど、見栄を張りたくてやって来た可哀想な子さ」

「それなら……」



 アフィーリアは顔面を蒼白にして震えている天界の王子を一瞥した。彼で『浄化結晶』を作ってもと抱き掛けるがウアリウスに首を横に振られる。



「最初に言った通りの相手でないとアフィーリアの中にいるリリスへの抑止力にはならない」

「そっか……」



 微かに抱いた希望は呆気なく散った。

 歩いてのんびりやって来たベルベットが魔界にも天界の襲撃者がいたと告げた。魔界の方は女で、そっちもセリカが圧勝した為被害は皆無だと念話で繋がっているネフィに教えられたのだとか。



「魔界も圧勝。こっちも圧勝。この人も魔界を襲撃した方も何しに来たの?」

「うーん……ちょっと探りを入れるか」



 指を天界の王子に向けてくるりと回し、姿が無くなるとアフィーリア達も異空間を抜けた。

 探りというのはウアリウスを崇拝する天使に聞いてみるというもの。意外と情報通らしく、知りたいことが聞けるかもしれないのだ。



「天界の王子は?」とベルベット。

「地下に飛ばした。地下は僕の許可がない限りは入れないようにしてある」



 それなら屋敷の人達に見られる心配はない。

 一旦アフィーリアとベルベットは部屋に戻るように言い渡し、ウアリウスは仕方なくシャルルを連れて地下へと飛んだ。

 残ったアフィーリアはベルベットを見上げ「ベルベット、ちょっとだけ私に付き合って」と言い、彼の手を引いて移動を始めた。






読んでいただきありがとうございます。



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