9.なぞとなぞ
ツクモは目の前の光景にドン引きした_____
「[うぇ……ボクがいない時に食べてよ。気分最悪]」
「新鮮なうちがいいのですよ、職員から頂くフカヒレ殿の鱗は新鮮では無いので……」
「食ったなら早く教えろ」
「えぇ。そうですね、教えます。ここのフロアにはなんでも作ることができる神の手を持つ方が居ます」
「[なんでも作る?そんな子このフロアにいたっけ……]」
ほとんどのN.Eを知り尽くしているあのツクモが知らないN.Eが存在していたらしい。
「ツクモは知らないのか」
「[うん。番号が近すぎると分からない]」
「そうなのか。豚、教えてくれ」
「呼び捨てとは酷いお方……まぁいいでしょう。N.E993、自立思考型間接人形と呼ばれる方が恐らく本物と変わらないレプリカを作ってくださるかと……彼はありとあらゆるものを作れます。しかし」
「何かあるのか?」
「対価が必要です」
「それだけか」
「え、えぇ……まぁ。そうですが、対価は依頼主によって変わるので……Q.4狐様と呼ばれる方よりは随分と優しい対価なのでそう身構えなくて大丈夫です。かつてあの方に願った愚かな職員のようにはなりませんよ」
「そうか。参考になった」
「何かほかにも知り得たいことがありましたらフカヒレ殿の鱗さえ頂ければなんでもご協力しましょう!」
「もういい。ツクモ、行くぞ」
豚の元を離れ入口付近に戻ると突如ツクモがふるふると身体を震わせ唸り出した。気分でも悪いのかと様子を見るがそうではなさそうだ。
「どうしたんだ」
「[鱗、出してるの。うぅ……]」
「そ、そうか」
パキパキと小さな音を立てながら新しい鱗生成されていく。肉が見えていた部分は全て鱗に覆われ何事も無かったかのようになる。回復能力が高いN.Eならではの行動だ。
「[鱗なんか固くて食べられたもんじゃないのにどうしてそんなに欲しがるのかな……やはーた、ちょっと食べてみてよ]」
「食べてみるか」
「[やはーた本気で言ってる?]」
再びドン引き顔をするツクモ。
「お前が言い出しただろ」
「[冗談が通じないなぁ……まぁいいよ。1枚だけだよ。すぺしゃるさーびすってやつ]」
剥いだ鱗を貰い受けると迷いなく口へと放り込む。特に大した味もない、薄いプラスチックをバリバリと食べているような味わいだ。
「可もなく不可もなく……食感は悪くないな」
「[うげ……も、もうあげないからね!?]」
「必要ない。例のN.Eを探しに行くぞ」
「[よし、いこう。外は危ないからちゃんと気をつけていこうね]」
扉を開け外に出た、それと同時に謎の白衣の女が八幡の首を絞めあげた。
「わ、わるいこォ!オ、オソト二、二二、ニィ!デチャだメよォォ!!」
白衣を着ているということは人間だ、同じ職員を傷つけてはいけない。彼女は正気を失いこちらがいくら声をかけても手を離さない、首を引きちぎる勢いで絞めている。
「く、そ……」
「[っ、ごめんね!!]」
ツクモが女の腕に飛びかかり大きく口を開け噛み付く__
「ギャァァァァァ!!」
悲鳴を上げると女は手を離し走り去っていった。間一髪N.Eに助けられてしまったことに不服と思う八幡。
「[やはーた大丈夫!?]」
「だ、大丈夫だ……あ、あの人は……」
「[多分感染したと思う、助けられないと思うよ……医師もどこにいるか分からないし]」
「そうなのか……仕方ない、とにかく出口を探そう」
鍵を見つけるか精神汚染を受けた彼女を探すか……混乱した彼女を元に戻すのは自分では不可能だ。専属の医師の元に連れていくしかないだろう。そうなれば鍵を探し、ここから一刻も早く脱出して助けを呼ばなければならない。一体何人この施設に閉じ込められてしまったのか。
「[やはーた……ひとまず先に出口を探そう]」
「あぁ」
歪な空間になってしまったこの施設を歩き回り歪んだ謎をときつつN.E993を探し始めた。
数十分後_____
ウェルカムと英語で書かれたいくつかの穴が空いた壁が現れた。大小様々で不気味な絵がこちらを見ている。気持ち悪い。床に落ちた紙を拾い上げるとそこには達筆で文字が書かれていた。
【1番目から3番目、後ろから24番目。おかしなゴボウ。古い新しい頭の硬い2本足では話にならない、新しく成功した汚らわしい足のない愚かな者のみ。小さき命差し出せば道は開かれるだろう】
謎の文章にツクモは首を傾げ「[とりあえず中に入ってダメだったら出てくる?]」と能天気に提案する。中に何があるか分からないというのにお気楽な頭をしていると八幡はため息を吐く。
「[右からとりあえず入ろ!]」
「やめとけ。この紙が丁寧に教えてくれてるだろ、親切なヤツだな」
不自然に置かれた英語表に指を当て八幡は「1……2……3」と数えた。わかりやすい問題だがこの汚らわしい者だけを通すという言葉が引っかかる。恐らくだが八幡を頭の硬いと指している、汚らわしい者はツクモを指しているのでこの穴の中へ自分が入ればどのような害を受けるか分からない。入らない方がいいだろう。
穴へはツクモだけを行かせ、N.Eと交流させ鍵を作って貰わなければならない。
「Cの下にある入り口だな。お前に懐いているその金魚を渡せ」
「[え?や、やだよ。この子はボクの友人だ。酷いことする気?]」
「小人の居住地は恐らくこの先にある、コイツを先に進ませないと俺達は先へ進めない」
「[ 依代が必要かぁ。なら、鱗で事足りるはずだよ]」
そっと穴へツクモがちぎった鱗を数枚投げ入れる。その瞬間__バキりという奇妙な音が穴から響いた。仕掛けが作動したらしい。
「[何かが動いた?壁の文字変わってる……]」
「これは入っても安全なのか……」
先程まで壁にかかれた文字が[welcome]から1から6の数字に変化していた。
「[さき入る?]」
「俺はいけない」
「[なんで?]」
「この文章によれば二本足の俺は入れないらしい」
「[えぇ!?ボク1人で話に行くの?ま、まぁいいけど……何かあったらやだから抑制剤1本でいいからちょうだい?使わなかったら返すから!]」
「……まぁいいだろう」
渋々1本だけツクモに手渡す。
「[ありがとう!じゃあ行ってくるからよろしくね!勝手に居なくならないでね?]」
「さっさと手に入れてこい」
「[あーい、またね!やはーた!]」
元気な声で反応したあとツクモはスルスルと穴の中へ潜り込んで行った。




