7.逃亡
職員室辛でるとN.Eが作り出した存在は跡形もなく消え、元の職員室に戻っていた。清潔な部屋であるはずの職員室は血と何かの肉片で汚れている、待っていたはずの石井はどこにもいない。
「あれ、石井さん……?」
呼びかけても返事はなく、部屋の中に自分独り。八幡はどこかへ行ってしまったのだろうと彼を探すのを諦め部屋を出る。歩けばどこかにいるはずだ、心配入らないだろう。
「おい、鍵を持ってきたぞ……あの人、どこに行ったんだ?」
ここにも彼の姿はなく、先に行ったのだと思い気にすることをやめる。エレベーターの無線を治すツクモに声をかけるとしばらく経ったあと、穴から這い出てきた。
「[やはーた!待ってた、無線治らなかった……]」
「食われていなかったか」
「[ひど!!もうちょっと心配してくれてもいいんじゃない?もぉ]」
しょんぼりした様子から一転、頬を膨らませぷりぷりと怒るツクモ。金魚達も同じように口をとがらせてパクパク動かしている、同じようなことを言っているのだろう。
いちいち反応していては時間が勿体ないので彼を無視して先程手に入れた赤い鍵を見せた。
「階段はどこにある」
「[むし?もー……えっと、ボクは全てを把握してる訳じゃないから……N.E799_釘打ち女に空間透視で探してもらう、確か部屋は奥の__]」
ツクモの言葉を遮るように奇妙な笑い声が突如フロアに響き、フロアが内蔵の中野ような空間に変化する。
「[まず、シイロくん走って!とにかく前にッ!!]」
「あぁ!」
生命を脅かす存在がこちら側に近づいて来ている、直感でそう理解した。
異様な寒気と尋常ではないほどの嫌悪感、一刻も早くここから離れなければならない。でなければ、殺されてしまう。
「アハハハハハ!アハハハハ!!」
ズズっ、ズズっと音を立てながら近づいてくる存在は2人の元に姿を見せると1度立ちどまった。
「[欲しい、欲しいわ……その身体。いい形に残せるわ……ワタシのものになりなさいアナタ達!!]」
甲高い笑い声を上げN.E_333_白石の憤怒は2人に襲いかかってくる石像のような女の化け物から必死に逃げる、しかし暫く走って行く先には足場が半分存在しない場所に出てしまった。
「[飛んで!!]」
「は!?こんな距離飛べるわけないだろ!!」
「[やってみないとわかんないでしょ!!飛んで!!]」
覚悟を決め、N.Eの言われるがまま不安定な足場を飛び石像の女から距離をとる。
「[お待ちなさい!!お待ちなさい!!なんてことなの!]」
キィキィと喚く彼女はこちら側には来れない様子、何とか助かったようだ。捕まらずよかったと安堵する2人だが目の前に背の高い人物がぬるりと現れ立ち塞がった。
背の高い人物__N.Eはじっと2人を見つめたあと口を開く。
「爪ください」
「は?」
じっと自分たちを見つめるN.Eは「爪をください」と何度も口を開き詰め寄る。
「爪ください」
「確か部屋で……爪みたいなのを拾ったこれを持っていけ」
先程、鍵を探している間に見つけていた“爪”が入ったものを八幡は発見して何となくポケットに入れていた。それを彼に渡すと目の前のN.Eはにたりと薄気味悪い笑みを浮かべ「ごはん」と呟くと爪を一瞬で奪う。
「美味しい。欲しい、金魚さん」
「[それは無理!あげたからどっか行って!!今すぐ!]」
「あい。またね」
彼が姿を消すと一気に緊張が解かれ大きく息を吐く八幡。死ぬかと思ったが無事に生存できて良かった。
「[やはーた、部屋さがそう!!はやく、行こう!]」
「そうだな」
離れないよう身を寄せあってフロアを探索すると元のフロアの状態に戻った場所を発見し、唯一扉が開いていない部屋に2人は入っていく。
部屋の中に入ると八幡は思わず固唾を飲み込む……室内には人間の部位が飾られ苛烈極まりないことになっていた。
「よくここまで来たよ、おめでとう」
白髪ロングの包帯を巻いた女_N.E799がぬっと現れ軽く拍手を送る。
「[メロちゃん、分かってたなら来てよねぇ……大変だったんだよ?]」
「男臭いとこに私が行くと思うかい?」
「[そうだね、ごめん。で、本題だけどキミの視る力で非常階段を探して欲しいんだけ__]」
「非常階段はここにある。だからキミを待っていた、隣のヤツが生きているのは予想外だったよ」
「悪かったな生きてて」
嫌味ったらしいN.Eだが先程までのN.E達と違ってまだ攻撃的な部分を感じられない。騙すために演技をしているのか本当に敵意がないのか真偽は不明だが八幡は警戒を解かず彼女の言葉を聞く。
何かあれば容赦なく抑制剤を打ち込む、ポケットの中にある銃を手で握りしめた。
「さて、鍵はどこだ?私でないとアレは開けられない代物になっている」
「鍵は俺が持っ__」
突如八幡の言葉を遮るツクモ。
「[渡さないよ]」
「ちっ、察しのいいやつだキミ」
どうやら彼女はこのフロアに自分達を閉じ込める気だったらしいが失敗に終わった。
「[やはーた。Q.2の言葉は軽く信用してはいけない、信頼もダメ。やはーた頭のメモリーにプログラムしといて]」
「もう頭に叩き込んである。お前が言わずとも渡さないと言うつもりだった」
「[そ!ならよかった。じゃあメロちゃん、【これは命令です。危害を加えることなく案内してください、反した場合は処分対象とします】]」
凛としたノイズ混じりの声ではなく、はっきりした声で八幡より先にN.E775メイに命令を降す。N.Eにそのような権利はない、言う手間が省けたがN.Eにこの言葉を問われるのは不服だ。
「おい、処分するかどうかは俺が判断をするんだが?」
「[別にやはーたが言う必要なくなったからいいでしょー?ほら、案内して]」
「分かったよ。右の壁にある本棚を退かせばある。あぁ1つ、私はこれ以上何も手を出さない。約束だからな」
「約束?」
誰と約束しているのか、もしかしてこの現象はコイツが起こしたのではと疑問に思うが彼女は何も答えない。何を知っているのか、と聞いてもそれ以上口を開く気がないのか沈黙を決め込む。
埒が明かないので八幡は話を切りあげ案内するように指示を出す。
「お喋りな男だ。ひとつ言うなら私の約束はお前達に害はない、ではいこう」
「そうか……頼むぞ
「よろしくねー!」
疑問を抱えたまま八幡はN.E799に案内され、無事に非常階段にたどり着く。
「彼らに幸運を………」
彼女が静かにそう言ったことは2人の耳には届かない。




