6.落下
エレベーターに乗り込み1人と1匹は食堂へと移動する_____
「[やはーた。やはーたの好きな食べ物ある?]」
「食べれたらなんでもいい」
「[つまんないの]」
金魚とツクモは顔をぷくっと膨らませる。
「お前はポテトフライだったな、ジャンクフードなんか食堂で提供してるのか?」
「[ボクの好物だからボク専用に出してくれるんだぁ〜!あのポテトフライは__]」
ポテトフライについて熱く語ろうとしたその時、警報音と共にエレベーターが地下6階で突如緊急停止した_____
「止まった?どういう__」
SOSボタンを押そうとした時、エレベーターから嫌な音が鳴り__体が宙に浮く。
「なっ!!」
落下する、こんな非常事態研修になかったが迅速に八幡はツクモを抱き抱え、持ち前の身体能力で手すりを掴み床に張り付いたが何故こんな事態が起こったのか。
「[シイロくん!!]」
エレベーターが下へ落下する。
貴重な存在であるN.Eを守らなければと思った瞬間八幡は意識を失ってしまった___
「シイロくん」
暗闇の中、知らない声が己を呼ぶ。
「早く起きないとお昼になっちゃうよ」
この声は……誰だ……………?
ノイズが走り、現実に引き戻される。
「[やはた、やはーた!!おきて]」
2度目に名を呼ばれた時、その声はN.E999__ツクモのものであった。彼の呼ぶ声は徐々に大きくなり、意識が現実の方へと引っ張られ八幡はゆっくりと目を覚ます。
「ぅ……ここは」
「[やはーた、おきた!すぐに起きてよかった〜痛いところはない?]」
「大丈夫だ」
「[よかった、やはーたが無事で安心したよ]」
白衣はボロボロになっているが見たところどこも怪我をしていない、痛むところもない。強いて言うなら少し目眩がすることだけだ、異常なし……職務を続行できる。
赤い大きな目で自分を覗き込むツクモに少し驚いたがそれよりもボロボロになってしまったエレベーターに驚いた。幸いドアは半開きに開いていたためフロアに出られたが閉じ込められていたら……考えたくもないと八幡は冷や汗をかく。
「くそ、どうすれば……」
現場に着いて2日目でこうなるとは思わなかった、どうすればいいかマニュアル通りに動く訳にはいかない。こうした非常事態は常に様々な憶測を立てて行動せねば。
エレベーターがどのフロアで止まったか、電気は動いているのか、N.E達が外へ出ていないか……Q.2のN.Eが外に出ていれば最悪だ。抑制剤は限られた分しかない、それでどうにかできればいいのだが難しいだろう。
「[やはーた、多分この施設で良くないことが起こったと思う。Q.4達が出たかQ.2達が暴動を起こしたか……]」
「そうだろうな」
「[ボクの方がここのことを知ってるしN.E達の扱いを分かってる。一緒に協力して地上フロアに行こう!]」
確かにそうではあるが目の前にいる存在は人間を模倣する人間では無い存在であり、我々人間に絶対に危害を加えないという保証はどこにも無い。この非常事態に肖って施設から脱走しようとしている可能性も……。
油断は禁物だがツクモの言うことも一理ある、こちらには抑制剤という武器もあるためツクモぐらいなら何とかなるだろう。
「分かった。怪しい行動をすれば抑制剤を打つ。あと、お前をQ.4に引き上げるからな」
「[分かったよ。やはーたのことは全力でボクが守ってあげるから!]」
そうツクモが宣言した瞬間、頭に奇妙なノイズまじりの声が響く。
『キミを僕が絶対に守ってあげるから……怖がらないで』
知らない青年の声に八幡は頭を抑える_____
記憶にこの声の人間は存在していない、自分が作りあげた幻聴なのかはたまた覚えてないだけであって過去に関わった人間であるのか……少し不気味だ。
「[やはーた?大丈夫?まだ頭痛い?]」
心配した顔でツクモが冷たい灰色の手で顔色の悪い八幡の柔らかい手を触る。
「ッ!」
いきなり氷のように冷たい手で触られた八幡は驚き思わず手を振りはらい、彼から素早く離れた。いくら友好的なN.Eに指定されていても人間でない以上無闇に近づくのは良くない。
「触るな、俺は大丈夫だ」
「[あ、ご、ごめん]」
人の心が存在しているのか模倣しているだけなのか拒絶する態度にツクモは寂しげに謝罪をする。少々言い方が強かったと思うが謝る必要は無いだろうと八幡は何も言わない。
「……ツクモ、上と連絡を取る何かいい案はあるか?」
「[えっと、エレベーターはおじゃんになってるから非常階段を使って上に上がる、とかかな。非常階段はN.Eが簡単に階段を使用できないように色々細工されてる……隠されてる階段の鍵を見つけなきゃね]」
「お前……詳しいな」
「[まぁね!ココはQ.2専用のフロア。この非常時で設備がきっとダメになってる……]」
最下層は人間に非友好的なQ.2のたまり場になっている、人間にとっては危険極まりないフロアだ。ここを管理する人間は施設の精鋭達が管理していると聞いたことがある。
この非常事態に恐らくここの職員達は焦りを感じ迅速に対応をしている真っ最中だろう。
「[ボク、ちょっとだけ機械いじりはちょっとできるからこのエレベーターの連絡ボタンどうにかならないかやってみるよ。なおしてる間にやはーたはこのフロアの職員室にあるはずの赤色の鍵を取ってきて。ついでに人間が生きてるか確認してきて!]」
放置するか一度迷った八幡だがN.Eであるツクモが他の者に襲われる心配はないだろうと考え彼に任せることにした。
「わかった」
「[頼んだよ!!]」
薄暗いフロアを1人突き進む_____。
エレベーターと主要フロアを繋ぐゲートは機能していないようで簡単に通過することができた、恐らく収容部屋も機能ていないだろう。
大変なことになったと思いながらゲートをくぐると向こう側には異常な光景が拡がっていた___
「酷い匂いだ…………」
至る所に飛び散る赤。
鉄臭い臭いが鼻を突き不快感を産む。
ここのフロアの人間は誰一人として生きていないのでは無いのかと不吉な予感が頭に浮かぶ__ここに生きている人間はいるのか。
辺りを見渡すと1人の人間が八幡に向かって走ってきた。
「キミ!!応援に来てくれたのか!!」
彼の着ている白衣は血だらけで頭からは血を流し痛々しいことになっている。
「すみません、自分は助けに来た訳ではなく……エレベーターと一緒に落ちてきただけで……」
「なに!?さっきの音はエレベーターが落ちた音だったのか……。キミ、中に居たのか!?怪我はしてないか?」
「どこも問題ないです。あの、他の方はどこに?」
「他の職員は分からない……俺の相棒はさっき殺された、俺は逃げられたが右足が使い物にならん」
「……すみません」
酷なことを聞いてしまった、この惨劇を見れば彼の同僚がどのような最後を遂げたのか理解できる。
「気にするな。この仕事はいつ死ぬか分からない、今日はついてなかっただけさ。あ、俺は9フロア所属の石井ユウキだ。キミは?」
「8フロアの八幡シイロです、あとエレベーターの中に__」
現在エレベーター内にある通信機をなおしているツクモについてを説明した。
Q.3という存在ではあるが非常に役に立つN.Eということを理解した石井はツクモに連絡網を託すことを決めた。無事に上に上がれるのであればなんでもいいらしい。
「上に上がる方法何かなかったっけな……」
「非常階段で上がれます、鍵がかかってますが探せば……」
「そうか!!非常階段があったな!主任が鍵の場所を知っているんだが……職員室の中にできた穴に降りていったっきりなんだ」
「自分が下りて探してきます。石井さん、この先何があるか分かりません……もし自分が帰ってこなければエレベーターにいるN.E999ツクモの元に行って助けを待ってください」
負傷している石井を連れて行けば彼が死んでしまう可能性がある、知恵あるN.Eならば真っ先に負傷している方を殺すだろう。この先何が起こるかわからない、安全を摂るべきである。
「頼んだぞ八幡くん」
わかりました、そう短く答え八幡は職員室へ真っ直ぐ向かう。フロアの作りは大体全て一緒のため迷うことはない。
職員室に入ると聞いた通り大きな穴ができており、八幡はロープを使い、大きく口を開ける穴に足を踏み入れた。
その瞬間_____幼い子向けの絵本のような世界が広がり物々しい職員室とは全く別の空間になった。
「部屋……?」
こじんまりとした部屋の真ん中に置かれた古めかしい電話がけたたましい音を鳴らし、見慣れた絵画のN.Eは静かに壁に飾られ、枯れかけた観葉植物が静かに佇んでいる。ポツンと置かれにドアの上には非常灯がついているが果たして本当に出口なのだろうか。
N.E289のような空間自体がN.Eという存在なのかもしれないと八幡は警戒し辺りを見回し電話を手に取ってみた。
「《哀れな子……凛々しい子……無知な子。早くステキな夢においでなさい》」
全く聞き覚えのない声が語りかけてきた、その声の主はそれだけ言い残し電話を切ってしまう。
訳が分からないとおもいつつ八幡は壁に貼られた紙を調べた。
【真実 偽り お前 は 偽り】
【真実 を 探せ 求む 鍵 教える】
【真実 は 3つ 見つけ出せ】
カチャッとドアの鍵が外れる音がする_____
「見つけ出せ、ね……いい度胸だ」
そう一言呟き、ドアを開けると脳内に「私のところまで真っ直ぐ進みなさい」と直接語りかけてきた。
「迷わず進め……立ち止まれば終わり。進めばいいだけなのか」
脱出の手がかりとなる声に従うしかないらしい。
「行くか」
言葉通りにひたすら前へ突き進む。
「趣味の悪い部屋だ」
1つ目の部屋は人形が敷きつめられた異様な部屋だった。可愛らしいとはお世辞にも言えない人形が一斉にこちらを見つめている、気持ち悪い光景極まりない。
一刻も早く脱出しようと八幡は出口であろうドアに一直線で向かった。
「綱渡りでもさせようって話か?」
次の部屋は細い足場が1本かかっているだけで他に進む道は無い。足場の下からは水の音が聞こえている、どれほど下は深いのだろうか。
落ちなければ問題ない、そう思い足場を平然とした態度で歩いたその瞬間背後になにか鋭いモノが通過する。
「針……!?」
このN.Eは自分の命を奪おうとしている、生存させる気はあるのか分からないが最善を尽くし脱出しなければならない。
「早く出よう」
細長い足場を駆けると針がいくつか八幡の背後を掠めていった。
振り返らず前だけを見て前方のドアまで全力で走る。足を止めれば恐らくあの針に身体を貫かれ物言わぬ体になってしまう。この空間から早く抜け出し先輩を助けなければならない、生きて早く出なければ。
八幡一気に距離を詰め、出口と思われるドアに入り込んだ__
「まだ続くのか」
ドアの先にはまた狭い部屋……様々なものが置かれてある、光っているものもあれば奇妙な音を流しているものもある、気になりはするが足を止めては良くない気がするので先に進む。立ち止まってはいけないルールを破らない。
次の部屋に進むと足場がなかった、真っ暗な穴が空いた細長く広い部屋__
「一か八かで前に進むか」
戻れば恐らく死ぬ。足を止めれば元の場所へ帰ることができないだろう。あのN.Eを長く放置するわけにはいかない。
八幡は息を深く吸い、覚悟を決め足を1歩踏み出す。
「……このまま行けそうだな」
1歩踏み出しても体は地面に落ちることはなかった。
「進もう、早く出られるといいんだが」
言葉を信じ前だけ進むとあっさりクリアすることができた、先程のように横からなにかを投げつけられていたらもう少し時間がかかっただろう。
何事もなく次の部屋に進むと何も無いただ紙切れが1枚ドアに貼り付けられた部屋に出た。最初と同じ部屋と一緒である。
【勇気 か 欠落 か はたまた 両方 か】
【次 の シナリオへ】
【嘘 つき は 1人】
【真実 を 私 に 捧げよ】
まだ続くのかと溜息をつきながら八幡はドアを開き次のお遊びに付き合う。
ドアの先には食卓を囲むように人形達が並んでおり、机の上にはナイフと古びた紙が1枚、部屋の隅に大きな箱。暖炉には火が揺らめいている。先程の部屋とは打って変わって豪華な作りだ。
机の上に置かれた紙を手に取りN.Eからの指示を確認する。
【Who is out of the group?】
誰が仲間外れだ?とただ一言書かれている、仲間はずれを見つけて差し出せばいいらしい。とても簡単な命令で時間がかからないもので良かったと安堵する。
「仲間はずれを見つけるだけか……見つけたあとはどうするわだ?ま、ナイフで壊すか暖炉で燃やす……あの箱に入れる、適当に試せばいいか」
嘘つきの人形をどう判断すればいいのかと考え、試しに八幡は人形に「すみません」と一言声をかけてみる。
「【ハァイ、アタシは人形よ。あの青の前にいる黄色の子は嘘をつかないの】」
キンキン声でそう言葉を発する赤い人形はくすくすと笑うと静かになった。
「なるほど。よくある嘘つきゲームか」
一通り人形に喋りかけ嘘をつく人形を、考察する。一体だけ人間を主張し、誰からも会話に混ぜられなかった人形が見つかった。恐らくそいつが仲間外れだろう。
「よし、コイツだな」
黒い男の人形を手に取りナイフで滅多刺しにするとクスクスと笑う声が聞こえドアが開く音が鳴った。
机の上の紙には【ruthless】という文字に変わっており、持っていたナイフやぐちゃぐちゃになった人形以外は全て消えてしまった。
「無慈悲なやつと思われてるのか、壊せと言ったのはお前だろ?わけがわからない」
小言を吐いたあと次の部屋に向かう__
「普通の部屋?俺の部屋か……?いや、少しちがうな……」
そう言うと部屋の机に紙が現れる。先程まで現れていた紙とは違い普通のコピー用紙に書かれているそれは酷くくしゃくしゃに折れ曲がり汚い。
最後の嫌がらせなのかと思いながら紙を開けば短い文章が書かれていた
【鍵 は お前 が 知っている】
【真実 を 探せ】
手紙を机に置き、自分がいつも鍵を置く棚に向かう。
「ここだな。少しあたりも見てから行くか……?」
鍵を見つけ元来たドアをくぐるとそこは先程までいた職員室であったが9フロアにいたはずの先輩が見当たらない。足元に奇妙な肉片が落ちているだけだ。
手にした赤い鍵を握りしめ先輩を探したが返事はなく、どこかに行ったのだろうと結論付けて八幡はクノスケのところへ戻る_____




