4.新人研修
翌日__地上1階にある寮からそのまま地下へ降り、職場に向かう。
午前中の業務は鈴宮と野村ペアと共にQ.2__N.E289の血液採取・餌やりに同行せよとのリーダー片山からの指示を受けていたため部屋を出る前、八幡は念入りにN.E危険度Q.2の対処を復習しておいた。
「迂闊に行動をしてはいけないと……ふむ」
何かあっては遅い、何かある前に知っておいて損は無い。知識は武器だ、経験は無いがあるのと無いのでは天と地の差だ_____
「早上好!よく寝れたネ〜?」
「お、おは、よございます。や、八幡さん」
ゲートの前に昨日職員室に居座っていた鈴宮とディスクワークを行っていた野村が八幡を出迎える。
そして、横にN.E999もいた_____。
友好的な雰囲気を醸し出している鈴宮に対し野村は一度も目を合わさない。
この仕事はチームワークが大事だ、Q.4になれば必ず4人での作業が求められる上に他フロアで働く職員と合同で作業を行う時もある。彼女は合同作業には普段外されているのだろうかと疑問でしかない。
「おはようございます鈴宮さん、野村さん」
「いい挨拶ネ!関心安心!ネ!サシミ〜」
「そ、そうですね……」
話を振られようやく野村と目が合ったかと思えばまた逸らされる、慣れるまで彼女と2人きりの作業は大変なものになりそうだ。いや、仕事を行う時はこのたどたどしさは消えているかもしれない。
「元気ないアルネ……。まあいいヨ!今日は皆でお世話してるQ.2の部屋に招待するヨ!超危険な怖ァい怪談君の所に!ちゃんと学ぶネ!!」
「怪談……確かN.E289でしたっけ?」
昨日N.E999がその個体について面白おかしく語っていたことを再び思い出す。Q.2の部屋に早速潜入できるとは思っていなかった八幡は少しだけ胸の昂りを感じた。
「好!イイヨー!学習意欲大事ヨ〜!じゃ、コレ持ってるヨ」
「え、あ……分かりました」
半強制的に蓋付きのバケツを2つ渡される。少し重量があり、中からちゃぷちゃぷと水音が聞こえているがこれが今回訪問するN.Eの餌なのだろう。
「あの、1ついいですか?」
八幡は一度言葉を区切り、自分の隣で空中に浮くN.E999に視線を飛ばす。
「なぜN.E999がここに?餌付けにコイツは必要ないのでは?」
午後からN.E999の世話の予定だったのだが何故か世話をされる本人がここで優雅に宙を泳いでいる。2匹の金魚達がわざと自分の顔に己の尾鰭をわざとあててきて鬱陶しい、邪魔だと手を振っても離れない。
確かN.E289は隣にいるN.E999と仲がいいと書いてあったはず、遊び相手に連れていくのだろうかと思う八幡。
「必要だヨ。N.E999が入 居ればまァ変な怪談に襲われることないネ、あの子のオタモダチ怪談は生臭い魚は嫌いみたいだからネー」
「僕臭くないんだけど。リャンくん最低、こんなんだから恋人いないんだよ」
あまり臭いは気にならないが確かに近くに居ると生臭いかもしれないがそこまで酷くはない、しかし臭いか臭くないかと問われれば臭いの方になるだろう。魚がベースであるのならば致し方ない。
「ワタシ、君達が恋人だから人間なんか興味ないアルよ。N.E達とワタシ結婚してるのヨ!!相思相愛ネ!!」
「おげ……むり…………」
完全に引きつった顔のN.E999。
「あ、あの……はやくN.E289の所にい、行きましょう……餌を与えるじ、時間が」
「そうネ、じゃあ八幡クン!N.E289の部屋にいざ、レッツゴー!ネ!」
興奮する彼を先頭にN.E289が保護されている部屋へ向かう___
《身分の確認が取れました。入室を許可します》
認証キーをかざし、隔離されたQ.2の部屋に入室する職員とN.E達。
「地下にこんな学校が……」
「この部屋はN.E289が作り出した異空間だからネ、ちょー広いネ」
N.E289の部屋は学校そのままになっており、思っていた以上に広い。
湿っぽくホコリやカビ、多少血なまぐさい臭いが混じった室内は非常に重い雰囲気を放っている。
「うーん、今日もホコリ臭い!!キンちゃん引きこもってるカイくん連れてくるヨ!命令ネ!!」
「はいはい……やはーた。勝手にこのフロア以外行っちゃダメだからね」
「さ、駆け足するヨ!」
部屋の主を探しにN.E999は先に進む。人間にとってはここが非常に危険な空間だがN.Eの彼には何ら問題ない。
数分後、手枷と足枷を付けたN.Eと顔の見えない少年達がやってきた。
一般的な手錠ではなく機械で作られている手錠を嵌めた少年は非常に不機嫌な顔をしており、隣にいる顔の見えない少年には嵌められていない。N.Eは2体なのだろうか。手が空いている故に顔の見えない少年はN.E999を抱きしめ……いや、絞め上げている。
N.E999の耳や尾鰭がプルプルと震えSOSを出しているが助けてやってもいいのだろうかと八幡は悩む。
「カ、カイはなしてぇ……きょ、きょーはやはーたいるしいっぱい遊べ……ぐぇっ」
職員の言葉を無視し顔の見えない少年はN.E999の蛇のような細長い舌を伸ばしては縮め、伸ばしてはまた縮めてを繰り返し遊ぶ。完全に遊ばれている。
「N.E289。N.E999をは、離して……ください。で、でなければ枷を外しませんよ」
「ぅ。分かったごはん……たべたい。よこせ」
食欲の方が勝ったのかN.E999を突然離し、職員達が持つバケツに指を指す。解放さたN.E999は彼から一目散に距離を取った。
「中身が出ちゃうとこだった……はぁ。ちゃんと手の枷取ってね」
「分かってるヨ。カイちゃん今外すからすとーぷ、ネ」
認証キーで彼に付けられた手錠が解除される、首にあるものはどうやらつけっぱなしらしい。
「N.E289い、今から1時間自由です……も、もし問題行動を起こしたらそ、即拘束しますから」
「フフ、新顔のこの八幡クンが遊ぶヨ!“3人”で仲良く、ネ!ワタシ今日はパスヨ」
「3人?N.E999を含めると4体いますけが……」
目の前にいるN.Eは3体、それもQ.2と呼ばれる危険なN.Eが混じっている。
八幡を含めると4人になるがどちらか片方とだけ交流をするのだろうかと疑問を持つ。
「この顔の見えないヤツはN.E289の身体の一部ネ、この空間自体がN.E289。核がこの身体、核が人間型ならQ.2に分類されるヨ」
「なるほど……勉強になりました」
「基準がガバガバなのネ。何かあったらこの身体に抑制剤を打つヨ……あとトイレ以外の1階は安全だから覚えるヨ!」
「分かりました」
「じゃ、3人で遊んでくるネ!これも大切な仕事、サボっちゃやーネ!ワタシ達は採取とか色々終わらせてくるヨ……」
手をヒラヒラさせながら注射器を見せる鈴宮。
「あ、サシミ、‘指切り’するネ」
「う、うぅ。わ、私ですか……ぅ」
「N.E289。わ、私と“指切り”し、してください」
「うぇ……なんで人間なんかと」
「仕方ないネ、N.E289ワタシと指切りヨ!!」
「ま、まぁそれなら許す……」
鈴宮は嫌そうに顔を顰めるN.E289と半強制的に指切りを交す。
「人間には害を与えない、N.E999と八幡くんはちゃんと時間内に返すこと」
「ん。指切った」
謎の指切りを交わした後、リャンはそのまま八幡の隣に移動しパシパシと軽く喝を入れた。
「よし、八幡クン頑張るネ★タイマー渡すから鳴ったら手錠を嵌めるヨ!首は取っちゃダメネ、抑制剤打ち込む機能が作動しなくなるヨ、死ヨ!」
「分かりました」
タイマーと手錠を受け取りポケットに収納する。
「ワタシ達もう行くヨ、食事と遊び頼むネ!時間になったら戻ってくるヨ」
「た、頼みました……」
初めてのN.Eとの触れ合いが始まる__




