14.脱出
ツクモが小さな体から信じられない力で八幡の腕を掴み引っ張る、振り返ってしまったことに八幡も危機を感じて走り出した。忠告を破ってしまったことへの焦燥感と恐怖が襲う。
「[キツネ!僕が願う!!]」
「お前は既に叶えた」
「[やはーた、走りきって!!]」
「分かっている!!」
ツクモを抱え鳥居まで全速力で走り抜ける。
「[よし、抜ければ!!]」
鳥居を抜けたその瞬間、眩しすぎる光が彼らを包む。そして2人はばらばらになってしまった。
「うっ……」
真っ白な部屋に八幡は一人、顔の見えない男性職員が傍に立っていた。
「シイロくん、薬の時間だよ」
水が入ったペットボトルと錠剤を2つ職員は八幡に渡すが八幡は自然とそれを拒否した。自分の意思で動いた訳では無い、勝手に体が動き言葉を発し拒否したのだ。
「飲まない」
「うーん、飲んでくれないと先生偉い人に怒られちゃうんだ。お願いだから飲んで……?」
低いわけでも高い訳でもない落ち着いた優しい声で八幡に懇願し、八幡は仕方なくそれらを手に取り指示通りに飲む。味は付いていない、有害物ではないらしい。
大人しく指示に従った八幡を見て職員は良かったと頷き、ポケットから金魚の写真を取り出し、自慢げに八幡に写真を1枚1枚見せた。
「うちの子の写真、どの子も可愛でしょ?」
「別に」
「こっちの妹が面倒を見てる金魚たちはエンソとサンで……きいてる?」
「聞いてない」
「はぁ……君はもう少しだれかと交流して!ちゃんと外の世界にも出なきゃダメだよ?」
「関わればしがらみがつく」
「もー……」
白衣の青年は写真をポケットに戻し、カートから注射器を取り出す。大きめの3本の試験管がカートに乗せられている。
「じゃ、血液検査するから腕出して」
「ん……」
「麻酔塗るね、痛くないようにするけど痛かったらごめんね」
「別に、そんなの痛くない」
アルコールで腕を拭いたあと塗り麻酔を丁寧に腕に塗りつけ血液を抜き取っていく。少し色がくすんでいる、普通の人間の血の色とは若干異なった色だ。
「前回の検査は特に異常はなかったよ、健康的で安定しててこの調子で行けば外に行けるよ」
「嘘つき」
「え?」
「先生は下手だな」
「……ごめんね」
注射器を抜き取り、金魚のような落書きをした絆創膏を注射跡に貼り付ける。
「よし。じゃあ僕は他の子たちのたころにいくからいい子にしててね、暴れちゃうと僕じゃ君を庇いきれないから」
去り際にそう八幡に声をかけた青年は少し寂しそうに告げ、部屋から出ていく。
その瞬間、観ていた現実が放送終了後に映し出されるカラーバーで埋め尽くされ、激しい頭痛に見舞われる_____。
目を覚ますとそこはN.E1000の部屋でツクモがN.E1000、そして鈴宮が楽しそうにお茶を嗜んでいた。
「ママン、お寝坊さんが起きたみたいよ」
「あ!起きたネ!?シイロくん死んだみたいに起きないからすっごく心配したヨ」
「[やはーた起きてよかった!からだ、どこも痛くない?]」
あの夢は一体……あの青年が自分に見せた写真に映る少女はリーダーにそっくりだったと八幡は考える。自分の姿は黒い影のような存在でいつ頃の時かはっきりとは分からなかった、シイロという名前を確かに呼ばれたので自分であるとは間違いない、あの記憶は完全に自分にはなくいくら考えても思い出せない。
過去の記憶を引っ張りだしながら百面相をしている八幡に鈴宮は励ますように肩を叩く。
「ま。シイロくんが無事で良かったネ!ワタシが居ないと2人ともおっちんでたヨ、先輩を敬ってくれていいアルヨ?」
「あ、ありがとうございます……」
「とりあえずリーダーを探して元凶をとっちめるか一旦様子見か判断して貰わなきゃワタシ達勝手に犯人のN.E893_降りかかる好奇心マァ子ちゃんを処分できないからネェ」
「降りかかる好奇心……倒せますかね……」
「超グッドに悪い子捕まえるしかないヨ、7フロアにいる永久幽閉中のマァ子確定誰かが解放しちゃってこの有様だヨ」
「[マァ子を解放するなんてほんと厄介なことしてくれたよね……オリジナルが入れば簡単に閉じ込められるけどオリジナルはもう処分されちゃったし……]」
「あれはもう処分するしかないネー……ってことで処分用の薬をパクってきたヨ!!
八幡の手に拳銃型の注射器を渡してくる鈴宮。
「これを頭にぶっ刺すとN.Eは死ぬヨ、人間には無害だけど刺される時みたいに痛いらしい気をつけるヨ」
「わ、わかりました……」
「遭遇したら気合いで打ち込むネ!!とりあえずリーダーを探しに行くヨ。鍵はリーダーが持ってるネ」
「わかりました」
「[ボクも行く!!]」
「必要なものがあるならトクベツに持って行っていいわよ。リャン君とママンの為ならね」
「レディ、ワタシ君のこと大好きネ」
「あら、それは嬉しいわね」
部屋の中にあるものと言ってもめぼしい無い、ひとまず八幡は部屋の中を漁り、“バール”を一つだけ選び持っていく。
そのままN.E1000の部屋から出ると廊下は古びた校舎の廊下に変わっていた。
「わぉハクくんの侵食と喧嘩してるネ!!学校の怪談たちもきっと襲ってくるヨ、なにかあったらそれで対処するネ」
「分かりました」
「ハクくんが侵食を食い止めてる間はどこかのフロアへ移送されることはないと思うヨ、だから2手にわかれてちゃっちゃと見つけるヨ。シイロくんはツクモくんと、ベテランしごでき天才なワタシはひとりでいくネ!」
「色々と余計な言葉が多かったですが分かりました」
二手に分かれリーダーの行方を探すがなかなかリーダーはどの部屋にも見当たらない、鍵のかかった数々の教室や史料室を見廻るがどこにもいない。
フロアに蔓延る危険な怪談たちを持ってきた武器で対処するが殴ったところでN.Eは死なない、またすぐに起き上がって八幡たちを襲ってくる。怪談達を交わしているが逃げても逃げても湯水の如く湧いて出てくるヤツらに殺意が湧く。
「[やはーた、僕が怪談たちを惹きつけるからリーダーをお願い!巻いたら匂いでやはーたの跡追うから!!]」
「頼んだぞ」
迫ってくる怪談達に向かってバカにする発言をいくつか叫ぶと簡単に怪談達はツクモの方へ走っていく。
「とにかく全部ドアを壊して見つけるか」
手に持った鈍器を使いドアを1枚ずつ壊しリーダーの姿を探すが侵食されたフロアは別のフロアの部屋と繋がっているせいで9フロアの部屋にたどり着かない。
痺れを切らしながら数個目のドアを壊し、中に入るとそこには八幡やツクモ、知らない職員の写真が大量に貼られた部屋にたどり着いた。
「な、んだこれ……」
小さく声を漏らす。
八幡の目の前には血だらけになった野村の遺体が転がっていた。
「野村、さん……」
彼女の頭部は八幡の足元に転がっており、目はくり抜かれ口は血だらけだった。
「ん……?この資料……」
野村のそばには資料には数々には自分についての資料やツクモについて、そして過去に失踪した【八幡 しいろ】という青年についての機密ファイルが無造作に置かれていた。
彼女は何かを知ってしまって殺されたのか、はたまたまここに来た……いや、ここに潜んでいるN.Eに殺されたのか。亡くなっている彼女の遺体を踏まぬよう彼女が見ていた資料をひとつ、またひとつとファイルを手に取り資料を読み漁る。
【1999年廃棄済み書類_復元処理完了_】
【八幡しいろ 9フロアリーダー 1999年×月×日23:11にQ.4の部屋へ無断で立ち入りが映像に残されていた、当日彼は非番であったが無断で施設に立ち入っていた。Q.4への立ち入り前日に彼が担当するN.E416研究員を処分すると伝えた直後だったため、N.E429お狐様と接触し願いを叶えようとしたとみられる。接触後彼の姿は施設から消え去り、近くにいたN.Eは人間と会話“不可能”であるN.E999しか居なかったため操作を打ち切った。】
【N.E416について(重要機密)
彼は1999年に不良品として処分される予定だったが彼の職員としての素質が発見され、施設の職員として配属させることにした。この内容はフロアリーダーやN.E総括職員などの役職を持つ者のみ公開を許されている。外部への情報漏洩を一切禁ずる。】
【過去に削除されたデータ最高機密
Q.4フロアで見つかったN.E999の身体は八幡しいろから作られた身体ではないかとされる、また八幡しいろとしての記憶をN.E416が保有していたため何らかの科学では証明できない現象が起こったとされる。N.E416とN.E999を密接に関わらせ反応を観察する。】
【八幡シイロについて
彼は人間とほぼ変わらないが__】
資料を読み漁っている中、突如ドアが開き息を切らして片岡が入ってきた。
「八幡、ここにいたのか。随分と探したぞ」
「リーダー、自分も探してました。9フロアの職員が何人か死亡してます。野村さんもこのような姿に……」
「……そうか」
「リーダー、非常階段の鍵を」
「八幡、この資料目にしたか?」
「いいえ」
嘘をつく。
「本当に、見ていないのか?」
「はい、見てません」
答えてはいけない、よくない。それだけは確実にわかる。
「研究員、この資料を見たか?」
「見ました」
突然口が八幡の意思に反して開いた、なにかに強制されるかのように真実を口にしてしまった。
口を思わず塞ぐが後の祭り、片岡の目は酷く冷淡な目に変わる。あの親しげな雰囲気とは打って変わって恐ろしい。
「そうか……」
小さくそう呟いたその瞬間__八幡のこめかみに鋭い痛みが走り顔を顰める。抵抗しようと手を伸ばすが手は言うことを聞かず、体は地面に崩れ、意識が遠く向かっていく。
「返してもらうぞ」
意識がかすれる中、片岡の低い声が脳内に響き意識が完全に遮断された……はずだった。
「シィロくんは処分されないよ、ちゃんと話し合うから安心して」
ふと、濁った水の中のような視界の中で話し声が聞こえてくる。
「あれはもう使えない」
「もうアレは使いどころがない」
「失敗だな」
1人の青年が自分を守るかのように立ち、声の主達に「この子はまだ処分するには早すぎます!!」と反論をするが顔の見えない研究者達はその声を突っぱ嘲笑う。使い物にならないと野次を伸ばされる中青年は振り返り笑いかける。
「大丈夫。画面越しの彼らの好きにはさせないよ」
クスクス、クスクスと子供たちが笑う。
「処分予定にされてる子達を救ってください、お願いします。願いを叶えて」
からん、からん、からん__。
しゃんしゃんしゃんしゃんしゃん。
「いい目をしている、叶えてやる。叶えてやる……お前が代わりになれ」
ちゃぽん。




