13.センパイ
「……して、…………ぁ………れじゃ」
カチャカチャと金属が触れ合う音が脳内に響く。目を開いているのに視界が黒一色に包まれている上に手足も動かない、全くこの状況を把握できず声を出そうとするが声帯まで奪われていた。
「あぁ、起きたか」
頭上から凛とした聞き覚えのある声がかけられる。
「悪いがキミの身体を兄に返してもらう、キミの中には兄がいる。私の兄が数十年お前の中にいる、お前の中に」
「り、だー……なぜっ!」
片岡の柔らかく冷たい指が八幡の頬に触れ、頭部に何かしらの装置がひとつ、またひとつと手際よく付けられていく。抵抗することができない八幡は必死に策を考え、試すが全て無駄に終わる。
「私の兄は施設に口封じされた、あの日は兄の誕生日でサプライズを考えていた。兄は約束を破らない人だった。その日いつもの時間、兄は帰ってこなかった。その日から帰らなかった。その日から兄とそっくりな別の存在が生まれた」
脳内に砂嵐が走る、誰かが自分を呼ぶ__
『N.E416研究員Qくんだね、僕は八幡しいろっていいます。名前が似ててなんだか親近感湧くなぁ』
楽しそうに喋る男、ガラスの向こう側にいる冷たい目をした他の職員達。
『彼はまだ処分対象にする必要はないよ、植木さんリストを変更しておいて』
『本気ですか八幡さん……コレ、どこも利用できませんよ』
『いいからいいから』
この記憶は、知らない……この記憶は自分の記憶ではない、知らない何者かの記憶だと言い聞かせる。自分は人間である、八幡シイロであると信じたいがしかし、
「お前、味覚を感じないだろ。N.E999の声は人間には理解できない、N.Eにしか聞き取ることができない。N.Eを仕留められるだけの力がお前には備わっている、人間にそんな怪力を持つやつは居ないぞ」
味は理解できなかったのはただ自分が味に執着してなかったからと思っていた。N.E999の声、ツクモのノイズ混じりの不気味な声を自分はいとも容易く聞き取ってしまう。あの化け物のような身体能力は……人間であると照明ができない。
自分は、人間では無い……N.Eと同じ…………化け物だ。
頭に流れるあの映像は全て自分の消された記憶なのかと、知っている全ての記憶は嘘偽りでできた偽物の記憶なのかと八幡は声を上げたくなった。
自分は人間では無かったことに頭が締め付けられる。
「まずは……そうだな、消した記憶を戻そう。兄の記憶がどう頭に絡みついてるか分からん。私の事を忘れられては困るからな」
その瞬間脳にとんでもない激痛が走り、八幡の忘れていた……消されていた過去の記憶が溢れ出ず__
「N.E416、“命令だ、記憶を今からリセットするが抵抗をするな”」
「分かりました」
施設の職員達は定期的に記憶をリセットし、八幡を絶対的に支配していた。
「N.E999だな、今日からお前の世話を担当することになった八幡だ」
「[新しいやはーた、だね。よろしくね]」
ツクモは気がついている、重要な研究N.Eであるからこそ完璧な警備が必要となる。その警備には必ずN.E416が使用され、ツクモの行動を監視、制御を行う。
同じような生活を何度も何度も繰り返しココで行ってきた。
『対価は既に払った、馬鹿な人間に感謝するがよい。お前を利用価値のある存在にしてやろう』
「は……?」
『甘味な幻想にとけるといい』
しゃわしゃわ、クスクス、ちりんちりん、ありとあらゆる音が混ざり合い脳髄を突き刺す。
「シイロくんは絶対に処分させない、何とかするから……また明日ね!」
記憶の中で微笑んだあの人は一体どこへ行ったのだろう。
「よし、記憶は正常に戻ったか。後は脳を取り出してN.E999の脳と組み換えをして……」
片岡の手が再び八幡の顔に濡れた時、大きな物音が部屋に響く__
「リーダー悪いケドね、シイロくん返して貰うヨ!!」
「[リーダーごめんね!!]」
「な、お前__」
ガシャンと何かが倒れる音がして八幡の身体は持ち上げられ視界が開けた。
手術台の下に倒れる片岡は部屋にやってきたツクモと鈴宮を睨み、起き上がりメスを突きつけ八幡に命令する。勝ち誇ったかのような笑みを浮かべている片岡だが鈴宮達は動じない。
「N.E416“命令だ!!”鈴宮を殺せ!!ツクモは気絶させて連れて来い!!」
指示を出されたと同時に身体の自由が奪われるが間一髪のところでツクモが八幡の腕に力いっぱい噛みつき、八幡の脳は痛みにより処理が行われなかった。無効化された隙に鈴宮が八幡を担ぎ、3人は無事部屋から脱出することに成功した。
「よし、ここなら大丈夫ネ……シイロくん、起きるヨ」
腕に鋭い痛みが走ったと同時に視界が元に戻り体も自由になり、辺りを見渡す。どうやら八幡は途中で眠りについてしまったらしい。
「ここは……非常階段?」
8フロアから6フロアへと書かれたプレートが光っている電灯。クレヨンで塗りつぶしたかのような階段。奇妙なものが床のあちこちに転がっていて全てにただならぬ気配を感じる。立っているだけで寒気が酷い。
「怪我は多分治ってるヨ。リーダーから鍵は取って上に上がれる。ケド……」
「[次はマァ子のテリトリーだよ、彼女の箱庭。理想郷……かな]」
「ゲロゲロに甘ァくて脳がデロデロに掻き回されるクソみたいな場所ネ!」
声高らかに鈴宮はそう言ってドアを開く__
「さ、ここのフロアから鍵と、非常階段探し出して出口目指しちゃおネ」
フロアに踏み出し辺りを見渡す__どこを見渡してもふわふわな甘ったるい光景が独占し、施設とは思えないほどの奇妙な優しい風、暖かい光に包まれている。
「[やはーた、ここでは絶対1人にならないで。心の中に入ってあの子は心を自分の好奇心のままに支配する……リャンくんが居れば多分大丈夫ボクらはだから絶対だよ!!]」
「ツクモくん多分は余計ネ、ワタシどの子よりも強いネ、無敵ヨ!!安心するネ」
警戒を怠らないように3人は色鮮やかない空間を調べ始めた。奇妙な生き物が自由に空間を動き周り白衣を着た謎の化け物達が八幡達に「ここにいればもう安心だ」と語りかけてくる。白衣の胸元には身分証明書があり彼らはココに取り込まれたものだろう。
時折奇妙な石像が3人を襲ってきたがどれも脅威になり得ない、その上八幡が少し蹴っただけで簡単に壊れ、石像の中からどこかの鍵が出てきた。
「どこかの部屋の鍵だネ、儲け儲け!いいヨ!!」
鍵をポケットにしまい別の手がかりを探しに行く。
「素敵な絵だね……なんか、小瓶が埋め込まれてるけどこれやはーたとってみて!!」
「わかった」
「[ありがとー!!]」
自身の人間離れした力で壊さぬよう慎重に絵から小瓶を抜き取る、小さな小瓶の中には透明な液体と金箔のようなものが中で入り交じり、八幡の手の中でキラキラと発光していた。
「[わーきれー!!]」
「無くさないようにシイロくんが持ってるヨ、爆発しそうになったらすてるネ」
「分かりました……」
小瓶をポケットに入れ部屋から出ると廊下一面に奇妙な絵画達が均等に並び、ヒソヒソと話す耳障りな声と悲しげな少女の声が響いていた。
「なんだ、この声は」
「[なに?なにか聞こえるの?]」
「ツクモくんには聞こえないアルか?」
どうや、ツクモにだけには聞こえていない様子でその声は置くにある銅像から聞こえているようだった。
静かに喋る絵画たちは前を通る度に口々に「偽善者」と言葉を投げ、クスクスと笑う。
「会いたい、会いたい、会いたい……そばに居るのに離ればなれ……あぁ悪魔さえいなければ……」
悲しげな少女は鉄格子に閉じ込められている、複雑な鍵が必要なようで持っている鍵では開けることができない、特にしゃべりかける必要もないのでそのまま通り過ぎようとした。
くすくす、ケラケラ耳触りな声は次第に大きくなり不愉快感がどんどん増していく中鈴宮が突如足を止め__
「チョット、キミたち失礼だヨ。黙れ」
きぃんと耳をつんざく高音が脳内に響き八幡の脳内に喋ってはいけないという命令に縛られる。
「[やはーた大丈夫?]」
「ぁ、ごめんごめん。シイロくんは喋っていいヨ。驚かせてごめんヨ!!」
「お気にならさず……」
「ガタガタ言われるの嫌いなのヨ、ささ。出口目指すために頑張るヨ〜」
「[えいえいおー!!]」
絵画たちの廊下を抜けると古びた屋敷にたどり着く。
「埃臭い……」
「怪しい箱がありますね」
3人はちいさな箱がポツンと机の上に置かれているのを調べる。
「鍵かかってるネ」
「これで開けばいいんですが」
手にした鍵を使い箱の中を開けると地図と謎の紙が1枚出てきた。どちらも小さい子がクレヨンで描いたようなもので地図はこの館の見取り図、謎の番号が書かれた紙が入れられている。
「この暖炉の中を通れば出口なのか」
しゃがみこみ中を確認するとドアノブのようなものを発見した、そのまままわそうと横に捻るがドアノブは回ることがない。ドンドンと強く叩いてみるが開く様子はなく、八幡はあきらめて外に戻る。
「[うーん、鍵穴がついてる]」
持ってる鍵では開かない、どうやら部屋から探さなければならないらしい。
「よし、カギ探しするヨ!!ツクモくんはこのエントランスでなにか無いか探すネ!!シイロくんは一つ一つ念入りに部屋を調べるヨ、で、ワタシ適当に部屋探してくるネ!」
「ふざけないでちゃんと探してくださいね」
「分かってるヨ!!」
別れて部屋を調べ周りかくされているであろう部屋の鍵を探しに行く。
暗い部屋から命からがら鍵の頭の当たりをゲットする、人形が追いかけてくる恐ろしい部屋から真ん中あたりをゲットする。そして最後に無限に続く廊下からひたすら歩きした部分をゲットし、全て合わせると鍵はひとりでにくっつき、ここを出られるはずの鍵が完成した。




