11.安置?敵地?どっちどっち?
コツコツコツという音とススッ、という空気が切れる音が木霊する。
「[次は……お!8階だ!!きっとリーダーもリャンくんもみんないるよー!!]」
安全地帯にたどり着けたことにほっと一息吐く八幡。リーダーや先輩達が居てくれるだけで心強すぎる。
冷たい階段に八幡の足音とツクモの着ている服が擦れる音が響く。酷く心細い、他の職員達は生きているのだろうか。N.E達が自由に歩き回るこの施設はもはや地獄そのものだ。
「自分たち以外に生存しているといいんだが……」
「[大丈夫!きっとしてるよ!!8フロアがいちばん安全だもん、Q.4の階層じゃなくて良かったねぇ。設備が無事だといいんだけど]」
施錠された赤い扉を警戒しながら開く。その先が侵食されてないことを祈るがその祈りは数秒で打ち砕かれてしまった。__
「[し、死んでる……]」
「死んでるな」
非常口の傍に横たわる2つのカラダ。
「[ま、まだど、どっちか生きてるかもしれないよ!!起きて!!おきてー!!]」
「この2人は死んでいる、無駄だ」
「[……]」
「ここにいるか分からないがとりあえずリーダーを探すぞ」
「[分かったよ……]」
律儀にツクモは横たわる2人を廊下の隅に座るように並べ人間の弔い方法を真似をするかのように手を合わせる。恐らく前の職員が教えたのだろう、本当に物好きなやつだったらしい。
弔いを終えたあと、2人は薄暗い侵食された8フロアを探索し始めた。隣にいるツクモを含め4体しか居ないこのフロアは非常に安心感がある、先程のフロアと大違いだ。
「[リーダーどこぉ!りーだーぁ!リャンくんでもいいよー!]」
「別のフロアにいるかもしれないな」
「[会議室とか研究室にいるのかなぁ]」
「上にまた上がるしかないか……」
静かなフロアは人の気配が全くない、N.Eが収容されている部屋はどれも開いた様子はない。恐らくこのフロアは安全だが何故死体が2つも転がっていたのか不思議だ。
他のN.Eがこのフロアに侵入してきたのかはたまたまQ.1であるN.E217_ニイナ以外の2体が彼らを襲ったのか。
「職員室に行ってくる、お前はここで待ってろ」
「[あーい、早く帰ってきてね]」
半分侵食されてしまった扉を無理矢理こじ開け職員室の中に入る。
「誰か生きてますか?」
返事はなく、声は静かな職員室に消えていった。仮眠室に入ってみるも誰もそこにはおらず、侵食された歪な空間が存在しているだけ。不気味な空間から早く出ていこうと給湯室を開けたその時、大きな悲鳴が上がる__
「きゃああぁぁ!!!お願いします、殺さないでぇぇぇ!!」
祈りを捧げるかのようなポーズをとる見覚えのある女性の姿。
「野村さん、生きてたんですね。よかったです」
「ぁあぁ、あぁ!!八幡さん!!ご、ごめんなさい……てっきりN.Eかと思いましたっ」
「気にしないでください、ここに隠れていただけですよね」
「そうです、そうなんです……このフロア、他のN.E達が入り込んで大変なことになってるんです……抑制剤もうなくて」
「抑制剤……すみません。切らしてます」
嘘だ。混乱している彼女に今抑制剤を渡せば手当り次第に打つ可能性があるため八幡は彼女に嘘をついた。抑制剤はまだ2本ほど残っている。
「一緒に探しに行きましょう、何かあったら自分が対処します。リーダーを探しに行きましょう」
「や、八幡さん一挙にわ、私と行動してくれるんですか!!」
「自分じゃ力不足かも知れませんが……」
「いえ!いえいえ!!八幡さん!!一緒に行きましょう、リーダーを見つけてここからでましょう!」
野村が勢いよく八幡に飛びつき、縋るようにそう言った。なかなかの気迫に八幡は思わず1歩足を引く。果たして先輩でもある彼女を自分の力で何とか外まで助けられるのだろうか。
弱音を吐かぬよう慎重にしなければ恐らくまた彼女は引きこもってしまうだろう。
「行きましょう、N.E999もいます。何かあっても大抵は何とかなります」
「N.E999もいるんですかっ!今日の運勢、本当に1位だったんだ……ついてます、今日は人生で初めてついてる日です!!」
「よ、良かったですね……」
人生で初めてとはどれほど今まで彼女の人生は悲惨なものだったのだろう……可哀想にと思いながら2人で職員室を出る。
職員室の外には大人しくツクモが座って待っており、金魚たちと戯れていた。2人が部屋から出てくるとパッと顔を上げ犬のようにくっついてくる、こう見れば割と愛らしい生き物なのかもしれない。
「[おかえりやはーた!!サシミさんも無事でよかったー!!]」
「あなた、が生きててよかったです……Q.2じゃなくて良かった……」
「同感です」
Q.2の気配は今のところない、しかしここで長居すればいづれ何者かがここに現れるかもしれない……早く離れた方が吉だろう。
「先輩、このフロアは探しましたか?」
「い、いえ……わ、私職員室にずっといました。リャンさんが見回りに行ったっきり帰ってきてなくて……その、ご、ごめんなさい」
「[リャンくんお馬鹿だからキケンなトコにどんどん突っ込んでそうだねー!]」
「野村先輩大丈夫ですよ。リャン先輩もついでに探しましょう……非常階段の鍵と場所は知ってますか?」
「えっと……鍵はリーダーが持ってて、場所はN.E217の部屋にあります」
野村が有力すぎる情報を提供してくれたおかげで面倒な階段探しをまた行う必要がなくなった、あとは何事もなくN.E217の部屋にたどり着ければ万々歳というところだがそう上手くはいかない。
「離れないでくださいね、守れないので」
「は、はぃ……」
侵食された8フロアを2人と1匹で探索する。人の気配はなく、他のフロアと比べ狭いフロアであるはずの8フロアが異様に部屋数が多く無かったはずのエリアが誕生していた。恐らくこの未知の領域が生成されたことによって職員達は行方知れずとなったのだろう。
人間だけでここを動き回るのは危ない、何かあればこの隣にいるN.Eのツクモを使って何とかすればいいと八幡は考えながらフロアを進んだ。
「[やはーた、この先だめ。戻ろう]」
「戻った方がいいな……」
ゾクリ__長たらしい廊下を進む途中で感じた違和感。彼らの視線の先は真っ赤な電灯が光っており、異様な重々しい空気を漂わせていた。旧校舎を思わせる内装……これはあのN.Eが逃げ出したと直感した。
「ぇ……あ、え?どういうことですか?え?」
突然、ただならぬ気配を感じ取り足を止める八幡とツクモ。野村は訳が分からず思わず八幡の腕を掴み当たりを警戒するが何も変わらない廊下だけが続いている。
引き返そうと振り返った瞬間全員が言葉を失う……。
「なに、これ……嘘ですよね?へ?なんで?」
「[道が……]」
「壁になってるな」
歩いてきた道は真っ白な壁と化しており、来た道を戻ることができない。
「[サシミさん、ココ……Q.4のフロアになってるから絶対ボクから離れないで!]」
「ヒィ!!9フロアになってるんですか!?ここが9フロア!?無理無理、私皆さんの荷物になっちゃいます……八幡さん、見捨ててください!!」
「先輩を見捨てたりしないので安心してください」
「[いいね!やはーた、その心は大事だよ!死なないように出口を探そう……]」
一際危険な雰囲気を放つフロアを慎重に進んでいく、部屋へ続く扉はない。
部屋があっても決してここのフロアの部屋には入ってはいけない、その部屋がQ.4の部屋に繋がっていた場合全員仲良くあの世へ行くはめになるだろう。
「行き止まり……」
道の先に着くとそこは何もない、不気味な絵が……臓器が飛び散った絵がポツンと置いてあるだけだった。
「そ、そんな……わ、私たち出られないってことですか?」
「[そんなことないよ、大丈夫。大丈夫だよ、出口は必ずあるから……出られるかもしれないし、部屋に入ってみる?]」
「そうだな。何かあったらツクモ、お前が気を引いて時間を作れ」
「[ぅ……まぁ頑張るよ]」
恐る恐るドアを調べる、どのドアも固く閉ざされ開きそうにない。しかしいくつかのドアにはパスワードが設定されたドアがあり、そのパスワードはご丁寧にヒントのような絵が隣に飾られている。
絵に触れ数字が書かれていないか触れてみると絵が急に口を開いた。
「《私に触れるなど礼儀知らずもいいとこだ。お前、なぜここにいる?》」
「はぁ……なぜいると言われましても……」
「《通りたくば暗号を解け。暑さから寒さに変わる時、それが答えだ》」
仕方なく八幡は4つのそれぞれの絵を調べる、それぞれオレンジ、赤、青、緑と色が別れているがよく見ると数字が隠されていた。オレンジには【9】赤には【4】青には【1】緑には【8】と。
「[季節のことかな?緑は春とか?赤は夏、それからオレンジは秋で青は冬!ってことは]」
「8491だな、伝えてくる」
「さ、流石です八幡さん……た、頼りになる……」
絵画に番号を伝えると跡形もなく絵が焼け落ち、ロックが解除された音が廊下に響きドアが現れる_____
「[や、やはーた……は、はいる?]」
「入る。お前と野村さんは後ろからついてきてくれ」
「[まって、やはーたそれじゃ危ないからボクが先に行くよ!!2人が後ろを着いてきて!]」
我先にドアの中へ入るツクモ。
言われた通りに2人はその後を追いかけるように部屋に入っていった_____。




