6.断罪の鉄槌
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王国騎士団の本部前。
重厚な石造りの門前には、鎧を着込んだ屈強な騎士団員たちが警備に当たっていた。
「シルヴィ! シルヴィーッ! 出てこい!」
門前で怒号を上げるギャレットの姿は、見苦しいの一言に尽きた。
左腕に薄汚れた包帯を巻き、狂気じみた表情で叫ぶ男に通りがかる市民たちは不審そうな視線を向けている。
「おい、貴様。ここは王国騎士団の敷地内だ。無闇に騒ぎ立てるな」
警備の騎士団員が剣の柄に手をやりながら、ギャレットへ冷たく告げた。
「うるさい! 俺はここにいるシルヴィの婚約者だ! シルヴィを出せ! シルヴィに俺の腕を治癒させろ!」
「婚約者だと……?」
騎士団員たちが顔を見合わせていると、敷地の奥から静かな足音が近付いてきた。
白を基調とした治癒師の制服を身に纏ったシルヴィだった。
その洗練された姿は、以前の疲弊しきっていた頃とはまるで別人に見えた。
「シルヴィ!」
ギャレットはシルヴィの姿を見ると、パァッと顔を輝かせた。
「おいシルヴィ! 勝手に診療所を辞めて騎士団に入るなんてどういうつもりだ!? まあいい、早く俺の腕を治癒しろ! それから騎士団なんてとっとと辞めて、すぐに俺の元へ戻って……」
ギャレットがシルヴィに向かって手を伸ばそうとした瞬間だった。
「控えよ、無礼者」
地響きのような低音とともに、ガタイの良い騎士が現れた。
ガタイの良い騎士は王国騎士団第三部隊隊長・エミリアンだった。
「な、なんだお前は!」
「私はシルヴィ治癒師の直属の上官だ。不躾な民間人よ、騎士団員に対して気安く触れようとするな」
エミリアンの圧倒的な威圧感にギャレットは一瞬怖じ気付いたが、すぐに持ち前の身勝手さを爆発させた。
「上官だか何だか知らんが、シルヴィは俺の婚約者だ! 俺のために治癒能力を使うのがそいつの役目なんだよ! おいシルヴィ、さっさと治癒しろ!」
ギャレットはエミリアンの忠告を無視して強引にシルヴィの手首を掴もうと一歩踏み出した。
「ぐはっ!?」
一瞬の出来事だった。
エミリアンの合図とともに控えていた二人の騎士団員が即座に動いた。
ギャレットの両腕は背後に捻り上げられ、地面に身体を叩きつけられた。
「痛ぇぇぇっ! 離せっ! 俺を誰だと思ってるんだ! この街の聖人・ギャレット様だぞ!?」
「黙れ。騎士団員に対する暴力行為および脅迫、並びに敷地侵入未遂だ」
冷たく見下ろす騎士団員たちの下で、ギャレットは助けを求めるようにシルヴィを見上げた。
「シルヴィ! 何とか言えよ! こいつらを止めろ! 痛ぇんだよ、早く治癒しろよ!」
シルヴィも捕らえられたギャレットを見下ろした。
その瞳には以前のような同情も罪悪感も涙もなかった。
ただ、無関心だけが存在していた。
「ギャレット。言ったはずよ。私はもう、あなたのために治癒能力は使わないわ。婚約も無効になったから」
「なっ……!?」
「口約束の婚約だったし、あなたの私に対する扱いはみんな知ってる。私は王国騎士団の専属治癒師になったの。騎士団の規律により、個人的な理由で治癒能力を使うことは固く禁じられているわ。もし破れば、私は処罰されるの」
「そんなの誤魔化せばいいだろ!? 前みたいにこっそり……」
「誤魔化す理由がどこにあるの?」
シルヴィの冷徹な一言が、ギャレットの言葉を遮った。
「あなたがこれからも“治癒移行”して誰かを助けるのは自由よ。好きにすればいいわ。だけど、これからは私のいないところでどうぞご勝手に」
「待ってくれ、シルヴィっ! 腕が痛ぇんだよ! さっさと治せよ! シルヴィーーーッ!!」
絶叫するギャレットは、騎士団員たちによって引きずられていった。
それが、シルヴィがギャレットを見た最後となったのだった。
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