3.限界と強引な手
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ギャレットを甘やかさないと決意したシルヴィは、治癒師として患者と真摯に向き合うことも改めて決意した。
翌日。近隣の村で発生した大規模な土砂崩れの影響で、診療所にはいつもより多くの患者が運び込まれていた。
「シルヴィさん! 次は右脚の裂傷!」
「はい、すぐに行きます!」
シルヴィは次々と運ばれてくる患者を治癒していく。
だが、シルヴィの治癒能力は無限ではない。
いつも以上に患者の数が多いだけではなく、重傷者も目立った。
重傷者を治癒すれば、その分治癒能力の消費が多くなる。
今日は何人治癒したか分からないが、治癒能力の消費を考えるとかなりの人数を治癒していた。
(今日はこの調子だとあと三人で私の限界を超える。それ以上治癒すれば、倒れちゃう。でも、待っているこの人たちは絶対に治癒しないと……!)
シルヴィは頭の中で自分の限界を計算し、補助員に伝達して人数の制限を設けた。
汗が額から垂れ落ち、シルヴィの視界はチカチカと点滅し始める。
「ありがとうございます! おかげで痛みが消えました……!」
「良かったです。でも、数日は無理をしないで休んでくださいね」
感謝する患者に微笑みかけ、シルヴィは残り二人の患者の治癒に取りかかろうとした。
その時だった。
バタン!と診療所のドアが乱暴に開かれた。
「シ、ルヴィ……っ!」
診療所へ転がり込んできたのは、ギャレットだった。
服はボロボロで、ところどころ赤く染まっていた。
「ギャ、レット……?」
「痛ぇ……! 痛くて死にそうだ! 早く治してくれ、シルヴィ……!」
ギャレットは必死の形相でシルヴィへ告げる。
どうやら、大規模な土砂崩れでの救助活動で数人分の怪我を“治癒移行”してきたらしい。
ギャレットの目には、痛みと苦しみに耐えながら順番を待っている患者たちの姿はまったく見えていなかった。
ギャレットは順番を待つ患者たちの列を強引に押しのけ、シルヴィに向かってよろよろと歩み寄ってくる。
「ギャレット、見て分からないの? 今は無理よ」
シルヴィは冷静にギャレットへ言った。
「はぁ!? 何言ってるんだ! この俺がこんなに血を流してるんだぞ!? いいから早く治せよ!」
「今、あなたを治したら順番を待っている人たちを治癒できなくなるわ。私は今、限界ギリギリなの。この人たちは朝からずっと痛みに耐えて待っていたのよ」
「知るかそんなこと! 俺を優先させろよ! 俺はお前の婚約者だぞ!?」
ギャレットが怒鳴ると、周囲がざわついた。
周囲の視線など気にせず、ギャレットはシルヴィの細い手首をぐいっと乱暴に掴んだ。
「なっ!? やめてっ、ギャレット!」
「つべこべ言わずに治せよ!」
ギャレットはシルヴィの掌を、自分の“治癒移行”した傷口へと押し当てた。
その瞬間、怪我を察知してかシルヴィの意思とは関係なく、シルヴィの治癒能力が発動してしまった。
ブワッと黄金の光が溢れ出し、ギャレットの裂けた皮膚が急速に塞がっていく。
「良いぞ良いぞぉ……!」
ギャレットが声を上げる中、強制的に治癒能力が発動したことでシルヴィの身体から血の気が引いていく。
ギャレットが“治癒移行”した怪我が多かったため、思っていたよりも治癒能力を消費してしまったのだ。
「う……あ……っ」
激しい目眩がシルヴィを襲う。
頭の中を直接針で刺されたかのような激痛が走り、視界が歪んでいく。
シルヴィは膝から崩れ落ちそうになった。
「よしっ、治った! 流石、シルヴィだな!」
完全に怪我が治ったギャレットは、シルヴィの体調の異変にすら気づく様子もなく、自分の腕をぶんぶんと振り回して確認した。
「まだ現場に怪我人が残ってるんだ! もっかい行って、“治癒移行”してくるわ!」
治癒が終わったのでシルヴィの手を離すと、ギャレットは振り返りもせず、爽やかな笑顔を浮かべて診療所を飛び出していった。
自分の株をさらに上げるために。
「あ……ギャレット……」
シルヴィはその場にへたり込んだ。
視界は真っ暗になりかけ、頭がぐらぐらと揺れる。
だが、シルヴィの目の前にはまだ治癒を受けられていない患者が残っている。
「だ、大丈夫ですか……!?」
「大丈夫……大丈夫ですよ……」
シルヴィは青くなった唇で、声を絞り出した。
ここで自分が倒れれば、この患者は治癒を受けられなくなる。
他の治癒師もいるが、後回しにされてしまうだろう。
患者に不安を与えるわけにはいかなかった。
シルヴィは最後の力を振り絞り、患者へ掌をかざした。
そして、最後の患者の治癒を終え、スタッフルームへ移動した直後。
糸が切れた人形のように、シルヴィは冷たい床へと倒れたのだった。
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