第十二話
「……チッ。次から次へと新しいのが、沸いて出てきやがって。うっとおしいんだよ!!」
八神君の突然の登場にシンが怒鳴り声を上げた。
シンの禍々しい魔力が質量を持って、暴れ狂い、その魔力に反応し、奴の周りの地面がバキバキと音を立ててめくれ上がっていく。
先程から、戦いに横槍を入れらてばかりだったシンがついに切れたのだ。
ビリビリと空気が振動し、シンから伝わってくる強烈な怒気に私は、腰が抜けてその場にへたり込んだ。
……なんて、魔力なの。
奴の本気の魔力を目の当たりにして私は、情けないが身体がぶるぶると震えるのを感じた。
しかしそんな空間を塗り潰すほどの魔力を目の当たりにしても、八神君に動じる気配は全くない。
私は、今まで見たことない様子の彼に動揺した。
……あれは、本当に私が知っている八神君なの?
「チッ、むかつく目をしやがって……。まずは、お前から逝っとくかぁっ⁈」
バゴンっという鈍い音とともに、奴が今まで立ってい場所が、砕け散り次の瞬間奴は、八神君の目の前へと肉薄していた。
「あぶーっ‼︎」
私なんかじゃ視認すら出来ない速度の超重量級の大剣による一撃が、八神君を襲った。
まるでその場が、爆発したかのような衝撃が巻き起こる。
そしてその衝撃が巻き起こるのと同時に一つの影が、吹き飛ばされるのが見えた。
「八神君ッ!!」
私は、堪らずに叫び声をあげ、抜けた腰になんとか力を込めたち上がろうした。
しかし、後ろから誰かに肩を掴まれ邪魔をされる。
振り向くとそこには、まだ目元に涙を浮かべているが、口元に微笑を浮かべ落ち着いた様子のステラさんがいた。
「ヒカルなら大丈夫だ。」
「ヒカッ⁈いやそんなことより大丈夫って、八神君今吹き飛ばされたんですよっ⁈」
私は、思わずステラさんに怒鳴った。しかし、彼女はまるで気にせずもう一度同じ言葉を繰り返し視線を移した。
「ヒカルなら大丈夫だよ。ほら」
彼女の視線の先を見るとそこには、苦痛に顔を歪めるシンの姿とその姿を油断なく睨めつける八神君の姿があった。
「……えっ、嘘、でしょ。」
先程の吹き飛ばされた影は、八神君ではなくシンだったのだ。
「……馬鹿な。」
シンは、立ちが上がり驚愕した様子で呟やいた。
先程迄の怒りは消えておりシンは、目の前の少年八神光に対して興味を持った。
今の一撃は、それなりに本気のもので手心を加えたつもりなどシンには、全くなかった。
文字通り必殺の攻撃を破られ逆に軽くない手傷を負わされた。
こんなことを魔人の最高位である自分に行なえる人物などこの世界では、両手があれば事足りるぐらいしかいない。
「……貴様何者だ?」
シンは、目の前の少年を自分の敵足りうる強者として認め問うた。
「八神光。……元勇者だ。」
光の淡々とした態度にシンは、好戦的な笑みを浮かべた。
「元?はっ、まぁなんでもいい。お前程の手練れと戦うのは、久し振りだからな。お互い楽しもうぜ。もちろん死ぬのは貴様だがな!」
「ーっ」
言うが早いが、シンは今以上の魔力を身体に注ぎ込み更なる強化をその身に施し、光に肉薄した。
ーー疾いっ。
初撃のような力任せの乱暴な攻撃ではない流れるような連撃に光は、舌をまく。
応戦し、一撃、二撃と剣を振るう。
お互いの剣がぶつかる度に、その衝撃で大地が割れ、大気が焦げる。
彼らの戦いは、天災さながら更に激しさを増していく。
「……すごい。あれが八神君のほんとの実力なんだ」
梓達は、自分とは次元の違う強者達の本気の戦闘に目を奪われていた。
しかしステラは、久し振りに見る光の動きに少し違和感を感じていた。
「……なにか、違う。……ヒカルは、まさか本気じゃない?」
「……もうそろそろか。」
何度目かの剣戟の後に光がポツリと呟やいた。
「あぁ?」
光は、大きく横薙ぎに剣を振るいそれと同時にバックステップをしていったん距離を置いた。
「時間稼ぎは十分だってことさ。もうすぐ、ここに僕達の本隊がやって来る。知ってるかもしれないが、二千人以上の大部隊だ。つまりこの戦いは、僕達の勝ちってこと。お前らの負けだ。」
光の一方的な勝利宣言を聞き、シンは、底冷えするような憤怒をない交ぜにした声で言った。
「……やってくれたな、貴様。」
「……今すぐに部隊を全て撤退するなら、見逃してもいい。もう勝負は着いた。無駄な戦いはしたくない。」
「ふざけるなよ?見逃してやるだと?千人だろうと二千だろうといくらでも連れてこい。雑兵などものの数に入らん。貴様を殺して本隊諸共殲滅するまでだっ‼︎」
「……。」
「なんだ、その目はっ!今すぐ、やめろおおおお‼︎」
シンは、光が向ける憐れみの視線に激昂し、再び人外の膂力でもって剣を振るった。
殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。
「おおおおおお‼︎」
自身の一部を炎化させ、それを剣に纏わせ相手に叩きつける。
鉄でさえ一瞬で蒸発させる程の熱量を持ち、全てを熱滅させる一撃は、どんな堅牢な守りであっても防御することは、不可能。
まさに一撃必殺の攻撃だ。
シンは、雄叫びをあげ自らの最大の奥義を放った。
「……残念だ。」
光は、そんな渾身の一撃をなんでもない剣の一振りで薙ぎ払った。
「はっ?」
シンは、あまりにもあっさり切り飛ばされ、宙を舞う自らの腕を視界に捉え間抜けな声をだした。
そして遅れてやってきた激痛に悲鳴を上げる。
「ぐあああああ!」
光は、腕を切り落とされ痛みに喚くシンを視線に捉え、振り切った剣をそのまま大上段に構える。
構えた剣は、少しずつ光を帯びてやがて刀身を視認することが、困難なほどの輝きを携える。
目の前の光景に、シンはここに来て初めて自分の死を直感した。
この少年は、自分程度では、殺せるはずも無い遥かな高みにいたのだ。
もしかしたら、その力は自分の主君にさえ届きうるものかもしれない。
「……何か言い残すことは?」
感情を極力なくした目で光は、絶望と怒りの表情でこちらを見つめるシンに話しかけた。
「……さっさと殺せ。」
……その瞬間、世界を覆いつくしてしまうかのような莫大な光が弾けた。




