第十一話
「今の攻撃は、悪くなかったぜ。相手が俺じゃなくて他の十魔将だったら、そこそこいい線いってたかもな。ま、でも、そろそろ死んで……ん?なんだこれ?」
軽口を叩いていたシンを覆うようにキィンという耳が痛くなる高音がして、半透明の立方体が現れた。
「ふーん。まだこんな事が、出来るんだな、いいぜ。せいぜいあがいて見せろや。」
「……くそ、化け物め。」
ステラさんが、悪態をつきながらシンに向かって剣の腹を向けている。どうやらあの結界は、彼女が作り上げみたいだ。
しかし術を行使しているステラさんの様子を見るとあまり長く持ちそうにない。
必死に剣持って押さえつけるようにしてるが、剣は、ガタガタと揺れており今にも弾き飛ばされそうである。彼女は、真剣な眼差しで一瞬私達の方を見るとすぐに視線を敵に戻して言った。
「…………ここまでだ。後は、私が引き受ける。私が合図をしたら奴に向かって一斉にそれぞれが用いることが出来る最大の魔法を放て。そしてそのままここから徹底するんだ。」
「……なっ!」
「そんなこと出来るわけないでしょ!!」
「嫌にきまっていますっ!」
ステラさんの急な申し出に私達は、動揺を隠せなかった。
しかしステラさんは、視線はそのままにそんな私達に困ったような微笑をたたえ、頭を振った。
「大きな声を出さないでくれ。傷に響く。別に私だってまだ死ぬつもりは、ないよ。ちゃんと奥の手だってある。ただ、その奥の手っていうのが問題で、下手をしたら君達を巻き混んでしまう可能性があるんだ。だからここは、私に任せてひいてくれ。お願いだ。」
「……そんな私は、あなた達を助けに来たのに」
「ああ、十分に助かったよ。君がいなかったら、奴を引き付けるのにさらに苦労しだろう。それに君が来てくれたおかげで、こうして撤退のチャンスが生まれたんだ。」
ステラさんは、私の言葉に諭すように優しく返事をし、話を続けた。
「奴さえ少しの間、抑え込めれば、君達なら他の魔人を切り伏せて先遣隊の兵士達を率いて撤退することが、出来るはずだ。これ以上犠牲を出さないためにもやるしかないんだ。」
「ならステラさんじゃなくて俺が残ります!俺だって勇者だ。」
橘君の言葉を聞き、私やリサは、息を呑んだ。
「気持ちはありがたい、が駄目だ。ユウ、君はまだまだ弱い。今はまだ私の方が強いよ。それに先程も言ったが私には奥の手がある。タダでやれてやるつもりなんてないよ。」
「そんなっ」
橘君の懇願にも似た言葉をステラさんは、却下した。彼女は、先程から奥の手が、あると言っているがそんなのは、恐らく嘘だろう。もし本当だったとしても成功する可能性なんてほんとんどゼロで奇跡を願うようなものに違いない。
なんでかは分からないが、私には、ステラさんが自分の死を覚悟しているのが分かった。
「……ステラさんは、なんで……なんでっ。死ぬのが怖くないんですか⁈」
気持ちを抑えられず私は、ステラさんに取り乱しながら詰問した。
ステラさんは、そんな私の目を見て、また諭すように話始めた。
「……私のいた世界にも勇者がいたんだ。なよなよしたどうしようもない弱虫な人なんだけどね。それでもその人は、どんな困難からも逃げたりしなかった。だから私もそうするんだ。それが例えどれだけ分の悪い賭けだとしても……くっ」
ステラさんは、話の途中で苦悶の表情を浮かべた。
「ステラさんっ⁈」
「いい加減作戦会議は、十分か?まさか今更逃げるなんて冷めたことするんじゃねえぞ?」
結界の方を見ると、奴はいやらしい笑いを浮かべて力任せに魔力を結界にぶつけていた。
ステラさんは、額に大きな汗を浮かばせ何かわやこらえるような表情をする。
「……もう結界が限界だ。私が合図したら……いいね?」
「……はい。」
橘君が何も言えない私やリサの代わりに歯を食いしばり答えた。
「うん。ありがとう。」
そしてステラさんは、大きく息を吸いみ、
「ーー。」
今まさに声を張り上げようと口を開いた。
瞬間、空から何者かが、降ってきた。
ズドンと鈍い音がして、土煙が舞い上がる。
「あ?」
新たな乱入者にシンは、めんどくさそうに顔をしかめ、反対に私達は、その人物に気づき呆気にとられた。
私や橘君、リサは、彼を見て何も言えず、ステラさんは、彼の姿を認めると大きく目を見開いた。やがて、驚愕の表情から泣き笑いのような表情に変わると彼女は、先程までの気丈な姿が嘘のように涙を流しながら、彼に抱きついた。
「おっと。」
抱きついてきたステラさんを彼は、ちょっと照れた顔をして受け止め優しく頭をなでながら彼女の耳元で何事かを呟やいた。
ステラさんは、何度も何度もうなづき涙を片手で拭いながら彼女が、先程まで扱っていた剣を差し出した。
えっ?何がどうなってるの?
私いや、私達は、目の前の光景に完全に思考停止してしまった。
「ありがとう、ステラ。」
ステラさんからまるで当然のように剣を受けとった彼は、今だ泣き止まない彼女の頭を撫でながららお礼を言って結界が、解けこちらを不機嫌そうに睨みつけているシンに向かって構える。
見るとその顔には、静か怒りが浮かんでるのが分かった。
いつもの自信なさげな表情とは違い、見たことのない強い意志を持った眼差しだ。
「さぁ、反撃開始だ。」
そして彼は、八神ヒカルは、まるで仲間の危機を救う勇者のようにそう宣言した。




