第十話
そこは、まさしく戦場だった。
魔法による激しい閃光と爆音。絶えず聞こえる雄叫びや悲鳴。これだけ離れているのに匂ってくる生々しい血の香りや何が焼けたような鼻につく香り。
そして何より地面に倒れて動かない明らかに命を失った人たち。
「……あっ」
私は、間抜けな声を出し、生まれて初めて見る戦場に足がすくんでしまった。
ひどい状況だった。
魔人族と思われる黒い鎧を着た集団が、味方であるカレラ王国、アーク王国の騎士達を圧倒的な力でもって蹂躙していく。
彼ら連合騎士団も決して弱いわけでく、むしろ先遣隊は、選りすぐった戦士で構成されていた。
しかし、もともとの種族差による能力の違いが大きい上にしかも今回は、数の上でも劣っていた。
先遣隊側は、せいぜい400人程だが、魔人族側は、その1.5倍はありそうだった。
魔人族の黒い波に徐々に抑えこまれていく騎士団の様子に私は、声を失った。
そんな時に一際激しい閃光と爆音が響き辺りに渡った。
その爆音は、この闘いの最前線で起こったみたいで、巨大なクレーターが出来上がっていた。
私は、見覚えのある魔法にはっとした。
……あれは、橘君の魔法だ。まだ、生きてる!闘っている!
自分の頬をばしんと叩いて、気合いを入れる。
……そうだ私は、みんなを助けにきたんだ。
自分の目的を思い出し、私は、大きく息を吸って戦場の中心に向かって再び走り出した。
目についた敵に片っ端から魔法を放ちながら、最前線になんとか辿り着いた時、明らかに他の魔人達とは違う際立った鎧を身につけた魔人と橘君達は、激しく闘っていた。
橘君達は、明らかに苦戦しており、その表情に余裕はない。
私は、咄嗟にそいつに向かって魔法を放つ。
「我が敵を焼き尽くせ、バーンフレイムッ‼︎」
私の放った直径3メートルはある巨大な炎は、狙いたがわず敵にぶつかり轟音を響かせ爆発し、あたりに炎を撒き散らした。
不意打ち気味に決まった攻撃に敵の魔人は、10メートル程吹きんだ。
「「ーーっ‼︎梓⁈なんでここに⁈」」
今の魔法の余波に顔をしかめながら、私に気づいた橘君とリサが二人揃って驚きの声をあげた。
「二人とも説明は、後でするよ!!それよりも今は、こいつをなんとかしないと‼︎」
私の参戦に動揺している2人に向かって大きく声を張り上げた。
「ったく!分かったよ!」
「梓っ‼︎気をつけてこいつかなり強いよ!」
「そうか、二人の知り合いということは、君がもう一人のカレラ王国の勇者だな。貴女の加勢感謝する。」
2人の返答に紛れて聞き覚えのない声が、耳に入った。
声のしたほうを見るとそこには、金色の髪をしたまるで女神様のような女の子が立っていた。
全身は、血や泥で汚れてしまっているが、それさえなければ、何処かのお姫様と言っても通用するな容姿の持ち主だ。
「私の名前は、ステラ•グローリー。君と同じ異世界出身の勇者だ。」
この人が、私達以外の勇者4人の内の1人。『光輝の剣』、ステラ•グローリー。
「……おい。なんだかよくわかんねーが、話はもう終わったか?」
「っつ‼︎」
凄まじい怒気を孕んだ声に思わず身体が竦む。
いつの間にか先程吹き飛ばした魔人が、立ち上がりこちらを睨みつけていた。
「いやー、結構効いたわ。お前なかなかやるな。せっかくだしもう一回自己紹介しとくか。俺の名前は、シン•ヴァンガード。魔人軍、十魔将の一人だ。冥土の土産に覚えて置くといい、さ‼︎」
シンという魔人は、話終わるやいなや巨大な剣を召喚し一瞬で私の距離を詰め、剣を横薙ぎに振るった。
「っ梓!」
まるで暴風のように迫る刃から、私は、咄嗟に腰から剣引き抜こうとするが、
……ダメ、間に合わないっ。
私は、剣での防御を諦め、込めれるだけの魔力を身体に込めて衝撃に備え歯を食いしばる。
しかし、私とシンの間にステラさんが入り込み、彼女がシンの斬撃を受けて止めてくれた。
金属と金属がぶつかる甲高い驚きが響き渡った。
「油断しないでっ!」
「ちっ」
シンは、ステラさんに攻撃を防がれ舌打ちをするとその場から離れようとする。
「逃がすか!!」
橘君が、隙を見せたシンに渾身の力で剣を振り下ろした。
「我が敵に永遠の凍結をフリーズストライク‼︎」
さらに氷雪系の魔法をリサが、放ち橘君の剣を受け止めている奴を足元から凍り付かせた。
「梓!ステラさん!」
橘君の呼び声に私は、我に返り目の前で動きが取れずにいるシンに向かって魔法を唱えた。
「全てを焼き尽くす灼熱の炎よ、我が呼びかけに応え我が敵を討ち滅ぼせ!インフェルノ‼︎」
「でああああ!!」
今日、何度目になるか分からない轟音が私の耳朶をうった。
橘君が、飛び退くのを合図に私の今出来る最大の魔法とステラさんの光輝く剣の一撃が、敵を襲った。
「はぁはぁ。」
私は、地形を変える程の大威力の攻撃の産物として巻き上がった大量の砂煙を睨みつけた。
大量の魔力消費に回復が追いつかず肩で息をしてしまっている。
正直手応えは、あった。
相手は避けることが出来ず、私達の攻撃が直撃したはずだ。倒せなくてもそれに準ずるぐらいの傷は、与えたはずである。
しかし結果は、私の期待を裏切るものだった。
「……そ、んな。」
土煙が収まり、目にした光景に私は、絶望が混じった声をだした。
勇者と呼ばれる人間側最強の戦力である自分達の連劇を受けてなお奴は、ヘラヘラと笑いを浮かべその場に普通に佇んでいた。




