9.もう、誤魔化せない。
「メイ……大丈夫?」
「うん。ひんやりして冷たくて、とっても気持ちいい。痛みも引いてきた気がする!」
不安げなリコに対し、メイは明るい笑顔で答えた。
ルーがメイの右手をやさしく包み込む。
どうやらルーは、メイの火傷を冷やしているようだ。
「ありがとう、ルー」
「ぷぷ~」
褒めるようにルーの頭を撫でると、嬉しそうにばいんばいんと体を弾ませた。
◇◆◇
その後、私たちは院長室へ戻った。
スープがこぼれていたテーブルはひどい有様だったが、リコが手際よく片づけてくれた。
ようやく落ち着いたところで、私はメイに声をかける。
「手はどう?」
「大丈夫です。もう痛くありません」
そう言ってメイが右手を上げると、それまで手を包み込んでいたルーの触手が、するりと離れた。
手の甲にはまだ少し赤みが残っているものの、ひどい火傷にはならずに済みそうだ。
「よかった……」
ほっと息を吐く。
その時——。
テッテレー♪
また例のシステム音が鳴り響いた。
目の前に、見慣れた半透明のウィンドウが現れる。
『ありがとう、ナディアさん!』
『メイの手当てをしてあげたね!』
そして、続けて新たな文字が現れる。
『手当てボーナス 1000ポイント!』
『さらにルーがお手伝いしたボーナスで500ポイント!』
え、まさかのルーの分まで?
ていうか! 1000ポイントと500ポイントって桁おかしくない!?
思わぬ追加ポイントに驚いていると、リコがじーっと私を見つめていることに気づいた。
「ナディア院長」
「は、はい!」
思わず声が裏返った。
まずい。
ものすごく見られている。
「メイ。配膳は私がやるから、あなたは先に戻ってなさい」
「え、でも……」
戸惑うメイに、リコが続ける。
「手はもう大丈夫だと思うけど、今日はなるべく安静にしてなさい」
「うん、わかった」
そう言って、メイは院長室から出ていった。
パタンッ。
扉が閉まる。
部屋に残ったのは、私とリコ。
そして、ルーだけ。
……なんだろう。
ものすごく逃げ出したくなってきた。
「ナディア院長」
「は、はい……」
「先日から……どこかおかしいですよね?」
ぎくぅ!
「いったい、どうされたのですか?」
まさか、ずっとおかしいと思われていたなんて。
けれど、リコの追及はそれだけでは終わらなかった。
「……」
「……」
痛い。
視線が痛い。
何か言わなければ。
そう思うのに、言葉が出てこない。
ルーまで空気を読んだのか、私の足元で静かにしている。
だめだ。
もう、誤魔化せない。
これ以上、適当な嘘を重ねたって、きっとリコには見抜かれる。
それなら――。
「……リコ」
私はぎゅっと拳を握った。
「これから話すこと、たぶん……すぐには信じてもらえないと思うのだけど」
「はい」
「それでも、聞いてくれる?」
リコは少しだけ目を見開いたあと、静かに頷いた。
「もちろんです」
その返事に、私は小さく息を吸う。
怖い。
けれど――この子になら、話しても大丈夫だと思えた。
「実は私……」
一度言葉を切り、覚悟を決める。
「前世の記憶があるの」




