7.罰ではなく、手当てです。
「そこに手を出しなさい」
「え……?」
「早く!」
強い口調で言うと、メイはびくりと肩を震わせながら、赤くなった右手を差し出した。
私は井戸の横木から垂れた縄をつかむ。
その先には、木製の桶が結びつけられていた。
縄を少しずつ緩め、桶を井戸の底へ下ろしていく。
やがて――。
ぽちゃん。
暗い井戸の中から、水音が響いた。
縄を揺らして桶を傾け、水が入ったところで、今度は両手で縄をたぐり寄せる。
「くっ……重いわね」
水の入った桶は、想像していた以上に重かった。
どうにか井戸の縁まで引き上げると、私はメイの右手を桶の冷たい水へ浸した。
「ひゃっ!」
「しばらく、そのままにしていなさい。火傷は、すぐに冷やさないと駄目なのよ」
「……やけど?」
メイは目を丸くし、水に浸された自分の手と、私の顔を交互に見つめた。
彼女の手を支えるため、私の手も一緒に水へ浸かっている。
井戸水はひんやりとしていて、気持ちがいい。
この世界にも水道はある。
けれど高価な設備なので、貴族や富豪の屋敷などにしか普及していない。
当然、この孤児院に水道などない。
早く冷やさなければならないのに、井戸から水を汲むところから始めなければならないなんて!
そう焦ったものの、汲み上げたばかりの井戸水は、思っていた以上に冷たかった。
これなら、少なくともすぐに手を冷やすことはできる。
私はようやく、ほっと息を吐いた。
「あ、あの……」
「なに?」
「本当に、申し訳ございませんでした」
「そんなことはどうでもいいから、今は火傷をどうにかしなさい」
私がそう告げた、そのときだった。
「ナディア院長! メイ!」
焦った声とともに、リコが裏庭へ駆け込んできた。
「ナディア院長、申し訳ございませんでした」
私たちの前までやって来ると、リコは勢いよく頭を下げた。
「メイが配膳をうまくできなかったのは、私の指導が至らなかったからです」
また、この子は……。
私の脳裏には、いつも全力で子どもたちの世話をし、子どもたちが何かミスをすればそれを庇うリコの姿が浮かんだ。
今回のことだって、リコに責任があるとは思えない。
それでもリコは、横暴な孤児院長からほかの子どもたちを守るために、自分が責任をかぶろうとしているのだ。
そのことに気づき、胸の奥が痛んだ。
「罰なら、私が受けます。ですから、どうか……メイの火傷の手当てをさせていただけませんか」
リコはまっすぐに私を見つめながら、そう訴えた。
「リコちゃん、あの……」
メイが控えめに声をかける。
リコの視線がメイへ向き――。
その右手が桶の水に浸されていることに気づき、ぴたりと止まった。
「それは……?」
メイは私の顔をうかがいながら、控えめな笑みを浮かべた。
「えっと……ナディア院長が、火傷を冷やしてくださっていて……」
言いながら、確認するようにこちらを見る。
リコも同じように私を見つめてきたため、なんともいえない気まずさを覚えた。
けれど、こうなってしまった以上、もう誤魔化しようがなかった。




