6.当たりは、1ポイントでした。
なにか良い情報がないかと『ポイ貯め』の画面を操作する。
すると、メニューの中に『貯める』という項目があることに気づいた。
「ここに、何かヒントがあるかも……!」
期待を込めて、その項目をタップした。
『一日一回! ガラポンルーレット』
画面に、そんな文字が大きく表示された。
「ガ、ガラポン……?」
名前だけでは、どんなものなのかよく分からない。
けれど、今の私に選り好みしている余裕はなかった。
藁にもすがる思いで、『挑戦する』のボタンを押す。
『ガラポンルーレット、スタート!』
明るいポップアップが現れると同時に、カジノのルーレットのようなアニメーションが回り始めた。
「……ガラポンなのか、ルーレットなのか、どっちなのよ」
ちゃっちゃら~、ちゃらら~♪
流れてくる音楽も、妙に楽しげだ。
その音に反応したルーが、踊るようにぴょんぴょんと跳ねる。
「ぷっぷぅ~!」
やがて――。
ちゃらららん♪
軽快な音楽が止まった。
続いて、画面の中へ色とりどりの玉が転がり込んでくる。
コロコロ……パカーン!
なぜか最後には、ガチャガチャのようなカプセルが現れ、勢いよく蓋が開いた。
『ナディアさん、おめでとう!』
「やった!」
その表示に、期待で胸が高鳴る。
そして――。
『あたり! 1P!』
「……」
私は、その場にがっくりと崩れ落ちた。
一円を笑う者は一円に泣く。
だから、1ポイントだって貴重な1ポイント。
それは分かっている。
分かっているけれど――。
「1ポイントかいっ!!」
どうしても、突っ込まずにはいられなかった。
◇◆◇
「一日一回できるくじ引きで、当たるのは1ポイント……あるあるよねぇ」
私は遠い目で、画面に輝く『+1P』の文字を見つめた。
とりあえず、分かったことが一つある。
このガラポンだけに頼るのは無理そうだ。
そんなことを考えていると、ルーがぴくりと体を揺らした。
何かに気づいたように顔を上げると、さっとテーブルの下へ隠れる。
その直後――。
コンコン。
院長室の扉が、控えめに叩かれた。
「はい」
「失礼いたします」
入ってきたのは、三つ編みの少女――リコだった。
十五歳になったばかりの彼女は、今では職員として孤児院に残り、子どもたちの世話をしてくれている。
「昼食をお持ちいたしました」
「ありが――……そこに置いて」
『ありがとう』と言いかけたものの、これまでのナディアなら礼など言わなかったはずだ。
私は慌てて、その言葉を飲み込んだ。
リコの後ろから、メイという12歳くらいの少女が、配膳用のカートを押して入ってくる。
リコは落ち着いているように見えたが、後ろのメイはひどく緊張していた。
メイはぎこちない動きで一礼すると、テーブルへの配膳を始める。
カチカチカチカチ……。
震える手に合わせて、皿が小刻みに音を立てていた。
あんなに手が震えていて、大丈夫かしら。
心配した、そのときだった。
「あっ」
ガチャン!
嫌な音とともに、皿がテーブルの上を転がる。
注がれていたスープがこぼれ、メイの右手にもかかってしまった。
「ごめんなさい!」
メイは崩れ落ちるように膝をつき、額を床に擦りつけた。
その肩は、目に見えて震えている。
「手を滑らせて、スープを……っ」
声を震わせ、何度も言葉を詰まらせながらも、必死に謝ろうとしていた。
視界の端には、心配そうにメイを見つめるリコの姿もある。
私は大股でメイへ駆け寄った。
赤くなった右手を確認すると、火傷していない左腕をつかむ。
メイが顔を上げ、その顔から、さっと血の気が引いた。
「すぐに片づけます。どうか、許して……っ!」
私はメイの言葉には答えず、腕に力を込めて立ち上がらせた。
「ナディア院長!?」
制止するリコの声にも構わず、メイの腕を引いたまま、院長室の扉を勢いよく開ける。
急がなければ!
私は足早に廊下を進んだ。
「院長、ごめんなさい! どうか、許してください……っ!」
カツカツと靴音を響かせながら、私は廊下を急ぐ。
その後ろでは、メイが悲痛な声で謝罪を繰り返していた。
廊下にいた子どもたちが、何事かと私たちへ視線を向けていることには気づいていた。
けれど、今はそれどころではない。
そのまま裏庭まで進み、目的の場所へたどり着いたところで、ようやくメイの腕を放した。
目の前にあるのは、孤児院で使われている古い井戸だった。




