52.懐かしい味。
「……本当におにぎりだ」
目の前に置かれたおにぎりと豚汁。
無意識に口から漏れたのは、なんのひねりもない、そのまんまの感想だった。
クリスディアは数年前から、『美食の街』と呼ばれるようになった。
だから、美味しいものに出会えるだろうとは期待していたが、まさかおにぎりと豚汁に出会えるなんて……!
「ええ。普通のおにぎりと豚汁よ」
にこにことジルティアーナ様がこちらを見ていたので、恥ずかしくなってしまう。
ジルティアーナ様が続けた。
「おにぎりの具は何がいい? 色々あるわよ!」
ばばーんっ!
そんな効果音が聞こえそうな勢いで、一枚の紙を見せてくれた。
そこには、たくさんのおにぎりの名前が並んでいた。
塩むすび、梅、昆布、おかか、ツナマヨ……といった定番。
かと思えば、卵黄の醤油漬けや牛しぐれ煮などもあり、どれも美味しそうだった。
……どうしよう、全部食べたい。
◇
悩んだ末、私はおにぎりを二つ選んだ。
ひとつは梅。
ふたつめは、卵黄の醤油漬けにした。
二つのおにぎりの横には、豚汁。
白い湯気がたち、懐かしい味噌の香りが鼻腔を刺激する。
「では、いただきましょうか」
「はいっ!」
ジルティアーナ様がかけた声に、フレイヤが元気よく返事をした。
そして——。
「いただきますっ!」
そんな声を聞きながら、私はおにぎりを手に取った。
まずは梅のおにぎりから。
ひと口目から梅を味わえるように、おにぎりの頂点には梅肉が乗っている。
見ているだけで、自然と口の中に唾液が湧いた。
そして、そっと口に運ぶ。
まず感じたのは、酸っぱい梅の味。
少し遅れて、ふっくらと炊かれたお米の味が口いっぱいに広がった。
……ああ、これ。
私が知ってる、ごはんだ。
おにぎりだ。
続いて卵黄の醤油漬け。
ねっとりとした卵黄と醤油の味が、ごはんと絡み合う。
まるで、卵かけご飯を食べているようだ。
そして豚汁をひと口飲めば、味噌の香りと豚肉の旨味が口いっぱいに広がった。
温かい豚汁を飲み、体がじんわり温まっていく。
でも。
それ以上に、胸の奥がじんわりと温かくなった。
◇
「……おいしかったぁ」
豚汁を飲み干した瞬間、自然とそんな言葉がこぼれた。
すると、くすりと笑う声が聞こえた。
目線をやると、やはりジルティアーナ様だった。
「フレイヤ様とヴィオレッタ様に新作を味わってもらおうと思って、おにぎりを用意したのだけど……大正解だったわね」
「私が一番はしゃいじゃってすみません……」
なんだか恥ずかしくなった。
するとジルティアーナ様が慌てて続ける。
「ううん、それは当然のことよ。わたしなんて、初めておにぎりを食べたとき、感動して泣いちゃったんだからっ!」
……え、泣いたの?
すると、リズ様が深く頷いた。
「本当ですよ。それも、ただ泣くだけでなく椅子から崩れ落ちるものですから、最初は毒でも食べたのかと焦りましたよ」
……え、崩れ落ちたの?
そんなリズ様の小言に、当の本人は「えへへ」と照れくさそうに笑っていた。




