46.実は50代でした。
「リコ、一人にしてごめんね」
不安そうな顔で、ソファに座っていたリコに声をかける。
「いえ……院長こそ、大丈夫だったんですか?」
「うん! こっちは全然大丈夫」
そんなやり取りをしていると、ジルティアーナ様が声をかけてきた。
「リコさんごめんなさいね。いきなりナディアさん連れてっちゃって! 知らない人ばかりの中、不安だったよね」
それに目を丸くするリコ。
「いえ……とんでもございません」
お貴族様、それも領主様に気さくに声をかけられたことに戸惑っているようだった。
「ナディア様、お久しぶりです」
その声に振り向くと、ミランダ様だった。
「ジルティアーナがまた暴走したようですね。ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「いえ、全く!」
そんな会話をしていると、ジルティアーナ様が私の腕を掴んだ。
きらきらした目で、ミランダ様を見上げる。
「お姉様!」
「……ティアナ、あなたまた何か企んでるわね」
ミランダ様は、顔をひきつらせた。
ジルティアーナ様は頬を膨らませて反論する。
「まだ、違いますって」
……まだ?
不穏な副詞が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにする。
「って、そんなことよりもですね! ナディア様なんですが、なんとですね……」
「……なんなの?」
ミランダ様は、あまり期待してなさそうだ。
だが、ジルティアーナ様はめげない。
「日本人だったんです!」
部屋がしんっと静まった。
しばらくして、フレイヤが首を傾げた。
「にほんじん?」
横のヴィオレッタ様も不思議そうな顔だ。
だが、フレイヤとヴィオレッタ様以外には、“日本人”の意味が通じたようだ。
「それ、本当なの?」
ミランダ様がひとりごとのように呟いた。
私は頷く。
「はい」
補足するように、リズ様が言葉を添える。
「ナディア様は日本語を読めていました。間違いないかと思われます」
「そう……」
ミランダ様はジルティアーナ様にやさしく微笑む。
「よかったわね、ティアナ」
「はい!」
ジルティアーナ様は嬉しそうに笑った。
◇
ヴィオレッタ様が優雅にソーサーにティーカップを置いた。
「異世界からの転生者ですか」
確認するように言われた言葉に、私とジルティアーナ様が頷く。
「……にわかには信じがたいですね」
そう言ったフレイヤは、はっとして続ける。
「いや、おふたりを疑っているとかではないのですが……っ!」
「大丈夫よ」
失言に慌てるフレイヤにミランダ様が声をかけた。
「私だって最初、自分の耳を疑ったもの」
すでに事情を知っている皆さんが、一斉に頷いた。
……まあ、そりゃそうよね。
と、納得しているとフレイヤが聞いてきた。
「もしかして……最近ナディアが変わったのって、日本のことを思い出したから?」
「うん」
記憶を思い出したときのことを思い返す。
そして、思わずくすりと笑ってしまった。
「私ね……日本では50代半ばの主婦だったの」
「50代!?」
リコが驚きの声を上げた。
皆の視線がリコに集中した。
「申し訳ございませんっ!」
謝るリコに、ジルティアーナ様が笑う。
「そりゃあ転生者ってことは知ってても、今の倍以上生きてたって言われたらびっくりするわよね」
「あっ! もしかして……」
フレイヤが声を上げた。
そして続けた。
「【ポイ活】って日本に関係あること?」
私とジルティアーナ様は顔を見合わせたあと、頷いた。




