45.薄れていく記憶。
私の疑問に、ジルティアーナ様は「フフフ」と何か企んだような笑みを浮かべた。
「わたしね、日本での知識を活かして色々な物を作っているの」
そう言われ、私の脳裏には、ジルティアーナ様から託されたミキサーが浮かび上がる。
「ミキサーとか?」
「そうなの! でね、わたしがほしいものをお姉様たちに伝えて、作ってもらうんだけど……」
ジルティアーナ様は、どこか寂しそうに語った。
年々、日本の記憶が薄れてきているのだという。
ミキサーのように、新しい物を作ってほしいと思っても、商品名が出てこない。
どんな形だったのか、どう使うものだったのか。
それすら、少しずつ曖昧になっているらしい。
——でも。
日本人だった記憶がある私と話していれば。
同郷の人間同士で話していると、自然と故郷の言葉が出てくるように——。
色んなことを思い出せるのではないか。
そう考えたそうだ。
「わかりました」
私ははっきりと言った。
「ミランダ様に、私が日本人だったことをお話ししましょう」
「ありがとう!」
ジルティアーナ様が嬉しそうに笑った。
でも、その前に。
私はジルティアーナ様に問いかける。
「ヴィオレッタ様とフレイヤは、転生者だということは知らないんですよね?」
「ええ、おふたりには伝えてないわ」
「そうなんですね……」
正直、ミランダ様のことをよく知らない。
ジルティアーナ様が信頼するお姉様ということで、ミランダ様に話すことに不満があるわけではなかった。
でも。
ヴィオレッタ様と、特にフレイヤには恩がたくさんあった。
そんな二人を差し置いて、ミランダ様に秘密を伝えることに少し抵抗を感じてしまった。
「良かったら、おふたりにもわたしたちが転生者であることをお話ししましょうか?」
「……えっ!?」
何……ジルティアーナ様って、エスパー!?
私の心を読んだかのような提案に驚いてしまった。
「わたしもね、おふたりとはたくさんお話ししていて、お伝えしても大丈夫かなって思ってたのよ」
片目をつむり、少しおどけたように続ける。
「だって、異世界の記憶があるって説明しちゃった方が、話が早いじゃない?」
……そんな簡単にいいのかな。
でも、明るく話すジルティアーナ様の提案に、私も笑顔で「そうですね」と同意した。
◇
「お待たせいたしました!」
ジルティアーナ様を先頭に、応接室へ戻った。
ミランダ様がじろりとジルティアーナ様を見つめる。
「ずいぶん長く、内緒話をしてたのね」
「えー。別にそんな長くなかったですよ?」
それを軽く否定するジルティアーナ様。
すごい……私ならミランダ様にあんなふうに言われたら「すみませんでしたー!」ってこちらに非がなくても謝りたくなっちゃうのに!
するとミランダ様が、ちょっとむっとしたように言い返した。
「ナディア様とは初対面よね? なんでそんな嬉しそうに部屋から出てくるのよ」
ジルティアーナ様は、にやりと笑った。
「あら、お姉様。やきもちですか?」
「違うわよ! ただいきなり自室に連れ込むなんて、ナディア様のご迷惑になったんじゃないか心配しただけよっ!」
「えー。本当にそれだけですか?」
「それだけよっ!」
と言いつつ、ちょっと顔が赤いミランダ様。
どうやら図星っぽい。
もしかして、ミランダ様って……。
ツンデレってやつですか?




