41.あなた、日本人?
私は隣にあったジルティアーナ様の私室に案内された。
今ここにいるのは私と、私の胸に抱いたルー。
目の前には、ジルティアーナ様とリズ様。
三人+一匹だけ。
他の人たちは、先ほどの応接室に残されている。
先ほど、ジルティアーナ様は確かに「日本」と言った。
私が知っている日本であれば、それは異世界のことだ。
なんで……ジルティアーナ様がその言葉を?
そう思っていると、ジルティアーナ様が一冊の本を出した。
そこには……日本語。
内容は料理のレシピのようだが、志摩子が慣れ親しんだ日本語が書かれていた。
「あなた、日本人?」
びくりと、思わず肩を揺らす。
恐る恐る顔を上げると、そこにはやさしく微笑むジルティアーナ様がいた。
「わたしもね、日本人だったの」
「ティアナ様っ!」
思わぬ告白に息を呑む。
それと同時に、リズ様が制止するようにジルティアーナ様の名を呼んだ。
「大丈夫よ。レーヴェとステラが“問題ない”と言っていたでしょう」
「そうですが、ティアナ様が日本人だったなどと伝える必要は……っ」
「リズ」
ジルティアーナ様が、まっすぐリズ様を見つめる。
「こちらが誠意をもって本音を話さなければ、前世の話なんてできないわ」
リズ様は何か言いたげだったが、口をぎゅっと閉じ、一歩下がった。
ジルティアーナ様が視線をふたたび私に向ける。
その青い瞳を見て、私も覚悟を決めた。
「はい。私には前世の記憶……日本という国で生き、死んだ記憶があります」
視線が絡まる。
ジルティアーナ様は「そうですか」と静かに言い、リズ様が新たに淹れてくれたお茶を飲んだ。
「もしかして、前世の記憶を思い出したのは最近なのかしら」
私は頷く。
「二か月ほど前に思い出しました」
「えっ!?」
目を見開くジルティアーナ様。
リズ様が控えめに聞いてきた。
「それは……お体は大丈夫なのですか?」
お体? なぜ、そんな心配を……?
「はい、体は元気ですけど」
とりあえず、質問に答えた。
おふたりは顔を見合わせた。
ジルティアーナ様が口を開いた。
「……ナディアさんは、死んだわけではないの?」
「死!?」
どういうこと?
私は現に生きていますけど!?
混乱していると、説明をしてくれた。
ジルティアーナ様たちは、私のような転生者は「元の体の持ち主が亡くなったあと、別の魂が入った」のだと考えていたらしい。
「じゃあ……ジルティアーナ様は?」
沈黙。
少し間を空けて、ジルティアーナ様が静かに答える。
「元のジルティアーナは……おそらく、亡くなっているわ」




