40.思いもよらぬ言葉。
「ジルティアーナ様」
私は姿勢を正し、声をかけた。
「色々とありがとうございました」
深く頭を下げる。
横に座るリコも、一緒に頭を下げた。
ジルティアーナ様はにこりと笑う。
「ミキサーやマジックバッグはお役に立てたかしら?」
「はい。子どもたちもとても楽しくジューススタンドをしております」
ジルティアーナ様は頷く。
「開店初日から大盛況だったと聞いているわ」
「そうなんですよ。特にレモネードが大人気だったんですよ!」
初日の様子を知るフレイヤが、まるで自分ごとのように嬉しそうに報告した。
それを聞き、ジルティアーナ様は目を丸くする。
「……レモネード?」
「ジルティアーナ様にいただいたレモニとはちみつを使わせていただきました。レモニのジュースなんです」
「……」
私はレモネードがどんなものか分からないだろうと思い補足説明をした。
ジルティアーナ様は顎に手をやり、何かを考えるように黙り込んだ。
そんな様子に少し不安を覚えたが、私は腰につけていたマジックバッグを外した。
「こちらもありがとうございました」
「マジックバッグはもう必要ない?」
「いえ! とっても役に立ち助かりました。でも、こんな高価なものをお借りするのは恐れ多くて……」
マジックバッグは本当に便利だ。
物がたくさん入るだけでなく、お借りしたマジックバッグには時間停止が付与されている。
ジューススタンドで使うフルーツを腐らせずに保存でき、とても便利だった。
だからこそ、そんな機能が付いたマジックバッグは高価だ。
私は素直に心配なことをお伝えすることにした。
「万が一、紛失したり盗まれたりしたら、とても弁償することができません。
お貸しいただけるのは大変ありがたいのですが、お返しいたします」
「そんな心配は不要よ。孤児院の役に立つなら、差し上げますわ」
「え……」
まさかの太っ腹な返答。
正直、ほしい。
だがとんでもなく価値があると知っているものを簡単にもらうことなどできなかった。
「レーヴェ」
「はい」
呼ばれたレーヴェさんが、ジルティアーナ様の傍に寄る。
するとそのまま、私が置いたマジックバッグに手を伸ばした。
マジックバッグに指先が触れた瞬間、パチンッ! と何かが弾ける音がし、レーヴェさんはすぐに手を離した。
なにが起こったのかよく分からず、呆然としているとステラさんが説明をしてくれた。
「紛失や盗難の心配は不要ですよ。このマジックバッグにはセキュリティが付いていますから」
「え?」
レーヴェさんが続ける。
「今、私は許可なくマジックバッグに触れました。許可されていない者が触ると、痛みを感じるのです」
「痛み!? レーヴェさんは大丈夫なんですか?」
私はレーヴェさんの手を思わず両手で掴む。
指先をじっと確認するが、見たところ何ともなっていないようだ。
でも、痛みを感じるなんて——。
「あの……」
レーヴェさんに話しかけられて、はっとする。
彼の視線は、彼の手を掴む私の手に注がれていた。
つい、勝手に手を掴んじゃってた!
「ごめんなさい!」
急いで手を離す。
周りを見ると、みんなが私に注目していた。
「すみません! セクハラをするつもりはなかったんですっ!」
咄嗟に謝る。
するとジルティアーナ様が首を傾げる。
「セクハラ……?」
「セクハラっていうのはセクシャルハラスメントの略称で……って、意味通じないですよね。とにかく勝手に手を握ってすみませんでした!」
弁明をする私を、青い瞳でじっと見つめるジルティアーナ様。
ああああ……話せば話すほど変な奴に思われそう。
「ナディアさん」
「はい!」
「あなた……もしかして、“日本”って名前に聞き覚えある?」
ジルティアーナ様の口から、思いもよらぬ単語が聞こえた。




