39.領主様のもうひとつの顔。
「ジルティアーナ様……もしかして、ルーちゃんの言葉が分かるんですか?」
私が聞いていいのか迷っていた質問を、すぱっとフレイヤが口にした。
「えっ!?」
驚きの声を上げたのは、私……ではなくジルティアーナ様。
「私たちには、ルーさんが『ぷぷー』と鳴いているようにしか聞こえておりません」
リズ様が、静かにジルティアーナ様に伝えた。
……私はリズ様のルーの鳴きまねが上手すぎることに驚いた。
「ぷぷー」——『じるたーな、るーがいってることわかるのー?』
ルーが体を傾け、ジルティアーナ様に尋ねる。
それに焦ったのは、私だ。
「ルー! ジルターナじゃなくて、ジルティアーナ様よ! あと、呼び捨てもだめ!」
「ぷー」——『えー』
ルーを抱きしめながら注意していると、ジルティアーナ様がルーに笑いかけた。
「ジルティアーナは長くて呼びにくいわよね。よかったら“ティアナ”って呼んでね」
まさかのスライムが、上級貴族の領主様を愛称で呼ぶなんて恐れ多い!
けどルーは、私の思いなんて察することはなく、
「ぷぷぅ!」——『てぃあな、わかったー』
と、のんきに答えた。
いや、さすがにまずくない?
困っていると……。
「ティアナ様とナディア、いいなぁ。私もルーちゃんと話してみたい」
「ふふ、確かにお話ができたら楽しいでしょうね」
フレイヤのぼやきにヴィオレッタ様が笑った。
……って、なんであんたまで“ティアナ”って呼んでるのよ!
「ティアナ様、ちゃんと説明して差し上げないと、ナディア様とリコ様が困ってらっしゃいますよ?」
ステラさんがそう声をかけると、ジルティアーナ様が私たちを見た。
「ごめんなさいね。色々驚かせて」
「いえ……」
よく分からんけど、そう答える以外どうしようもなかった。
するとヴィオレッタ様が、補足するように教えてくれた。
「私たちも普段は“ティアナ様”って呼ぶことが多いのよ」
そして続ける。
「ティアナ様はね、平民の方たちから遠慮のない意見を聞くために、領主であることを隠して活動されることが多いの。そういうときは“ジルティアーナ様の専属・ティアナ”として過ごされているのよ」
……はぁ!? そんなこと可能なの?
驚きいてジルティアーナ様を見ると、彼女は「えへへ」と頭を掻きながら笑った。
……たしかにその姿は、領主どころか上級貴族の御令嬢には見えなかった。
「領主様に本音って話しにくいでしょ?」
それはそうかもしれないけど……。
思わず、リコと顔を見合わせる。
クリスディアの領主——ジルティアーナ様は、かなり変わった方のようだった。




