37.ベールの向こう。
日当たりの良く広く明るい部屋の中に、ふたりの女性がいた。
重厚な机の横に立つ女性の美しさに、まず目が奪われた。
金色の髪に、深い緑色の瞳。
そして特徴的な、尖った耳——エルフだ。
エルフは美しい人が多いとは聞くが、これほどとは……。
机の奥に座っているのは、グレーの髪の女性。
だが、彼女の顔はベールに隠され窺い知ることができない。
ヴィオレッタ様とフレイヤに続き、部屋に入る。
扉の傍に護衛だと思われる男性が立っていることに気がついた。
彼も獣人だ。
頭の上には、犬のような尖った耳。
腰のあたりからは、真っ白なしっぽが伸びていた。
異種族多すぎない!?
そして、そんなふさふさのしっぽの触り心地がよさそうでつい気になってしまったが、先ほどステラさんを凝視してしまった失敗を思い出し、意識的に前を向いた。
「ヴィオレッタ様、ようこそいらっしゃいました」
「ジルティアーナ様、お久しぶりです」
ヴィオレッタ様が笑顔を浮かべる。
やはりこのベールを着けた女性が、ジルティアーナ様のようだ。
「フレイヤ様も、また来てくれたのですね」
「はい」
三人の硬すぎないやり取りに、普段から親しくしていることが伝わってきた。
「今回は、先日お話ししたナディアを連れてきました」
「まあ。その方が……?」
ジルティアーナ様がこちらを見る。
思わず姿勢を正すと、続けて「こちらは孤児院を手伝ってくれているリコさんです」とフレイヤがリコの紹介をしてくれた。
「お初にお目にかかります。ウィルソールで孤児院長を務めております、ナディアと申します」
私はそう言って頭を下げた。
続いてリコも自己紹介をし、頭を下げる。
「私はジルティアーナ・ヴィリスアーズです」
ベールを着けているため表情ははっきりとは分からないが、やさしい声にほっとする。
席を勧められたので、ヴィオレッタ様と共にソファに腰を下ろした。
部屋の真ん中には大きなテーブルが置かれており、それを囲うようにソファが配置されていた。
私はヴィオレッタ様の向かいのソファに座ったが、その座り心地が良すぎて、内心驚いた。
やわらかいのに、程よく体を支えてくれる。
その座り心地は、まるで日本で使っていたようなソファだった。
この世界で座った椅子の中では、一番だろう。
ふと横を見ると、リコが立ったままだった。
すると……。
「どうぞ、リコさんもおかけください」
ジルティアーナ様にそう声をかけられたリコは、戸惑うように私を見てきた。
すると——。
どさっ。
フレイヤがヴィオレッタ様の横に腰を下ろした。
……ちょっと、それは侍女としてどうなの?
そう思っていると、フレイヤがリコに笑った。
「大丈夫よ、リコさん。ジルティアーナ様は身分なんて気にされるような方じゃないから」
いや、そう言われても……。
「はい、そうですか」と気が抜けるものでもないでしょう?
私とリコが動けずにいると、ジルティアーナ様が口を開いた。
「レーヴェ、ステラ、どう?」
「どう?」とは……なにが?
そう思っていると、ステラさんがにこやかに頷く。
「おふたりとも大丈夫です」
「問題ありません」
後に答えたのは、扉の前に立っていたしっぽが素敵な男性だ。
彼がレーヴェらしい。
「あー、良かった!」
急に明るい声を出したジルティアーナ様。
すると机の奥から立ち上がり、貴族にしては少し雑な動きで空いているソファに座った。
私は呆気に取られていると、金髪の女性がそっとジルティアーナ様に近づいた。
「失礼いたします」
そう言って、ジルティアーナ様のベールを外す。
声を聞いて若そうだとは思っていたが、予想以上に若い方だった。
たぶん私と同じくらい……いやもしかしたらもっと若いのかもしれない。
ジルティアーナ様は私の視線に気づき、こちらを見るとにこりと笑った。




