33.試しにいかがですか?
「さて、何を頼もうかね……」
考えるおばさんに、フレイヤが笑顔で話しかける。
「イチ押しは“レモネード”らしいですよ!」
「レモネード?」
おばさんの疑問に、すかさずメイが答える。
「レモネードは、レモニのジュースなの!」
「レモニ? すっぱくないかい?」
「はちみつを使ってるから、甘くて美味しいよ!」
おばさんの動きが止まる。
「は、はちみつ!?」
「はちみつだって!?」
おばさんとおじさんの声が被った。
「はちみつって、あのはちみつだよな?」
おじさんが驚いたように聞く。
すると、おばさんも続けた。
「はちみつって、お貴族様が食べてる甘味だろ? なんでこんなジューススタンドで使ってるのさ」
ふたりの質問は止まらなかった。
「あたし……はちみつなんて高級なもの、食べたことないよ」
「ああ、俺もだ」
「でもレモニのジュースなんて、すっぱそうだねぇ」
やはり出た、その心配。
すかさず子どもたちが言う。
「ちょっとすっぱいけど、おいしいよ!」
「甘いんだよっ」
口々にレモネードの良さをアピールする。
そして、フレイヤも言ってくれた。
「私も今、初めて飲みましたが……飲めば分かります!」
それを聞き、ハッとした。
そうだ。
この世界の人たちは、“レモネード”を知らない。
レモニを飲み物にしようという考えはない。
よく分からない物を、避けるのは当然だ。
私は冷凍冷蔵庫を開け、冷やしていたレモネードを取り出す。
そして、ふたつの紙コップに少しだけ注いだ。
「どうぞ」
「えっ!」
顔を見合わせるおじさんとおばさん。
「レモネードがどんな味か分かりませんよね?」
私の問いかけに、ふたりは頷く。
「ぜひ試しに飲んでみて、気に入ったら買ってください」
「え、これはタダでいいのか?」
「もちろんです」
私は笑顔で頷く。
「試してみて、気に入らなければ買わなくて大丈夫ですよ」
ふたりは紙コップを手に取り、飲んだ。
「なんだこれ!」
「……甘っ! これがレモニだって!?」
驚くおじさんたちに——。
「ね! すごくおいしいでしょ?」
「うちのイチ押し商品なんだよ!」
子どもたちが誇らしげに言った。
「レモニだって言われれば、確かにそんな味もするけど……」
「はちみつっておいしいんだねぇ」
そして、おばさんが……。
「よし。あたしはこのレモネードをおくれ!」
「ありがとうございます!」
さらに、おじさんも。
「俺にも、レモネードをくれ!」
「えっ! おじさんペシェルジュース飲んだでしょ?」
「こんなうまいものをひと口で我慢できるか!」
そんな会話をしていると——。
「なんだ、あれ……?」
「レモネード?」
「よく分かんないけど、うまそうだな!」
「お母さん、あれ飲みたい!」
気づけば、ジューススタンドの周りにはたくさんの人が集まっていた。
そこへ——。
「おまたせいたしました!」
子どもたちが用意した、二杯のレモネード。
それを見て、周りの声が騒がしくなる。
「なんか不思議なコップだな?」
「あの棒、なんだ?」
そんな疑問の声に、先ほど一杯目を飲んだおじさんが得意げに答える。
「このコップは紙でできてるんだぜ!」
「え、紙!?」
「で、このストローってのを吸えば、コップを傾けなくても飲めるんだよ」
おじさんは、レモネードを飲んだ。
「ぷはぁ! やっぱこのレモネードはうめぇな!」
まるでビールでも飲んだようなおじさん。
おじさんに質問をした男性は、ごくりと喉を鳴らした。
——ナイスよ、おじさん!
私はこっそり、ほくそ笑んだ。




