31.ジュースが売れません!
——とうとう、この日がきた。
「お客さん、来てくれるかなぁ?」
「大丈夫だって! だってすっげぇ美味いんだぜ」
不安そうなメイに、ロイが力強く言った。
その声に、心配そうにしていた子どもたちも、「そうだよな」「絶対、売れるよ!」と明るい表情をした。
——だが。
「お客さん……来ないねぇ」
「なんで来てくれないんだろう……」
ジューススタンドを開店してから2時間。
ジュースは1杯も売れていなかった。
最初は、店の前を人が通ると目を輝かせていた子どもたち。
お客さんになってくれるのを期待していたのだ。
「いらっしゃいませー!」
「おいしいフルーツジュースですよー!」
呼び込みもがんばっていたが、それが成果に繋がらない。
声にもだんだん元気がなくなってきていた。
うーん……どうしたものか……。
店の前には、人がたくさん通っている。
立地条件が悪いわけではないと思うんだけど……。
そんなことを考えていた、そのときだった。
「ナディア」
明るい声に視線を向けると、そこにいたのは……。
「フレイヤ!」
「どお? ジュースは売れてる?」
そんな問いかけに、しょぼんと肩を落とす子どもたち。
「……売れてない」
「え?」
「……1杯も売れてないの」
フレイヤにそう告げた女の子は、目に涙を溜めた。
「ええ! なんで!?」
「……わかんない」
とうとう、瞳からぽろぽろと涙がこぼれはじめた。
言葉にしたことで、我慢していた涙が溢れてしまったようだ。
それを見て、フレイヤが慌てる。
「わわ、泣かないでー! ごめんねぇ」
何も悪くないのに、謝るフレイヤ。
……ちょっと可哀想になった。
助け舟を出そうかと思ったとき、フレイヤが言った。
「じゃあ、私がお客さん1号になっちゃお!」
そのひと言に、女の子の涙がぴたりと止まった。
「……ほんとう?」
「本当! どれがおすすめかな?」
女の子に視線を合わせ、やさしく聞くフレイヤ。
女の子は、ぱぁ! と表情を明るくした。
「おすすめは、レモネードだよっ!」
「……レモネード?」
不思議そうな顔をするフレイヤ。
するとルーが、メニュー看板の前で飛び跳ねた。
「ぷぷ~っ!」——『これだよー』
触手を伸ばす。
その触手は、しっかりと……。
『イチ押し! 迷ったらレモネード』
という文字を指していた。
……すごいわ、ルー!
文字が分かってるのかしら?
『レモネード』の文字の横には、子どもたちが描いてくれたオレンジ色のレモニの絵もあった。
それをじっと見つめたフレイヤが、顔を上げる。
「レモネードって、もしかしてレモニのジュースなの!?」
驚くフレイヤに、ロイは得意げに胸を張った。
「そうだよ! でも、甘酸っぱくて美味いんだぜ!」
「そうなの? じゃあ、それにしてみようかな?」
「ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げる子どもたち。
「レモネードはね、はちみつが入ってるから甘いんだよ!」
「えっ! はちみつ?」
目を丸くする、フレイヤ。
「はちみつって高級食材じゃない!」
フレイヤは財布を取り出し、ロイに尋ねる。
「えっと、いくらかな?」
「500ペルだよ!」
値段を聞いて、一瞬固まるフレイヤ。
「じゃ、これ代金ね」
「ありがとうございます!」
子どもたちがジュースを用意しているあいだに、フレイヤがそっと私に耳打ちをしてきた。
「はちみつ使ってるのよね? 大丈夫? 安すぎない?」
「そうなんだけどね……」
でも、子どもたちがやるジューススタンドだ。
“たくさんの人に飲んでもらいたい”
そんな想いがあったから、あまり高額にしたくなかった。
みんなで話し合って、500ペルに決めたのだった。




