24.あなたのスキル、分かるかもしれない。
改めて収支報告書を見る。
そして、もし私がジューススタンドをやるならと具体的に想像し、あることに気がついた。
「ねえ、このミキサーっていくらするの?」
収支報告書には、ミキサーの値段が書いていなかった。
新しい魔術具だ。
購入するにしても、借りるにしても、決して安くはないだろう。
「無料で貸してくださるらしいわよ」
「無料! なんで!?」
まさかの答えに、驚く。
「クリスディアで取り組んでいることを、他の街でも試してみたいらしいの」
「取り組んでいること……?」
フレイヤが頷く。
「ジューススタンドはクリスディアの街の子どもたちがやってるって言ったでしょ?」
「うん」
「その子どもたちの多くはね、スラム街出身の子どもなの」
「ええっ!?」
領主様が関わる事業に、平民の子どもたちを使っているというだけでも驚きだったのに、まさかのスラム街とは。
ますます意味が分からない。
混乱する私を見て、フレイヤは笑った。
「すごいわよね。ジルティアーナ様の発想や行動力には、いつも専属の方たちも驚かされてるらしいわ」
……そりゃそうだろう。
志摩子の記憶があることで、以前よりかなり柔軟に物ごとを考えられるようになったと思っているが、普通の貴族や貴族に仕える者たちが、そんな発想についていけるとは思えない。
「ナディア」
呼ばれてフレイヤを見ると、彼女は真面目な顔で意を決したように続けた。
「あのね、ナディアのスキルのことなんだけど……」
「え?」
急にスキルの話を振られ、どきりとする。
そして、【ポイ活】を授かった成人の儀のあとのことを思い出した。
誰も知らない【ポイ活】というスキルを授かり、私はひどく落ち込んでいた。
フレイヤはやさしく声をかけてくれた。
「今はナディアのスキルが、どんなものかは分からない。でもいつか、【ポイ活】がどんなスキルかわかる日がくるかもしれないわ」
そう慰めてくれた。
だけどその時の私には、フレイヤにお礼をいう余裕なんて全くなかった。
「いつかくるかもしれない? そんな日がいつ来るのよ!」
「フレイヤはいいわよね。あなただって立派なスキルを授かったわけじゃないのに、ヴィオレッタ様に気に入られて専属侍女になれるんですもの!」
「聞いたことない【ポイ活】なんてスキルを授かって、婚約破棄された私に同情なんてしなくて結構よ!」
そんな酷い言葉を、たくさん投げつけた。
でもフレイヤは私を責めるどころか、「ごめんね、私が無神経だったね」と言って、謝ってくれた。
私も、言いすぎたとは思ったが、素直に謝ることができなかったんだ。
——それから。
次に会ったとき、酷いことを言った私に、フレイヤはもう笑顔で話しかけてくれないかもしれない。
そう思ったのに、フレイヤは何も変わらず接してくれた。
でもあれ以来、私たちの間では天職やスキルの話をすることはなくなっていた。
それが今——。
何年かぶりに、フレイヤがスキルのことを口にした。
……もしかして、なにか勘づかれた?
そんな考えが脳裏をよぎりながらも、私はなにごともないように返事をする。
「私のスキルって……【ポイ活】の話?」
私が怒るでも泣くでもなく、普通に返したことでフレイヤはほっと息を吐く。
そして続けた。
「そう、【ポイ活】のこと! 実はね、ジルティアーナ様が、自分たちなら何か分かるかもしれないって仰ってたの」
「……え?」
ミキサーや孤児院の話だけでも驚きの連続だったのに、さらに予想外な言葉に、私は何も言えなくなった。
黙っていると、フレイヤが私の手を掴んだ。
「ジルティアーナ様の侍女様はね、エルフのアカデミーでスキルの研究をされてたすごい方なの。だからきっとナディアのスキルも……ひゃあっ!」
フレイヤの身体がびくりと揺れた。
そして、ゆっくりと顔を下に向けたかと思った次の瞬間——。
「いやぁああああああ!」
フレイヤの悲鳴が、孤児院長室に響いた。




