25.フレイヤの置き土産。
突然の悲鳴。
私もフレイヤの視線の先に目を向けると——。
「ルー!」
スライムのルーがいた。
「ぷぷぷ~!」——『くっきーのにおいする~』
……見た目では鼻なんて付いていないのに、鼻が利くらしい。
ルーは私の胸へ、ぽよんと跳ねてやってきた。
そして、体をうにょーんと伸ばし、クッキーの箱へ顔を近づけた。
「ぷぷー!」——『このまえのおいしいやつー!』
蓋は閉じてるのに……よく分かるわね。
私はクッキーが入った箱の蓋を外した。
「ぷー!」——『くっきー、たくさーん!』
興奮のあまり、ぶるんぶるん震える。
「孤児院のみんなと食べるために、たくさん買ってきてもらったの」
「ぷぷー」——『そうなんだー』
ルーとそんな会話をしていると「ナ、ナディア……?」と小さな声が聞こえた。
「それ、スライムよね?」
……あ。
最近は孤児院の子たちが、普通にルーと遊んでくれるようになったから、忘れてた。
「うん……スライムよ」
「……」
時間が止まる。
フレイヤが腕を組み、天を仰ぐ。
そしてポツリと、
「…………【ポイ活】って、テイマーのようなスキルだったの?」
そんな疑問を口にした。
◇
「【ポイ活】のスキルで、このスライムを手に入れたぁ!?」
フレイヤに、ルーを【ポイ活】のスキルで手に入れたことを伝えると、口をぽかんと開けながらルーを見つめた。
「ぷきゅ~」——『すらいむじゃなくて、るーだよー』
体をバインバイン弾ませ、不満を訴えるルー。
「……なんか、怒ってる?」
「『スライムじゃなくて、ルーだよ』って名前で呼んで欲しいみたい」
「そうなんだ。ごめんね、ルーちゃん」
そう言って、ぺこりとルーに頭を下げたフレイヤ。
だが、すぐに勢いよく頭を上げる。
「って、ナディアはルーちゃんが言ってること分かるの!?」
「あ……」
しまった。
気が緩んでつい通訳してしまったが、普通はスライムの言葉なんて分からないだろう。
◇
「【ポイ活】ねぇ」
フレイヤは私があげたウェットティッシュをまじまじと見ながらそう呟いた。
「見たこともないアイテムと交換できるだけでもびっくりなのに」
フレイヤが、ちらりとルーに視線を移す。
「【召喚士】でもないのに、スラ……」
“スライム”と言おうとしたのだろう。
けれど、ルーが「ぷ?」と体を傾けたので、フレイヤは慌てて言い直した。
「……ルーちゃんを呼び出すなんてすごすぎるわよ!」
ルーは満足そうに、ぷるるんと震えた。
◇
夕方になり、帰るフレイヤを玄関までルーと見送る。
「じゃあ今度会った時は、ミキサーとクッキーやチョコレートの感想、教えてね」
「本当にありがとう、フレイヤ」
私がお礼を伝えると、一瞬きょとんとした顔をしたあと笑った。
「お礼ならジルティアーナ様に言って」
「もちろんジルティアーナ様に感謝してるわ。でも、それはフレイヤが私や孤児院の話をしてくれたからでしょ?」
「まあ、そうだけど」と、フレイヤは頷いた。
「じゃあ次回、クリスディアに行く時は声をかけるわね」
「うん、ありがとう」
「ルーちゃんもまたね」
そう言って、ルーの頭(?)を撫でてくれるフレイヤ。
ルーは「ぷきゅ~」と嬉しそうに鳴きながらぷるんと震えた。
——そうして、孤児院長室に戻ると。
「ぷ?」
私の腕から、テーブルに飛び移ったルー。
ミキサーの横に置かれた、小さなポーチに触れる。
それは、さっきまでフレイヤが腰から下げていたものだった。
「やだ、フレイヤったら! 忘れ物してるじゃない!」
私がそれを勢いよく掴むと、その下に紙が置いてあることに気がついた。
そこには……。
『ナディアへ。このポーチもジルティアーナ様が貸してくださるそうです。直接渡すと、どうせ「そんな高価なもの借りられない!」って言いそうだから、勝手に置いていくわね。』
え? なんでポーチを?
と思いながら、視線を進める。
『あと、中に入っている食材はジルティアーナ様から孤児院のみんなへのプレゼントだそうです』
……食材?
こんな小さいポーチに食材?
『これは“マジックバッグ”です。』
「……え?」
ポーチを覗く。
その中にはたくさんの果物が入っていた。
“マジックバッグ”。
見た目は小さなポーチや袋だが、その中には空間魔法がかけられており、どれだけ荷物を入れても重さを感じないという便利アイテムだ。
冒険者や商人にとっては、喉から手が出るほど欲しい代物であり、当然それなりに高価なものである。
そんな物を貸して下さる!?
だが、手紙にはまだ続きがあった。
『あ。それと、そのマジックバッグには、時間停止も付いてるから、食材を入れておけば腐らないそうです。 フレイヤ』
「…………時間停止?」
普通のマジックバッグなら高価ではあるが、経済力がある高ランクの冒険者や、大きな商会はマジックバッグを持っている。
でも時間停止は……高位の魔術具師でも付与することはできず、ダンジョンボスなどからのレアドロップでしか手に入らない代物のはず。
普通のマジックバッグと比べても、その価値は雲泥の差がある。
「なんて物を置いてってくれたのよ、フレイヤ!」
私の声が、孤児院長室に響いた。




