23.やばい資料……?
「ナディア」
呼ばれて顔を上げると、フレイヤが続けた。
「あなたも孤児院の子どもたちと、ジューススタンドをやってみない?」
「えっ!」
予想外の提案だった。
「あなたがこのミキサーに魔力を込めて、子どもたちにジュースを売ってもらうの。孤児院運営の助けになると思うわ」
フレイヤは一枚の紙を差し出してきた。
私はよく分からないまま、その紙を受け取った。
そこに書いてあったのは、ジューススタンドの収支報告書だった。
「こんなに儲かるの!?」
私はそこに書いてある数字に目を奪われた。
売上はさることながら、注目すべきは利益!
材料や人件費を差し引いても、利益率が異様に高かった。
最初は、「子どもたちを働かせることで人件費を抑えているのか?」なんて失礼なことを思っていたが、収支報告書にはちゃんと「子どもたちへの報酬」という項目もあり、それは決して少ない数字ではなかった。
それでもなお、この利益。
——すごすぎる!
そして、はっとする。
「ねぇ、フレイヤはなんでこの収支報告書を持ってるの? これって、大切な資料なんじゃ……?」
普通の平民が経営している店なら、貴族の特権で簡単にこの資料を手に入れられるだろう。
だが、先ほどフレイヤは言った。
このジューススタンドには領主であるジルティアーナ様が関わっているって。
領主まで関わっているお店の収支報告書を、簡単に入手できるとは思えなかった。
「これ、まさか……やばい資料……?」
「ごふっ!」
私が恐ろしい疑問を漏らすと、フレイヤはお茶を吹き出した。
ごほごほとむせながら、叫ぶように言った。
「そんな訳ないでしょ! 領主様の大切な資料を、私が勝手に持ち出せる訳がないじゃないっ」
まあ、それもそうか。
じゃあ、なんで?
その疑問に応えるように、口元をハンカチで拭いたフレイヤが続けた。
「ジルティアーナ様があなたに見せるようにって写しを下さったのよ」
「なんで、領主様が私に?」
「あなたが私に頼んだでしょ。『孤児院の子どもたちと、みんなでクッキーを食べたいから、なるべくたくさん買ってきて』って」
「うん」
確かに頼んだ。
「私じゃ、前回渡したくらいの小さな箱しか買えないから、ジルティアーナ様に相談したのよ」
「ジルティアーナ様に相談!? フレイヤ、領主様とお知り合いなの?」
しかも、そんな頼みごとができる間柄なんて、すごくない?
と、思ったところで、アカデミー時代のことを思い出した。
——下級貴族で、アカデミーではあまり目立たなかったフレイヤ。
だが、いつの間にか上級貴族であり、宰相のご令嬢であるヴィオレッタ様と親しくしていたし、ヴィオレッタ様が卒業したと思ったら、上級貴族になったミランダ様とも親しくなり、さらには王子様までフレイヤに声をかけてきて、驚いたことも思い出した。
そう思うと——。
「……フレイヤって昔っからそうだったわね」
うん。王子様に比べたら、領主様に頼みごとができることくらい、普通に思えてきた。




