21.変わった、ナディア。
「……ミキサー?」
日本でジュースを作る時に使っていた、ミキサーそっくりなものがそこにあった。
「えー! ミキサーのことも知ってたの?」
フレイヤは、私がミキサーまで知っていたことに残念そうな顔をしたが、ミキサーを撫でながら得意げに続けた。
「これはね、ミランダ様たちが作ったのよ」
「ミランダ様って……」
その名前には聞き覚えがあった。
「私たちの同級生でフェラール商会に嫁がれた、あのミランダ様?」
「うん」
私はミランダ様とあまり親しくはなく、挨拶をする程度の間柄だった。
ただ、在学中にミランダ様のお母様が上級貴族に嫁いだことで、ミランダ様自身も中級貴族から上級貴族になり、アカデミーでもずいぶん噂になったことをよく覚えている。
そして——せっかく数少ない上級貴族になれたというのに、彼女はアカデミー卒業直後、中級貴族であるフェラール氏と婚姻し、あっさり上級貴族という立場を捨てた。
そんな彼女を見て、志摩子の記憶を取り戻す前のナディアは……。
「せっかく上級貴族になれたのに、馬鹿な選択を……」と思いつつも、自分の意志を貫く姿をどこか眩しく思っていたのだ。
「……ナディア! 聞いてる?」
「うわぁ!」
はっと我に返ると、目の前にフレイヤの顔があり、思わず大きな声を上げてしまった。
「もー! 大事な話、してたのに」
「ご、ごめん! もう一度教えてくれる?」
謝る私に、フレイヤは目を丸くする。
そして、首を傾げた。
「ナディア、なんか変わったね。前だったら……」
そう言うと腕を組み、じろりと私を睨む。
「聞いてるわよっ! 近くで大きな声を出さないでちょうだいっ」
「……」
「なんて、言ってたのにっ!」
それは、私のマネ?
……って、まずい。
最近、孤児院の中では演技をやめ、素直に子どもたちと接してしまっているので、油断してた。
どうする?
今からでも、以前のナディアみたいにした方がいい?
なんて考えていると……。
「よかった」
その声に顔を上げると、フレイヤは嬉しそうに笑っていた。
「アカデミーを卒業して、いきなり孤児院を任されて……どうなるか心配してたけど」
言葉が途切れた。
フレイヤと目が合う。
彼女は、やさしい笑顔で続けた。
「さっき私を孤児院長室に案内をしてくれた子どもと、ナディアが笑顔で話しているのを見てびっくりしたの。
……楽しく過ごせてるみたいで、安心したわ」
その言葉と笑顔を見て、「この子は、本当にナディアのことを心配してくれてたんだ」と改めて実感した。
「それで、なんでミキサーなんて持ってきたの?」
この世界には天職があり、スキルがある。
スキルはとても便利なものだ。
その反面、志摩子の世界と違い、対応するスキルを持っていないと出来ないことも多かった。
特に驚いたのは、料理だ。
志摩子の世界では、苦手な人こそいても、多くの人が普通に出来たことだ。
普段ほとんど料理をしない人はいるが、小さい子どもでもなければ一度くらいは包丁を握ったり、火を使ったことがあるだろう。
だが、この世界では——
料理は、【調理】のスキルがないと出来ない。
この孤児院では人数が多いため、孤児院のスタッフの中に【調理】スキルを持つ者がいて、調理場でごはんを作ってくれるが、各家庭ではそうではない。
【調理】スキルを持つ料理人でもなければ基本的に料理が出来ないので、料理人を雇える貴族や富豪を除いて、一般家庭にキッチンは基本的にないのだ。
だから——フレイヤが持ってきたこれが、日本にあったあのミキサーと同じものなのだとしたら、立派な調理家電だ。
それをどうするつもりで持ってきたのだろう?




