20.とある方からの贈り物。
「はい、約束のクリスディアのクッキーよ」
「ありがとう!」
前回の小さな箱の何倍もある、大きな箱。
受け取るとずっしりと重く、中にたくさん入っていることが分かった。
「こんなにたくさん……よく買えたわね」
数年前から“美食の街”なんて呼ばれるようになった隣街クリスディア。
その中でも特にお菓子はお土産として人気が高く、かなり前から予約をしないと手に入らないものも多い。
クッキーだって、人気商品だ。
ただでさえ人気なのに、それをこんなにたくさん……大変だったに違いない。
感謝を込めるように箱を撫でていると、「ふふっ」と笑い声が聞こえた。
「なによ、フレイヤ」
思わず、目の前にいる友人を睨む。
成人の儀を境に、私の人生は大きく変わってしまった。多くの友人が私から離れていったが、フレイヤは今もなお“友人”と呼べる貴重な存在だ。
彼女はいたずらっぽい笑顔を浮かべると、言った。
「それ、開けてみて」
「?」
言われるがままに箱を開けると、そこには前回メイたちと一緒に食べたプレーンクッキー。
それがぎっしりと詰まっていた。
これだけあれば——孤児院の子どもたち全員で食べられる。
メイたちとクッキーを食べた時に約束した。
“今度は、みんなで食べよう”
その約束を叶えられるんだ!
そう思うと、自然と笑顔になってしまった。
「喜ぶのはまだ、早いわよ」
「……何が?」
フレイヤはティーカップをソーサーに置き、そっと立ち上がった。
そして、私の目の前にあるクッキーの箱を掴むと、持ち上げた。
「まあっ!」
箱は二段になっていた。
上段のプレーンクッキーが入った箱を持ち上げると、下から同じく前回食べたチョコチップクッキー、ナッツクッキー、それにペシェルのジャムクッキーが出てきた。
それ以外にも、見たことのないクッキーが何種類も入っている。
さらに——
「まだまだよ」
フレイヤが二段目の箱も持ち上げる。
すると、その下にはまるで宝石箱のようなお菓子の詰め合わせが現れた。
私はつやつやと輝くそれを、じっと見つめる。
「……チョコレート?」
「えっ! 驚かせようと思ってたのに!」
思わず呟いた言葉に、フレイヤが驚きの声を上げた。
「さすがはナディア。チョコレートを知ってたのね。クリスディアでもなかなか買えないのに」
驚かせられなかったのが悔しいのか、拗ねたように唇を突き出していた。
つい志摩子の時の記憶から『チョコレート』と言ってしまったが、ナディアとして、チョコレートを見た覚えはない。
おそらくクリスディアで、最近作られるようになったものなのだろう。
……だとすると、新たな疑問が出てくる。
「クリスディアでもなかなか買えないって物を、よくこんなにたくさん手に入ったわね?」
「ええ、“とある方”がとても快く、協力してくれたの」
「……とある方? ヴィオレッタ様ではなく?」
私の問いかけに、フレイヤはまた「ふふふ」と意味ありげに笑った。
ヴィオレッタ様というのは、フレイヤが仕えている上級貴族の御令嬢だ。
ヴィオレッタ様のお父様はこの国の宰相だ。
だからクリスディアの菓子店にも何かしら人脈があるかもしれない、と思ったがそうではないらしい。
ドン!
フレイヤがさらに大きな包みをテーブルに置いた。
っていうか、それどこから出したの?
なんて思っていると、フレイヤが包みを解いた。
中から現れたのは——
「……ミキサー?」
日本でジュースを作る時に使っていた、ミキサーそっくりなものがそこにあった。




