19.これから、もっと仲良く。
「はぁ……美味かったなぁ」
思い出すように、ロイが言った。
よほど美味しかったようだ。
「ああ、すごく美味かった!」
「ぷっぷぷ~」——『またたべたーい』
マークとルーも同意し、ルーはまたぼいんぼいんと全身で『おいしー!』を表していた。
けれど、メイがぽつりと呟いた。
「……私たちだけが、こんな良いもの食べて良かったのかな」
みんなの視線が、メイに集中する。
それに気がついたメイは、笑顔を作った。
「ごめん! 変なこと言って……」
空気を悪くしてしまったと思ったのだろう。
でも、メイが言ったことはおかしいことじゃない。
「ううん。今度はみんなで食べられるよう、たくさん用意するわね」
「……はい!」
私の言葉に、今度は本当に嬉しそうな笑顔で頷いてくれた。
笑い合う私たちを、男の子二人がぽかんと見つめた。
「院長って……よく笑うんだな」
「ああ、それに今日は……全然怖くない……」
その言葉に驚いていると、ルーがぽよぽよ跳ねながら
「ぷー!」——『なでぃあは、やさしいよー!』
と言ってくれた。
……彼らには伝わらないけど。
ありがとう、ルー。
そして、メイも
「だから言ったでしょ! 『院長はやさしいよ』って」
そう言ってくれた。
……どうしよう、ちょっと泣きそうになった。
志摩子としての記憶を取り戻す前の私は、本当に酷かった。
『ポイ活』という謎のスキルを授かってから、それまで仲良くしていた家族や友人たちは、少しずつナディアから離れていった。
そして何より――。
成人後には結婚し、幸せになれると信じていた婚約者から、婚約破棄を突きつけられた。
その末に、私はこの孤児院へ来たのだ。
そんな境遇が悲しくて、そして何よりも能力のない自分が情けなくて。
貴族として生きていれば、関わることがなかったであろう子どもたちに、毎日イライラし、当たり散らしていたのだ。
「ごめんなさい」
皆が目を丸くし、私を見た。
私は手を握りしめ、続けた。
「突然この孤児院を任されて、どうすればいいか分からなかったの。自分の中で消化しきれない不満や喪失感を、あなたたちにぶつけていたの」
今の私から見れば、ナディアが受けた扱いは、あまりにも理不尽で同情してしまう。
だけど、だからといって何の罪もない子どもたちに、そのイラつきをぶつけていいわけじゃなかったのだ。
「いつも私はあなたたちに怒っていたけど、あれは完全に八つ当たりだったわ」
……謝れば済む問題ではない。でも、この言葉を言わずにはいられなかった。
「ナディア院長」
メイの声に促され、顔をあげる。
メイは、まっすぐこちらを見て言った。
「正直に言います。院長が怖くて、苦手でした」
正直すぎる意見に、言葉を失う。
私が何も言えずにいると、横からロイとマークが小声でメイに話しかけた。
「……おい! さすがにマズイって……っ」
「メイ、謝れ!」
……コソコソ言っているが、まる聞こえである。
でも、メイは間違っていない。
謝らなくてはならないのは、私の方だ。
「うん……怖がらせて、本当にごめんなさい」
私は頭を下げた。
しばしの沈黙。
頭を下げ続ける私に、メイがそっと続けた。
「でも、最近の院長は……好きです」
「え?」
予想外の言葉に、思わず顔を上げた。
メイは続ける。
「この前は私の手を冷やして、心配してくれました。ルーちゃんを大切にしていて、私たちにも笑ってくれるようになりました」
メイはやさしく微笑む。
「これからはもっと、院長ともルーちゃんとも、仲良くなりたいです!」
「うん。私も……」
一瞬、言葉に詰まる。
でも。
私を真っ直ぐに見つめるメイ。
私が“変わった”とはいえ、ずっと怖かった相手に『苦手だった』と言うのは、勇気が必要だったはずだ。
「今さら、虫のいい話かもしれないけど……」
私も——それに応えなきゃいけない。
「あなたたちと……みんなと、もっと仲良くなりたい」
素直な思いを伝えた。
「うんっ!」
メイが嬉しそうに笑う。
続いて、マークも。
「……俺も……最近の院長なら、怖くないよ」
と言ってくれた。
そして、ロイは……。
「ああ、クッキー美味かったしな!」
そう言って、にかっと笑った。
「それは、院長と仲良くしたいっていうより……」
「クッキーをまた食べたいってことじゃあ……?」
「ぷっぷぷ~!」——『るーも、くっきーまたたべるー』
ルーが楽しそうに飛び跳ねていた。
そんなルーを見て、私たちは思わず笑い合った。




