18.幸せの味。
「……お、おじゃましまーす」
メイ、そして私に続き、ロイとマークが緊張した面持ちで孤児院長室に入ってきた。
……ここは、安直だがあれを使うか。
私は引き出しの中から、小さな箱を取り出した。
「これね、お友達からこれを貰ったの」
私が蓋を開け、子どもたちとルーが覗き込んだ。
「うわぁ」
「何これ!」
「なんか美味そうな匂いがする」
「ぷぷ~!」
みんなの目がきらきらと輝き、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
みんなを代表するように、メイが尋ねた。
「院長、これ! なんですか?」
「隣町のクリスディアで最近人気のクッキーよ」
私が答えると、男の子たちが驚きの声をあげる。
「クッキー、なんか聞いたことある!」
「確かお貴族様とかが食べるお菓子だよな!?」
興奮する彼らを見て、思わず笑いながら答えた。
「クッキー自体は昔からあるお菓子だけど、最近クリスディアで売り出されたこの箱には、新しい種類のクッキーが入ってるのよ」
「新しい種類のクッキー?」
メイが首を傾げると、ルーも一緒に体を傾けた。
いいコンビだなぁ、なんて微笑ましく二人を見ながら私は小皿を取り出した。
「じゃあ、まずはプレーンのクッキーから」
みんなの前に昔ながらの、シンプルなクッキーを置いた。
「え?」
ぽかんとクッキーを見つめるロイ。
ルーは体をぷるぷるさせ聞いてきた。
「ぷー!」——『なでぃあー、これたべていいの?』
「ええ、どうぞ」
「ぷぷ~!」——『わーい』
ルーはクッキーを触手で掴むと、ぽいっと体に放り込んだ。
じゅわぁぁ!
クッキーが、ルーの体の中で溶けるように消えていく。
皆はあっけにとられたように、それを見守った。
そして——。
「ぷぷぷぷぷ~!」——『おいしー! なにこれー』
ルーは感動を体全体で表すように、ぐにょんぐにょんと揺れる。
「ぷー!」——『なでぃあー、もっとたべたーい』
そう言って(鳴いて?)びょんびょん飛び跳ねた。
「はいはい、ちょっと待ってね」
私はルーを制止し、子どもたちへ笑顔を向けた。
「みんなもどうぞ。食べないとルーが全部食べちゃうわよ?」
「食べて……いいの?」
ロイがぽかんとした顔で聞いてきた。
私は笑顔で頷く。
「もちろん」
子どもたちは顔を見合わせると、嬉しそうに食べ始めた。
そして——。
「うま……っ!」
「あまーい!」
「サクッとしてるー!」
良かった。美味しかったようだ。
だったら——。
さらに、ほかの種類も取り出す。
新作のチョコチップクッキー、ナッツクッキー、そしてペシェルのジャムクッキーを皿に並べた。
ペシェルというのはりんごに似た果実だ。
ただし、熟すと中まで赤くなる。
そのためジャムは鮮やかな赤色で、クッキーの中央にのったそれは、まるで宝石のようだった。
それをじっと見つめる子どもたちとルー。
メイが控えめに、だが期待を込めるように聞いてきた。
「院長……もしかして、これも……?」
「ええ、もちろん食べていいわよ」
「やったー!」
三人と一匹は、ものすごい勢いでクッキーを食べ始めた。
「おいしぃ、幸せの味……!」
「俺、こんな美味いもの初めて食べた」
「あっという間になくなっちまったな……」
メイ、ロイ、マークがそれぞれ感想を口にする。
そして、ルーは、
「ぷっぷぷ~!」——『おいしかったー!』
と、また飛び跳ねていた。




