17.孤児院長室の前で。
――翌日。
「ん?」
私はお手洗いから院長室へ戻る途中、その扉の前にロイとマークがいるのを見つけた。
思わず廊下の角に身を隠す。
……何をしているのかしら?
そう思いながら様子を窺っていると、二人の会話が聞こえてきた。
「ロイ、ノックしてみろよ」
「やだよ! マークがやってよ」
どうやら、どちらがノックをするかで揉めているらしい。
……私に何か用かしら?
声をかけようか迷っていると――。
「あんたたち、何してんの?」
向こう側から現れたのはメイだった。
「なんだ、メイか」
「院長かと思ったじゃん。脅かすなよ」
二人が揃って、ほっと息を吐く。
そんな様子を見たメイの瞳が、すっと細められた。
「なに? 院長だとまずいようなことしてたの?」
びくりと体を揺らす二人。
……何しようとしてたんだろう。
私までドキドキしてきた。
しばしの沈黙のあと、ロイがぽつりと言った。
「……スライム」
「スライム? スライムってルーちゃんのこと?」
ロイがこくんと頷く。
続けて、マークが口を開いた。
「俺は昨日、あのスライムを触ってないから……ロイにどんな感じだったか聞いたんだ。そしたら……」
「すっげぇ柔らかくて、冷たくて、ぷるぷるしてて、かわいくて……思い出したら、また触りたくなっちゃったんだよっ!」
――分かる!
ルーのぷるぷるボディは魅力的よね。
なんて思っていると、メイも深く頷いた。
「それは分かる。ルーちゃん、かわいいよね!」
そう言って、ぐっと拳を握る。
「おやつを食べると、『おいしー!』って感じで『ぷっぷぷ~』って鳴くんだよ! 楽しいときは、体をぼいんぼいん弾ませるのもかわいいよね!」
――うんうん、そうよね!
心の中で思わず同意してしまった。
けれど、ロイとマークはそんなルーの姿をまだ知らないらしい。
「そうなのか? いいなー、俺もそんな姿見てみたい!」
ロイが叫び、マークも大きく頷く。
それを見て、メイはふふんと得意げに笑った。
「それにルーちゃんは、とってもやさしいのよ! この前、私が火傷したとき、あの体で手を包み込んで冷やしてくれたんだから!」
その発言に、衝撃を受ける二人。
「あのスライムが手当てしてくれたのか!?」
「なんだよそれ、ずるいぞメイ!」
「くそー! 俺たちもスライムと仲良くなりてぇ」
そう言って、孤児院長室の扉を見つめる。
「でも、ノックするの……怖いよなぁ」
マークの呟きに、ロイが何度も頷いた。
……やっぱり、私がまだまだ怖がられてるのか。
なんて少し落ち込んでいると、メイの声が聞こえた。
「ナディア院長も最近やさしいよ? 大丈夫だよ」
そして——
コンコンッ!
「院長いますかー? メイです」
あっさりノックをした。
それを見て、更に驚く二人。
「そんな簡単に……!」
「メイ……お前、勇者だな」
メイはそんな二人を気にせず、こてんと首を傾げた。
「……あれ? 反応ないね。てか、部屋の前でこんなに騒いでも出てこないんだから、院長居ないんじゃないの?」
男の子二人は顔を見合わせ、安堵した。
「なんだよ院長いないのかよ!」
「緊張して損した~」
「私ならここにいるわよ」
「「い、院長!」」
私は、ちょっといじわるかな。と思いつつ、二人の背後から顔を出した。
あからさまに、びっくりする二人。
「あ、院長」
「おはよう、メイ」
それに対して、メイはもうすっかり懐いてくれていて、笑顔で挨拶を返してくれた。
「院長、ルーちゃんは中に居ますか?」
「ええ」
そんな会話をしながら、孤児院長室の扉を開けると——。
「ぷぷぷ~」——『めいー』
ルーが嬉しそうに飛び出してきた。
どうやら廊下の声を聞いていたらしい。
「ルーちゃん!」
ぽよんっと飛んできたルーを抱きしめるメイ。
うん、ほんとに仲良しになったわね、この子たち。
そして——。
「あなたたちも、良かったら入って」
私は後ろを振り返ると、ロイとマークに声をかけた。




