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異世界ポイ活、始めました〜婚約破棄された悪役令嬢ですが、私だけ「ポイント」が貯まるようなので毎日お得に暮らします〜  作者: よつ葉あき
第2章 怖い院長、やめてみます。

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16.みんなと一緒に。


「あれ、リコたちもう戻って――って、院長!?」

 

 食堂に入ってきたリコに声をかけたロイだったが、後ろに私がいることに気づき、驚きの声を上げた。

 ざわついていた食堂が、一瞬で静まり返る。

 皆の視線が私に集中した。

 

 どうしよう。やっぱり戻った方がいいかな……。

 

 ――と思った、そのときだった。

 

『わー、ひとがいっぱいいるぅ』

 

 私の腕からルーがぷるんっと飛び出した。

 床に着地したルーはそのまま、興奮した様子でぼいんぼいんと跳ね回る。

 

「ぷっぷぷ~!」

 

 みんなが呆気にとられたように、ルーを見つめる。

 そんな中、メイがすぐに駆け寄り、ルーを捕まえた。

 

「ルーちゃん!」

「ぷ~」——『ここなにー? ひろいおへやだねぇ』

 

 耳には「ぷ~」という鳴き声しか聞こえないが、私の頭には『ルーのことば』が副音声のように聞こえてきた。

 

「ルーちゃん、ここはみんながご飯を食べる場所だよ」

「ぷぷ~」——『そうなんだー?』

「だから、大人しくしててね?」

「ぷー」——『わかったー』

 

 メイには『ルーのことば』が聞こえないはずなのに、なぜか会話が成立していた。

 そんな二人が可愛くて、思わず「ふふっ」と笑ってしまった。

 

「……院長が、笑った?」

 

 横にいたロイの口から、そんな言葉がこぼれた。

 思わずロイを見る。


 ロイは「しまった!」という表情を浮かべ、両手で口を押さえたが……。

 ごめん、ばっちり聞こえたわ。

 

「ばか、ロイ!」

 

 そばにいた、ロイより少し年上の男の子——マークが駆け寄ると、ロイの頭をぐいっと下げた。

 

「申し訳ございませんでした!」

 

 そう言いながら、自らも頭を下げる。

 ロイも横目でそれを見て、「すみませんでした!」と、大きな声で頭を下げた。

 

 また空気が重くなってしまった。

 どうしたものかと考えていると――。

 

「ルーちゃん!?」

「ぷっぷー!」

 

 メイとルーの声が聞こえたと思った次の瞬間、ルーが勢いよくロイの頭に着地した。

 

「うわ、なんだこれ!」

「ぷ~」——『だいじょうぶだよー。なでぃあはおこってないよー』


 みんなには「ぷー」としか聞こえない。

 でも、私にはルーの気持ちがちゃんと伝わってきた。

 

 ……ありがとう、ルー。

 

 ルーはロイの頭の上で、「ぷー!」とぽよぽよ跳ねる。

 私はそんなルーを捕まえ、そっと抱き上げる。

 頭の上からルーがいなくなると、ロイがそっと顔を上げた。

 その視線と、私の目が合う。 


「……あ」


 気まずそうなロイ。

 私はぎゅっとルーを抱きしめる。


 ……私も勇気を出さなきゃね。


「大丈夫よ、怒ってないわ」

「え……」


 ロイが目を丸くする。

 

「私はみんなと一緒に食事をしに来たの」


 私の言葉にリコが笑顔で頷く。


「はい、お昼ご飯にしましょう」

「みんなで食べよ!」


 メイも嬉しそうに頷くと、私の腕の中からルーを抱き上げた。


「ルーちゃんもお昼ご飯まだだよね? 一緒に食べよ!」

 

 返事をするような「ぷ~」というルーの声が響き、食堂の空気が少しだけ和らいだ気がした。


 リコに促され、私は空いていた席へ腰を下ろす。

 

 ……とはいえ。

 私の周りだけ、妙に静かだ。

 

 ちらちらとこちらを見る子。

 目が合うと、慌てて視線を逸らす子。

 まあ、そうよね。

 ずっと怖かった院長が突然、一緒にご飯を食べ始めたんだもの。

 

 私はスプーンを手にとった。

 少し遅れて周りの子どもたちも食べ始めた。


 会話もなく、黙々と食べる。


 ……気まずい!


 すると横からルーの鳴き声が聞こえた。

 

『なでぃあ、おいしー?』

「うん……」

「……院長、ルーちゃんとお話してる?」

 

 ルーの向こう側にいたメイに聞かれ、ぎくりとする。

 

「え、ええ。まあ……なんとなく」

『ルー、ちゃんとしゃべってるよー!』

 

 そんなことを言われても、みんなには「ぷぅ」としか聞こえていない。

 思わず笑うと、今度はさっきよりも少しだけ、子どもたちの表情が和らいだ。

 すると――。

 

「あの……院長」

 

 小さな声が聞こえた。

 見ると、少し離れた席に座っていた女の子が、おそるおそるこちらを見ている。

 

「なに?」

「……そのスライム、触ってもいいですか?」

 

 私は思わず目を丸くして、それから笑った。

 

「ええ、もちろんよ」

「ぷー!」


 ルーは嬉しそうに、女の子の元へ跳ねて行く。

 女の子は、そっとルーに手を伸ばした。


「わ! 冷たい。でも気持ちいい~」

「ぷ~」


 ルーも嬉しそうに目を細める。

 そんなルーを見て、ほかの子たちもそわそわし始めた。

 そして……。


「あの……院長! 俺も触っていいですか?」


 ロイが緊張ぎみに聞いてきた。

 私は笑顔で答える。


「ええ、もちろん」

「ありがとうございます!」


 ルーに駆け寄る、ロイ。

 ルーはロイの頭に乗り、ぽよよんと飛び跳ねた。


 ……どうやら、ロイの頭の上が気に入ったらしい。

 

 嬉しそうに跳ねるルーを見て、食堂のあちこちから小さな笑い声がこぼれる。

 

 うん。

 いきなり全部は無理でも、こうやって少しずつでいい。

 

 今日は、その最初の一歩だ。


 

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