12.洗わなくてもいいんです。
その後、『おしりふき』もポイント交換すると、私はおむつが入った袋を掴んだ。
「じゃあ、さっそく使ってみましょう!」
「は、はい」
戸惑うリコを連れ、小さい子たちが集まっている部屋へと向かった。
◇◆◇
「ここは……天国?」
扉を開けた瞬間、思わずまたひとりごとが漏れてしまった。
目の前では、0~2歳くらいと思われる乳幼児たちが床に座ったり、もぞもぞと這ったりしていた。
――可愛すぎる!!
「院長、どうされたのですか?」
心の中で子どもたちの可愛さに悶絶していると、子どもたちの世話係をしているマチが、緊張した面持ちで話しかけてきた。
……勢いで来ちゃったけど、以前のナディアは、こんな小さい子たちの部屋に来ることなんてなかった。
むつきをしている赤ちゃんを見て……。
『臭いし、よだれを垂らして汚いわね。こっちに来させないでちょうだい!』
なんて言い放っていた。
「……」
最低だーー! 何たる女なの、ナディア!
以前のナディアにむかついていると、リコが代わりに口を開いた。
「あの、むつきを替える子はいない?」
「え……? ちょうど、この子のむつきを交換しようと思っていたところだけど」
戸惑いながらも、ぐずっていた一歳くらいの子を指し示した。
本当に交換するところだったらしく、マチは片手に綺麗なむつきを持っていた。
これはちょうど良さそうだ。
「新しいむつきが手に入ったの。こちらを使ってみない?」
リコがおむつを差し出す。
「新しい……むつき?」
おむつを見て、マチが目を丸くした。
「これは……どう使うのかしら?」
やはり首を傾げる。
まあ、そうよね。
「とりあえず、今つけているむつきを外してちょうだい」
「は、はい!」
私の指示を受け、マチがむつきを外した。
「あ、こら!」
でも、子どもは大人しくしてくれない。
むつきを外した途端、ころんと横向きになった。
すかさず、リコが赤ちゃんの脚をそっと押さえる。
さすが、赤ちゃんの扱いも慣れているようだ。
「リコ、これ使って」
おしりふきを一枚取り出し、リコに渡す。
「濡れてますね。これはウェットティッシュですか?」
リコはまじまじとおしりふきを見る。
「でも、以前いただいたウェットティッシュより柔らかいですね」
「よく気づいたわね。赤ちゃんのお尻を拭くものだから、柔らかく作られているの。それに、アルコールも使われていないわ」
「なるほど」
リコは手早く綺麗にしてくれた。
「じゃあ、これを履かせてみて」
足を通して、腰まで上げて――。
「これで終わりよ」
「これで……終わりですか?」
リコとマチが顔を見合わせる。
おむつを交換された赤ちゃんは、手足をばたつかせながら嬉しそうに笑った。
……ぐずってたのは、むつきが気持ち悪かったからみたいね。
「おむつが汚れたら、両脇を破いて外して、丸めるの。後ろについているテープで留めれば、そのまま捨てられるわ」
「ええっ、捨てちゃうんですか? 勿体ない!」
やはり、またこの反応をされた。
思わず大きな声を出したマチを見ると、彼女はハッとしたあと、
「申し訳ございません!」
と、勢いよく頭を下げた。
どうやら、私を怒らせてしまったと思ったようだ。
「別に気にしなくていいわよ」
と言いたいところだが、以前のナディアなら、そんな優しい言葉をかけるはずがない。
どうしたものか……と困っていると——。
「他にむつきを替える子はいない?」
「えっと、あとはあの子たちもそろそろ交換しないといけないと思うわ」
リコが上手く話題を変えてくれた。
◇◆◇
「本当に、簡単だったわね」
自らもおむつ交換をしてみたマチが呟いた。
それにリコが同意する。
「ええ、今までのむつきよりとっても簡単だったし、なにより使い捨て! むつきを洗わなくていいなんて……!」
「そうよね。洗わなくていいということは干さなくてもいいわけで……」
「うんうん! 干さなくてもいいってことは、畳まなくても……」
二人が目を輝かせながら確認し合う。
私は深く頷いた。
「ええ、洗わなくても、干さなくても、畳まなくてもいいわよ」
二人の表情が、ぱっと明るくなった。
「ナディア院長!」
「な、なに?」
あまりの勢いに押されながら答えると、リコがおむつの袋を掲げた。
「このおむつは本当に素晴らしいものですね!」
「でしょ?」
思わず、得意げに胸を張ってしまった。
……私が作ったわけじゃないけどね。




