【Side:浅野紗夜】自分の人生について本音を口にしたのは、これが初めてだった
※本話は、YouTubeで公開している浅野紗夜のキャラクターテーマ曲『Still Breathing』を聴きながらお読みいただくと、より深くお楽しみいただけます。
歌詞にも、本話とリンクする部分があります。
『Still Breathing(Asano Sayo Character Theme #1)』
https://youtu.be/gx5nVwJn1L8
「紗夜ちゃん、お誕生日おめでとう~」
「俺たちからの誕生日プレゼントも買ってきたぞ!」
「わあ……ケーキだけじゃなくて、プレゼントまであるの!?えへへ……お父さん、お母さん、大好き!」
お父さんがプレゼントを買ってきてくれたと知って、私は心の底から嬉しくなった。
幼い頭を目いっぱい働かせ、目の前にある小さなプレゼント箱の中には、いったい何が入っているのだろうと想像した。
前にデパートで見かけて、気に入っていたクマのぬいぐるみかな?
食べきれないくらいたくさんのお菓子?
それとも、おもちゃ売り場を通りかかった時から、ずっと欲しいと思っていたおままごとのセット?
あるいは……
前に本屋さんで見かけた、カラフルな絵本?
「開けてみて。きっと気に入るから!」
「うん!」
シュッ――
プレゼントの箱を開けると、中に入っていたのは、ピンク色の筆箱と文房具一式だった。
「えっ?」
「じゃじゃ~ん。気に入ったか、紗夜ちゃん?この文房具セットを見てごらん。わざわざキャラクターが描かれたものを選んだんだぞ」
「おお……」
「……ど、どうした?もしかして、こういう誕生日プレゼントは気に入らなかったか?」
別に、嫌いというわけじゃない。
でも、そんなに好きでもなかった。
だけど、これはお父さんとお母さんの気持ちがこもったプレゼントだ。
気に入らないと言ったら、二人とも悲しむだろう。
少なくとも……
この鉛筆と消しゴムに描かれているキャラクターはどれも可愛いし、悪くない!
「大好き!大事に使うね」
「うんうん~。これなら学校でもきっと使える。やっぱり誕生日プレゼントは、実用的なものが一番だな」
「ありがとう、お父さん!」
「さあ、ケーキを切ろう」
あれは、私が四歳の誕生日を迎えた日のことだった。
そして、初めて自分に嘘をつき、好きなのだと言い聞かせた日でもあった。
◇
「うちの紗夜ちゃんは本当にすごいわ。またテストで百点を取ったのね!」
「お母さん、それなら、ご褒美にいちご大福を買ってくれる?私、本当に本当に一生懸命勉強したんだよ!」
「あら、それは駄目よ。いちご大福は甘すぎるもの~。甘いものを食べすぎると、歯が全部抜けちゃうわよ?」
「うぅ……でも……!」
私、あんなに一生懸命、真面目にテスト勉強したのに!
「その代わり、お母さんが抹茶味の大福を買ってあげる。それでいい?」
「うん……それも悪くない。いいよ!」
その日が、満点の答案用紙を手に、喜んでお母さんに自慢した最後の日になった。
確か……
あの頃は、小学五年生くらいだったと思う。
当時の私は、クラスのみんなとは違っていた。
みんなは放課後になると、誘い合って近くの遊び場へ出かけていた。
私は?
私は、すぐに家へ帰らなければならなかった。
放課後には、お父さんとお母さんが、ダンスや絵画、書道、ピアノなどの習い事に加え、さまざまな塾の予定まで入れていたからだ。
とにかく、祝日以外はほとんど毎日、予定がぎっしりと埋まっていた。
私は少しも疲れているとは感じなかった。
むしろ、これならまたお父さんとお母さんに褒めてもらえるかもしれないと思い、新しいことを学んでいく過程さえ楽しかった。
それから間もなく、私は初めて気づいた……
本当は、私には選ぶ権利を与えられていないこともあるのだと。
◇
「ねえねえ、浅野さん~。今日、放課後に一緒にタピオカミルクティーを飲みに行きませんか?新しくできたこのタピオカのお店、ネットですごく話題なんですよ!ここのミルクティー、すっご~く美味しいらしいです!私も飲んでみたいので、一緒に行ってくれませんか?」
「で……でも……このあと、ピアノ教室に行かないと……」
「えっ?一昨日は生け花教室に行って、昨日はヴァイオリンのレッスンを受けてませんでした?」
「うん。昔から、毎日こういう習い事に通ってる。週末には、ほかの塾にも行かないといけない」
「ええええっ!?『勉強モンスター』って噂、本当だったんですか!?」
……
勉強モンスター?
私はいつから……そんなあだ名で呼ばれていたの?
「前にクラスの子から聞いたんですけど、浅野さんは昔から毎日ずっと勉強に没頭しているので、みんな浅野さんのことを、退……違います!その熱意に畏敬の念を抱いているそうですよ!」
白石さんが今、言いかけた二文字は、退屈?
私……私は、退屈な人間なの?
勉強しなければ、お父さんとお母さんを失望させてしまう。
以前、一度だけ、うっかり九十九点を取ってしまったことがある。
その時、お母さんは私が唯一間違えた問題を指差し、こう尋ねた……
「どうして肝心なところで、こんな小さなミスをしたの?」
あの時、お父さんの顔にも失望の色が浮かんでいた。
「紗夜ちゃん……もう少し頑張っていれば、満点を取れたんじゃないかな?」
今でも、二人のあの表情を覚えている。
「でも、今日こうして浅野さんと話してみて、浅野さんって結構可愛い人なんだなって分かりました」
「ああ……それは知ってる。お父さんとお母さんにも、よくそう言われるから」
「そういう意味の『可愛い』じゃないですよ!性格のことです」
「性格が?」
「えっと……そう聞かれると、逆にどう説明すればいいのか、ちょっと分からないですね。とにかく、私たちはこれからきっと、いい友達になれると思います!」
白石華音。
彼女は、私が高校に入学した初日に、向こうから話しかけてきた隣の席のクラスメイトだった。
成績はごく普通で、習い事にも通っていなかったが、クラスで……いや、一年生の中でも、最も有名な美少女だった。
学校のどこにいても、必ず彼女に挨拶してくる友達がいた。
学校の外でさえ、時折知り合いに出会っていた。
彼女と私では、人間関係の広さに天と地ほどの差があった……
「あっ……もうこんな時間。そろそろ行かないと、間に合わないかも!」
「ごめんなさい、私が引き止めちゃいましたね。早く行ってください、浅野さん」
「謝るのは私のほう。ごめん、今度は必ず時間を作って、一緒に出かけるから」
「あはは、分かりました。それじゃあ次は、浅野さんにほかの予定がない日を選んで、一緒に遊びに行きましょう!」
みんなが青春を謳歌している間も、私はいつもどおり習い事の教室で授業を受けていた。
その時、私はようやく気づいた……
私は、自分の人生を楽しんでいなかった。
それでも、白石さんは本当にいい子だった。
私が誘いに応じられなくても、隣の席にいる私を避けることもなく、むしろあの手この手で私を勉強という底なし沼から引っ張り出そうとしてくれた。
彼女や彼女の友達と一緒に出かけた時、私は初めて、勉強以外にも、世の中にはこんなにたくさんの楽しいことがあるのだと知った。
そして、その頃からようやく、これまでの自分の人生が、本当に噂どおりだったのだと気づいた。
――退屈。
――――――
さっき、公園でぼんやりしていたら、変態のおじさんに襲われかけた。
けれど、一人の男が突然おじさんの背後に現れ、たった一撃で気絶させた。
彼は私に姿を見られたことに気づくと、すぐに私の口を塞ぎ、路地裏へ引きずり込んだ……
「簡単だ。ここで黙って死んでくれればいい」
続いて、彼は懐から拳銃を抜き、私の頭に突きつけた。
「私を殺すの?どうして?」
好奇心に駆られたのか、それとも納得できなかったからなのか。
何も知らないまま、わけも分からず死ぬのは嫌だったから、私はそう尋ねた。
「それは……」
すると相手は一瞬固まったあと、正気を疑いたくなるような話を、あれこれと語り始めた。
彼らの星は、宇宙から来た怪物に滅ぼされたらしい。
私たちの星へ逃れてきたあと、自分たちの仲間と瓜二つの人を殺し、誰にも知られないまま、その身分に成り代わって生きていくつもりなのだという。
そして私は、その暗殺対象の一人だった。
……
ははは……
本当に、何かの間違いじゃないの?
私の人生は、ずっと退屈だった。
それなのに今、怪しい男から、私と瓜二つの誰かが、私の死後、私に代わって生きていくのだと告げられている。
まさか、このつまらない人生が、最後の最後までこんなにつまらないなんて。
ほかの誰かに生きる席を譲るためだけに、私の人生はここで終わる。
「だから、あなたたちはこの世界で、自分たちとよく似た姿の人間を密かに暗殺して、その人の記憶と人生を奪わなければならない……そういうこと?」
彼の説明を聞いても、私の心には不思議なほど恐怖が湧いてこなかった。
それどころか、これから私に代わって生きていく【コピー】さんのために祈っていた……
――人生があまりに退屈だと感じて、自ら命を絶ってしまいませんように。
この気持ちは、諦観と呼べるのだろうか?
「なら、好きにすれば」
どうせ、生きていてもゾンビと大して変わらない。
自分の意思もない人形のように生きるくらいなら、このまま彼に引き金を引いてもらったほうがいいんじゃない?
「お、お前……自分が死ぬのが怖くないのか?」
「私の人生はつまらない。誰かが必要としているなら、持っていけばいい。どうせ生きていても、やりたいことなんてない。いっそ死んで、全部終わりにしたほうがいい」
「……?」
少なくとも……
故郷を失った一人の異星人の少女に、新しい家を見つけてあげられる。
死ぬ前に、一つくらい善行を積めたことになるのかな?
だから、お願い。いるかどうかも分からない神様。
次は、もう少し普通の人生を送らせて――
「どうして、そんなに簡単に自分の人生を差し出せるんだ?俺はさっき、通りでお前を見つけた時から、ずっと見ていたんだぞ」
……?
怒ってるの?
「お前には、お前を気にかけてくれる優しい友達が大勢いる。一緒に遊びに出かけることもできるし、着ている服だって古びていない。少なくとも、暮らしに困っているようには見えない。それに、お前自身も相当綺麗だ……」
こいつ、何を怒ってるの?
私を殺しに来た暗殺者のくせに、突然説教を始めた。
「お前は、いったい何が不満なんだ!?ほかの人が夢にまで見るものを、全部持ってるじゃないか!」
ああ……
なるほど。私の人生が、随分と「完璧」に見えるからか。
……
ふざけないで。
そんな冗談、笑えるわけがない。
腹が立つ。
こいつもほかの人たちと同じだ。勝手に分かったつもりになって、私の気持ちを軽んじている。
「全部持ってる?異星人のあなたに、何が分かるの?両親は、自分たちの子供なら何もかも完璧でなければならないと思ってる。ほかの子供たちが友達と砂場で遊んでいた頃、私は塾に通わされてた。中学生になってからも、山ほど習い事をさせられた。毎日、寝る時間を除けば、自由な時間は一時間もなかった」
理性を失ったかのように、私は胸の内に溜め込んでいた言葉を、彼に向かって怒鳴り続けた。
これを全部知っても、まだ羨ましいと思える?
思えないでしょ?
こんなのが、ほかの人が夢にまで見る人生だっていうの?
「成績?満点じゃなければ最低の成績。九十九点を取っても、お父さんとお母さんに説教される。それどころか、努力が足りない、肝心なところでミスをしたって言われる!どれだけ二人の望みどおりにしても、結局、何をしても駄目だって否定される!」
もう、何がどうなってもよかった。
これ以上、何かを気にする余裕なんてなかった。
積もり積もった悔しさを何もかも吐き出しているうちに、話せば話すほど怒りが込み上げ、声まで震えていることに気づいた。
「これが、ほかの人が夢にまで見る人生だって?ふざけないで!」
どれだけ頑張っても、手に入るものは……
結局、私が一番欲しかったものではなかった。
「勉強、勉強、勉強。毎日、勉強ばかり!もう疲れた。本当に疲れた。こんな人生が欲しい人がいるなら、あなたたちが持っていけばいい!」
自分の不満を誰かにぶつけたのは、これが初めてだった。
しかも、その相手は、異星人を名乗る奇妙な服装の男だった。
「……これで、やっとゆっくり休める」
私、疲れた。
本当に疲れた。
あなたが引き金を引けば、楽に死ねるというのなら、それでいい。
……せめて、頭を撃たれてもあまり痛くなければいい。
「オルレイア」
しばらくその場で固まっていた彼は、ようやく我に返った。
「標的を生かしたままでも、抽出装置で相手の脳内から記憶を取り出せるんだよな?」
彼はイヤホンに手を当て、仲間に何かを確認し始めた。
「……あとで、抽出した記憶を本艦へ送る。その時は、俺が独断でやったと上に伝えてくれ。通信を切る。縁があれば、また会おう」
彼がイヤホンを地面へ投げ捨てる直前まで、そこからは何度も彼を呼び止める声が聞こえていた。
けれど、彼はその声をまるで無視し、イヤホンを踏み潰した。
……
それに、さっき「縁があれば、また会おう」って言った?
帰らないつもりなの?
私を見逃すつもり?
「な……何をしてるの?私を憐れんでるの?」
ふざけないで!
ようやく解放されると思ったのに、こいつは土壇場で気が変わって、私を殺さないつもりなの!?
「好きに思えばいい。俺はもう、十分すぎるほど人を殺した。そろそろ足を洗おうと思っただけだ。動くな。お前の記憶を抽出する。少し痛むが、我慢すればすぐ終わる」
痛いかどうかの問題じゃない!
他人の人生を好き勝手に決める彼の態度が、たまらなく腹立たしかった。
だから私は必死に抵抗し、力いっぱい身をよじった。
せめて、たった一つだけ残された選択権を、自分の手で勝ち取りたかった。
「記憶の抽出は完了した。あとは、この記憶を本艦へ送信すれば……」
うぅ……
習い事ばかりしていないで、もっと体を鍛えておけばよかった。
あれだけいろいろなことを学んできたのに、結局、私はこんなにも無力だった。
こうして私は、自分の死さえ選べないまま、勝手に「生き続ける」という目的を与えられた。
「俺たちの【コピー】がお前に成り代わり、お前の代わりに生きていく。これからは……好きなように生きろ」
他人の人生を奪っておきながら、今度は奪われた相手に、好きなように生きろと勝手に要求する……
この変人、あまりにも自分勝手じゃない?




