第1話 追加された抹殺対象
ザシュッ――
「標的の抹殺完了。記憶の抽出も完了した」
「了解です~♪続いて、その記憶を【コピー】へ移植し、彼女には相手に成り代わって、その身分で生き続けてもらいます」
ちっ。
こんな終わりの見えない、ただ人を殺し続けるだけの仕事に、俺の心も多少は麻痺していた。
ほんの数か月前、全身が真っ黒で異様な姿をした、まるで俺たちを狩るためだけに生まれてきたような異星生物が、突如として俺たちの星へ侵攻してきた。
しかも、その怪物たちは互いにまったく異なる形態を持ち、攻撃手段すらそれぞれ違っていた。
やつらは空から降り立ち、その侵攻速度は各国の予想をはるかに上回っていた。
その結果、俺たちの星は壊滅的な打撃を受け、瞬く間に陥落した。
司令部の集計によれば、抵抗のさなかに同胞の九割以上が命を落としたらしい。
今、生き残っているのは、二隻の宇宙植民船に乗っている者たちだけだ。
それ以外は、全員死んだ。
俺の両親も逃げる間もなく、怪物たちが侵攻してきた初日にやつらに喰われた。
……
これが、俺たち全員にできる精一杯だった。
「お見事です、三号。初任務の時と比べて、今回は一時間も早かったですよ?次もこの調子で頑張ってくださいね!」
「はいはい。今回は運がよかっただけだ……」
イヤホンから、幼馴染であるオルレイアの弾んだ声が聞こえてきた。
人を殺すために「頑張る」なんて、どう考えてもどこかがおかしい。
それでも、同じように家族を失った彼女がそばにいてくれたからこそ、俺は歯を食いしばって耐えてこられた。
そのことには、本当に感謝している……
だが、日を追うごとに、植民船の食料は減り続けている。
この二隻の植民船は深刻な損傷を負っているだけでなく、定員を大幅に超える生存者を乗せていた。
本来なら数年は持つはずだった物資も、今では全員があと数か月持ちこたえられる分しか残っていない。
汚れ仕事を担う俺たち【プロキシ】が、毎日こなさなければならない任務の数も、目に見えて増えている。
コホン。話を戻そう。
宇宙を漂流していた時、俺たちは偶然、居住可能な青い惑星を発見し、植民船のみんなは大喜びした。
それだけではない。その星には、俺たちとさほど変わらない外見を持つ生命体が存在することも分かった。
だが、上層部は安全面を考慮し、その星へ直接着陸するわけにはいかないと判断した。
その理由は、星の各地でさまざまな兵器が確認されたからだ。
もし俺たちがいきなりその星へ降り立てば、原住民たちは俺たちを恐れ、武器を向けてくるかもしれない。
エラリスの住民が数万人もの異星難民を受け入れる意思を持っているかどうかは、誰にも分からない。
ひとたび交渉に失敗すれば、軌道上に留まっている二隻の宇宙植民船は、惑星上に配備された兵器の格好の標的となるうえ、俺たちには次の星へ逃げるための燃料も残されていない。
もし一歩でも踏み違えれば、俺たちは本当に終わりかもしれない。
だからこそ、すべては慎重に、現地の原住民を刺激しないよう進めなければならなかった。
そんな中、上層部の一人と瓜二つの原住民が発見されたことで、上層部はある恐るべき計画を提案した。
「我々は誰にも悟られないうちに彼らと入れ替わり、その身分を利用して生きていきましょう」
当時、彼らはそう宣言した。
それを聞いた誰もが、上層部は正気を失ったのだと思った。
しかし、全員が冷静になって考えてみると、それが今の状況では最も露見しにくい選択肢だと分かった。
同胞たちはこの星の至る所へ散らばることになるものの、少なくとも現地の原住民に反撃される心配はなくなる……
「えっと……あの、シエ……じゃなくて、三号!」
「まだ何かあるのか?こっちは今、現場の後始末で忙しいんだが……」
「上層部がまた新しい標的を見つけたそうです。帰還する前に、もう一件任務を終えてほしいとのことです」
「はあ?こっちはまだ後始末も終わってないのに、もう次の任務か?」
「ごめん、ごめん。上層部も三号が今忙しいことは分かっているので、今すぐ向かわなくても構わないそうです。今日中に任務を終えれば問題ありません。この【コピー】は体がとても弱いので、なるべく早く相手と入れ替わらせ、現地の医療センターで治療を受けさせなければならないんです……」
俺は軍学校にいた頃、もともと戦闘科の学生だった。そのため、臨時に徴用され、【プロキシ】になった。
【プロキシ】になる利点といえば……
個室を割り当ててもらえることと、普段の食事がほかの人より少しまともになることくらいだろう。
俺が【プロキシ】になったのを見て、オルレイアも自ら名乗り出て、俺専属の【アドミニストレーター】として連絡を担当し、俺に適した任務を割り振る役目を買って出た。
そうして、今のような形に落ち着いた。
俺たちは相棒として、毎日同胞のために働いている。
上層部が艦内の乗客とよく似た外見の標的を見つけるたび、その任務は【アドミニストレーター】へ回され、それぞれが担当する【プロキシ】へ割り振られる。
俺たち【プロキシ】の任務も、至って単純だ。
標的を抹殺し、特殊な装置で脳内の記憶を抽出して、艦船へアップロードする。ただそれだけだ。
その後、その記憶が【コピー】の脳へ移植される。
【コピー】が記憶に適応したら、エラリスへ降り立ち、標的に成り代わり、その人物の日常へ溶け込んでいく。
任務などと聞こえのいい呼び方をしているが、実際に俺たちがやっているのは人殺しだ。
みんな、そのことはよく分かっている。
同胞たちを生かすため、俺たちにほかの選択肢はない。
……
はぁ。
「心配しないでください、三号。今度の標的は、か弱い女の子が一人だけです。今は友達と買い物をしているので、周りに誰もいない隙を見計らって路地裏へ連れ込み、始末すればいいだけですよ」
ピピッ――
腕の端末が明滅し、投影ウィンドウに標的の写真が表示された。
それだけじゃない。
ウィンドウには標的の現在地、名前、身長、体重、それからさまざまな個人情報まで細かく載っていた。
本当に、上層部はいったいどうやってこれほどの情報を手に入れたんだ?
相手のスリーサイズまで――
コホン。
悪い。
見るべきじゃなかった。
「おやおや、三号?もしかして標的は三号のストライクゾーンでしたか?個人的な性欲で任務をおろそかにしてはいけませんよ?」
「俺がいつ任務をおろそかにした?老人も、若者も、子供も……男も女も、全員殺してきただろ。さっきはたまたま標的の個人データが目に入って、こんな情報を盗み見るのは標的に対して失礼だと思っただけだ」
「あっ……なるほど。こういうほどよいサイズが好みなんですね?どうりで私には興味を示さないわけです。大きいほうはお好みじゃなかったんですね……」
「オルレイア……頼むから、静かに後始末をさせてくれないか?」
「あははっ!ちょっとからかっただけですよ。退屈しているかと思いまして~」
オルレイアはもともと軍学校でも一、二を争う美少女で、本人も自分の容姿とスタイルに自信を持っていた。
ただし、人前にいる時と俺の前にいる時とでは、性格がまるで違う。
俺と二人きりになると、下ネタで俺をからかうのが大好きだ。
はぁ……
子供の頃は、まだまともだったのに。
どうして成長したら、まるで別人みたいになったんだ?
「よし、遺体の処理は終わった。転送を頼む」
「了解です~。あとで彼女も宇宙ゴミみたいに、ヒューン――と宇宙へ飛んでいきますよ!」
それに、下ネタだけでなく、こういうブラックジョークもかなり好きだった。
「……」
「どうして黙ってしまったんですか?標的にも敬意を払うべきなんですよね?はいはい。分かりました、分かりましたよ~」
「……分かったならいい。あの人たちは、俺たちのせいで死んだんだ。だったらせめて、すべての標的に相応の敬意を払うべきだろ?」
「私はただ、場を和ませようとしただけですよ」
「じゃあ、次の任務に向かう」
たまには、もう少し自重してくれるといいんだが。
抹殺されたエラリス人たちは、俺たちに何の恨みもなかった。彼らの死を冗談で片づけるような真似は、どうしてもしたくない……
「ご武運を~。あとでお風呂に入って綺麗にしてから、あなたの部屋で帰りを待っていますね?」
「それは遠慮しておく。今日はもう死ぬほど疲れてて、お前に付き合う体力なんて残ってない。悪いな」
「ふ~ん。動く体力がないなら、横になっているだけでいいですよ。私が動きますから」
「おいおい、頼むから勘弁してくれ。そんなことをほかの誰かに聞かれたら、俺たちがいかがわしい関係だと疑われるだろ」
とりわけ、彼女と支え合って生きてきたレオナ姉に。
あの人に聞かれたら、俺は明日の朝日を拝めなくなるかもしれない。
「あははっ。私は本気ですよ?」
とにかく、今はオルレイアの冗談を放っておいて、標的のいる場所の近くまで行って待機しよう。
……浅野紗夜、か?
本当に、響きのいい名前だな。
だが、【コピー】を生かすために、俺はお前を殺すしかない。
お前の名前は、しっかりとこの頭に刻んでおく。
……これまで俺が殺してきた、一人一人と同じように。
――――――
通りは明るい灯りに照らされ、道路にはさまざまな車が行き交っていた。
俺たちの星が滅ぼされる前も、街には同じような光景が広がっていた。
ただ、今は【プロキシ】以外の者が、この光景を自分の目で見ることはできない。
だからこそ、俺たち【プロキシ】は立ち止まることなく、一つでも多くの任務を遂行しようと努力している。
ほかの同胞たちにもこの景色を見せ、安心して生き続けてもらうために。
ふぅ……
頑張るか。
「この前、デートの帰り際に、すっごく可愛いクマのぬいぐるみまでプレゼントしてくれたんですよ!あの時は本当にすっご~く嬉しかったです!ほら、これです!」
「へぇ……いいなぁ~。うちの彼なんて、そういうロマンチックなことが全然分からなくて、いつも腹が立つんだよね……」
服装を見る限り、学生の集まりみたいだ。
資料によれば、俺の標的は今年でちょうど十八歳。俺より二つ年下だ。
あの中にいるはずだが……
あ。
いた。
「……」
少女たちの中に、ほかの友人たちの話を静かに聞いている桃色の髪の少女が一人いた。
だが、その視線は時折、遠くへと流れていた。
友人たちが楽しそうに話しているのに、彼女はほとんど反応を示さない。
まるで……この世界と一定の距離を置いているかのようだった。
何か考え事でもしているのか?
それとも……周囲で起きていることなど、彼女にとってはどうでもいいのか?
「紗夜は?卒業してから、クラスの男子に遊びに誘われたりしませんでした?」
「うん。でも全部断った」
「どうしてですか!?せっかく彼氏を作るチャンスなのに!紗夜、乙女の青春は待ってくれないんですよ?」
「ただ……誰かに好かれるために、付き合ってからも相手に合わせ続けるのは疲れそう。そう思ったから、全部断っただけ」
「もう……紗夜はまた考えすぎですよ~。無理のない範囲で人生を楽しめばいいじゃないですか。本当にあなたのことが好きな人なら、無理に変わることなんて求めませんよ~」
クマのぬいぐるみを抱えた、茶色いウェーブヘアの少女は苦笑しながら首を振ると、浅野紗夜を腕の中へ抱き寄せ、可愛がるようにその頬を揉み始めた。
浅野紗夜もまったく居心地悪そうにすることなく、ただ静かに相手の腕の中に収まり、頬を揉まれるがままになっていた。
ほかの友人たちは、その傍らで優しく笑っていた。二人のやり取りには、とうに慣れきっているようだった。
……
前にも言ったとおり、俺は大勢の人間を殺してきた。
その中には、生きることに苦しんでいる者もいれば、これからの人生に期待を抱いている者もいた。
だが、浅野紗夜の目は、彼女が間違いなく前者なのだと俺に告げていた。
なぜだ?
これほど生まれつき容姿に恵まれ、あんなに仲のいい友人たちまでいるのに……
どうして彼女は、それでも「もうこの世界にはうんざりだ」と言わんばかりの顔をしている?
胸に疑問を抱えたまま、俺は光学迷彩で姿を隠し、彼女たちからそう遠くない物陰で、浅野紗夜が一人になる瞬間を静かに待ち続けた。
「それじゃあ、今日はここで解散する?」
同行していた黒髪の少女が、みんなにそう尋ねた。
「いいよ、いいよ!家族からあまり遅くまで遊ばないように言われているので、私もそろそろ帰ろうと思ってました……って、もう八時なんですか!?まずい、まずい……帰ったら、絶対にお母さんに叱られます!」
「「「「あははは……」」」」
茶髪の少女は時刻を確認すると、慌ててクマのぬいぐるみを小さなバッグへ押し込み、慌ただしく背を向け、その場を立ち去ろうとした。その姿を見て、ほかのみんなは思わず笑い声を漏らした。
だが、数歩も進まないうちに、彼女は突然振り返った。
「紗夜はまだ帰らないんですか?」
「うん。一人で近くの公園に行って、少し風に当たりたい。もう少ししたら……うん、あとで帰る」
「分かった~。絶対に気をつけてね?そんなに可愛い女の子が公園に一人でいたら……知らない人に声をかけられた時は、ちゃんと逃げるんですよ?」
「ふふっ、分かった。ありがとう、華音」
華音というクマのぬいぐるみ少女は、その返事を聞くと、再び前を向いて立ち去っていった。
浅野紗夜はほかの友人たちに別れを告げると、彼女たちとは反対の方向へ歩いていった。
ようやく……
機会が来た。
「オルレイア、近くの公園の人通りはどうだ?」
「ドローンの観測では、あの辺りにはほとんど人がいませんよ。公園の近くには人通りの少ない小道もあります。そこへ連れ込んで、始末すればいいですよ」
「了解」
俺は腰の拳銃へ手を伸ばし、軽く触れた……
よし、サプレッサーは装着済みだ。
その後、俺は物音一つ立てず、浅野紗夜の後ろにつき、彼女に付き添うように公園へ向かった。
本作も、完結済みの前作『籠の中に囚われた鳥たち』と同じく、第14話までは毎日、日本時間の21時15分に更新していきます!
現在、中国語版は第14話まで執筆済みです。そのため、第15話以降は、執筆状況に合わせて更新ペースを調整する予定です。
詳しい更新予定については、その時点で改めてお知らせします。




