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冠にタマがない
四条院の葬儀は無事終わった。先例とか礼法とか言いたいことは山ほどあるけど、まあいいのだ。終わったのだから。
問題は、次の主上の即位式だった。
即位には、御冠が要る。
ただの冠ではない。代々の帝が即位の折に頂いてこられた、由緒ある御冠である。万世一系の証、といってもよい。これを頂いて、はじめて帝は帝になられる。
その御冠を、念のため検めた。
金もない。銀もない。珠玉の類も、一つ残らずない。
むしり取られた後だった。
……は?
盗まれていたのだ。
しかも、今ではない。「先年、盗人に盗み取られけるか」——何年も前に、とっくに剥ぎ取られていた。骨組みと、羅が少し残るばかり。もはや冠の体を成していない。
誰も、気づいていなかった。
ヤバい。
外聞もヤバい。即位式もできない。
さっきボロクソに言ったばかりの東国の武家に馬鹿にされるのは間違いない。屈辱すぎる。
いや、待て。落ち着け。問題はそこにもあるが、そうじゃない。
何年も前に盗まれていたということは、だ。
その間に即位なさった帝は、どうなる。
中身のない、空の枠を頂いて、帝におなりだったのか。どういうことだ。
万世一系の証が、とっくに空っぽだったことに、誰も気づかぬまま、世は回っていたのか。
……今は考えないでおこう。
考えると、もっとヤバい。




