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【五章完結】気付いたら組長の娘に異世界転生していた冷遇お嬢。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
【第陸章・】

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♰171 「舞蝶お嬢に執着したいです」



 ショッピングモールの廊下で話すのもなんだからと、一緒にランチを取ろうとレストランへ入ることにした。

 イタリアンなレストランでそれぞれが注文を終えたあとに、私の向かい側に座る月斗のお母様に挨拶。


「初めまして、雲雀舞蝶です。『夜光雲組』の組長の娘でした。月斗、もとい月と名乗っていた息子さんに大変お世話になっております。今、息子さんは私が名付けた”影本月斗”を名乗っています。挨拶しなさい、月斗」

「あ、はい。舞蝶お嬢の元にお世話になってます、母さん。今はお嬢が名付けてくれた影本月斗の名前を使ってるから、月斗って呼んで」

「あ、うん、じゃあ月斗ね」


 実の親に挨拶をさせるのもおかしなことだが、逃亡生活中に名前を変えた月斗の今の名前を話すべきだろう。


 私に従って挨拶をした月斗は、特に二年近くぶりの再会を果たした母親に対して、喜びの熱もない。平然である。


 お母様もお母様で、名前が変わった息子に対して「そうなのね」という冷静なテンションで頷いた。


「私は月、いえ、月斗の母親のルナリーです。『夜光雲組』に預けた息子が、大変お世話になっております」


 ルナリーって名前なんだ。じゃあ、月斗の元の名前も横文字なんだろうなぁ。


「事情は、概ね聞いています。この前、彼を襲った吸血鬼達がさらし首になったことで、心配になって会いに来たのですね?」

「……はい」

「王家関連から身を隠していたけれど、日本にいることはバレてしまいましたが……。ルナリーさんとしては、月斗を再び隠すために潜伏先を変えたいとお考えですか?」

「それはもちろん」

「それはやだ」

「は?」


 母親相手だからか、月斗は子どもっぽく唇を尖らせて拒否した。

 目を真ん丸にするルナリーさんの顔も、月斗に似ている。月斗は母親似だ。


「いや、だって……俺は立ち向かうって決めたし……お嬢にも手を出すってんなら容赦しないとも伝えたし」

「は!? 煽ったのか!?」


 ギョッとするルナリーさん。

 月斗は、確かに煽ったと言えるかもしれない。


「俺は舞蝶お嬢から離れない」

「? 何故だ?」

「えっと……それは……」


 月斗の視線が泳ぐ。

 隣のテーブルについている藤堂は、ニヤニヤしていた。ウザい。


 オロオロと視線が泳ぐ月斗の顔が、徐々に赤くなっていく。アセアセしている。

 これは喉を鳴らすのも時間の問題だな、と横から見上げていれば、とうとうアセアセしていた月斗は赤面したまま、ゴクリと喉を鳴らした。


「……」

「……」

「……」


 時が止まる。


 赤面している月斗と真逆で、ルナリーさんはわなわなと震えて真っ青になった。


 あんぐりと開いている口を押さえようとしている右手も、プルプルと可哀想なほど震えている。


 これから21歳の誕生日を迎えようとしている実の息子が、7歳の女の子に執着症状を出したのだ。そして離れないとも宣言している。


「月斗は、とてもよくしてくれますよ? 嫌なことはされていません」


 ニコリと笑って、まぁまぁと宥めておいた。そんなに青ざめることはない。

 悪い執着ではないことは、お知らせしておこう。


 しかし、私とは初対面のルナリーさんは、幼い私のそんな言葉だけでは安心出来ないようだ。

 プルプルと震える美女。


「舞蝶お嬢、口を挟んで申し訳ありません。ルナリーさんには、現状を詳しく話した方がいいのでは?」


 隣のテーブルについている宮藤さんが、小さく挙手をして発言をする。


 それもそうだと、『トカゲ』に情報を掴まれて、王家側の吸血鬼が刺客として来た話からした。


 王家側の吸血鬼が、月斗の処刑を命じたが、『トカゲ』とは月斗の情報をもらって私を狙ったということ。


 月斗の刺客と直接対決をして、返り討ちにした。その際に、月斗は命を狙うなら受けて立つと宣戦布告をしたこと。伝わったかはわからないが、月斗はそのつもり。

 執着している私に忠誠を誓っていることも、しっかり話した。


 その頃には注文した料理が届いたので、冷めないうちにイタリアンの料理をいただくことにする。


「それで、ルナリーさん。息子さんを引き取っていただけませんか?」

「黙りなさい」


 宮藤さんが余計な口出しをしたから、厳しく言い放つ。


 包み隠さず私の父親に報告をしている宮藤さんから、父が月斗を遠ざけろと言っていることを聞いた。私を危険にさらしていると父が激怒しているらしいが、知らん。


 私の厳しい視線を受けて、宮藤さんは仕方なさそうに肩を竦める。


「お嬢の安全のためにも、息子さんの安全のためにも、離れた方がいいと思いますよ?」

「向かってくる敵は倒すしかない。もう決定したことです」

「そう聞きましたが、少なくとも吸血鬼の刺客に襲われる危険から遠ざけられますよね? ねぇ? 氷室先生」


 賛同してくれそうな優先生に、宮藤さんは振った。

 優先生だって懸念しているけれど、優先生も私に忠誠を誓っている。私に従う。


「舞蝶お嬢様が、すでに決定を下しています」


 しれっと、優先生は表情を一切変えずに答えた。

 宮藤さんに何を言われても、今更意見してこないだろう。


 それは正式に私の下についた藤堂も同じ。宮藤さんに視線を向けられても、ギョッとして首を横に振った。自分に振るな、と言わんばかり。元上司的存在の相手だからか、珍しく余計な口を開かない。藤堂のくせに。


 橘も同じような立場なので宮藤さんに対して気まずそうだけれど、藤堂と同じく首を横に振った。


 七助さんも常盤くんも、私に忠誠を誓っている吸血鬼で、燃太くんも私に付き従う意志が固い。


 月斗は言わずもがな。

 誰も味方につけなくて、また宮藤さんは困った顔をして肩を竦めた。


 最後に頼るのは、月斗の母親であるルナリーさんだ。宮藤さんの視線が彼女に戻るけれど、私はにっこりと微笑んで「ルナリーさん」と優しく呼びかけて気を引いた。


「よかったら、しばらく(うち)に泊まっていきませんか? 息子さんがどう暮らしているか、見ていってください」


 そう提案。


「私の元にいてもいいと思えるでしょうから」


 自信満々に言っておいた。


「月斗もお母様と久しぶりに会えたし、話したいでしょ」

「え、はい」

「……」

「……」


 反射的に頷いた月斗だったけれど、多分久しぶりの母親との再会でも、話したいことなど思いつかないのだろう。

 ルナリーさんも目が泳ぐ。


 吸血鬼親子の薄情さに、半分呆れてしまった。

 本来、吸血鬼の情は薄い。


 初めて会った月斗の私への対応は、お腹を空かせた幼い女の子への親切心。それさえも発揮しなければ、月斗と親しくはならなかっただろう。私と月斗は、他人だった。


 私に執着するほどの感情を抱くことがなかった場合の月斗は、どうなっていただろうか。


 塩対応……? いや、月斗の性格上、会えば優しく接してくれただろう。


 けれど、きっと。毎食、食事を用意してはくれなかっただろう。気まぐれに与えてくれても。


 デートと称して、外へ連れ出してくれなかったはずだ。


 じっと右隣の月斗を見上げる。その視線に気付いた月斗は、目を丸めてキョトン顔。


「あ、このピザ食べます? どうぞ」

「あーん」


 食べていたピザをひと切れ手にした月斗は、私に食べさせてくれた。

 代わりに私の分のパスタを一口食べさせてあげる。

「美味しいですね」と微笑む月斗。


 優しく目を細めて、甘く微笑む。魅力的な青年。

「美味しいね」と微笑み返しておいた。


 ちょっとした息抜きにショッピングに出掛けてきたので、昼食後もルナリーさんを加えて買い物を楽しんだ。


 ルナリーさんがこのショッピングモールに来た理由も、仕事あとの息抜きだったらしい。それから雲雀家に行く予定だったそうだ。


「お嬢様は買わないのですか?」


 ショッピング中、月斗達の服ばかりを選んで買っていると、ルナリーさんが尋ねてきた。


「そうですね、そろそろお嬢様の服も買いましょう」

「今日はいいや」


 優先生がそう言ってくれたが、今日はあくまで彼らのためと決めていたので、首を横に振っておく。


 そんな私を見て、何か言いたげな表情になる優先生だけれど、気付かないフリをしておいた。


「いやー、ルナリーさんは美人ですね。ホントは月斗のお姉さんじゃないんですか?」

「吸血鬼はそんなものです」


 他愛ない会話を振った藤堂だが、ルナリーさんは淡々と返す。


 吸血鬼に、お世辞は効かない。お世辞抜きで、ルナリーさんは若々しく綺麗だが。


「ルナリーさんこそ、買わないのですか?」

「ショッピングする気分ではないので……」


 色々あるのだから、そんな気分じゃないのはしょうがない。

 一人息子は、命を狙われているし、7歳の女の子に執着している。気分じゃないだろう。


 ルナリーさんの目は、私と月斗の繋いでいる手を、常に気にしている様子だ。


 13歳差だもんなぁ……。かつ相手は、未成年。女児である。さぞ息子が心配だろう。


 異常ではないことを、しばらく泊まっていってその目で確認してもらうしかない。



 ショッピングを済ませて、ルナリーさんも一緒に帰宅。


 燃太くんと常盤くんは、買い込んだ服類を抱えて帰った。


 それは優先生達も同じなので、それぞれ自分の部屋に運んでいく。月斗も自分の分を抱えつつも、私についてくるので、一緒にルナリーさんに家の中を案内した。ルナリーさんが滞在中に使う客室も、教える。


「ゆっくりしていってくださいね」

「はい。お邪魔させていただきます」


 そういうことで、一人住人が増えたのだった。



 ルナリーさんは、グール討伐を生業にする吸血鬼だ。


 日本滞在中も公安を通して、グール討伐の仕事を引き受けるので、せっかくなので同行した。


 ルナリーさんと月斗に親子水入らずの時間を与えたいところだけれど、仕事先で『トカゲ』に襲撃された経験があるので、二人には出来ない。吸血鬼の刺客が来ては、二人ではキツいだろうということもある。だから、ルナリーさんと一緒に仕事へ。


 通常一人で十分な仕事でも、大事を取って同行。ルナリーさんが狙われないって保証もない。

 グールらしき出没情報を元に、討伐に出動。


 『トカゲ』の動きは、静かなものだ。私達に関わることもなし、他でも術式の尻尾の先も見せない。

 嵐の前の静けさではなければいいのだけれど。



 グール討伐の仕事があった夜。


 身体能力向上の術式を使って、「よっ」と高く飛んでいく。この術式を使えば、大人の身体能力だけではなく、吸血鬼の超人的身体能力に匹敵する。


 高みの見物で、上から現状を把握したところ、グールの討伐はすでに吸血鬼組が終えたようだ。


 燃太くんが「出番がない」とぼやいていたけれど、正直グール如きでは、私達全員参加は過分な戦力なのだ。かと言って、少数で出動して『トカゲ』の襲撃に遭っては困るので、こうして一同で動くしかない。


 ルナリーさんは、私の術式による道具で戦う姿も見て、感心していた。


 私がただの幼女じゃないとわかってもらえたようだ。


 月斗との関係性も問題ないと、わかってもらえればいい。


 月斗が学校にまでついていくと聞いた時は、物言いただったけれど、特に反対意見を口に出されていなかった。


「月斗。変わらず私のそばにいるけれど、ルナリーさんと話をしたの?」

「え? してませんけど」

「ちゃんと納得してもらえた?」

「ん~、どうでしょう。でも反対されても、母さんが俺を連れ歩くわけにも行かないですし、現状維持がいいじゃないですか」


 話しても無駄でしょ、と言わんばかりに月斗は答える。

 薄情だ。吸血鬼って奴は。


「ルナリーさんは、今まで大丈夫だったけれど、これからはどうなることやら」

「母さんは点々としてましたからね。今まで通りでも大丈夫じゃないですか?」

「薄情だね、月斗」

「そうですかね」


 あまり母親の心配をしていない月斗に、冷静に言ってみるけれど、責められているわけじゃないので、首を捻るだけ。


 その薄情さを私に発揮していたら、こんな関係にはならなかったのだろう。


 なんだか、月斗の意外な面を見ることになって、たらればな想像をするようになった。


「ねぇ、月斗。もしも月斗が、私に執着しなかったら?」

「え、嫌です。舞蝶お嬢に執着したいです」


 即答。ヤンデレ吸血鬼は、自分がヤンデレしない世界線は嫌だそうだ。



 


舞蝶ちゃんに執着しない月斗の世界線は、作者も認めない。

同意するならリアクション、ポイントをください!


2026年4月24日

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