おめかしを汚す悪い奴はいねーか!
はい……痛かったです。
僕は善戦虚しく辻井さんの彼氏にぼこぼこにやられた。
※善戦どころかただ一方的にぼこぼこでした。
「はあ、はあ。お前しつこいんだよ……」
「へ、へへ……彼女を二度と殴らないというまで離さないから」
しかし、このままにしておけば辻井さんは苦しみから解放されない。それだけはできない。僕は這いつくばりながら彼の足にしがみつく。
「本当にしつこいだよ!!」
「うっ!?」
思いっきり反対の足で蹴られた僕は蹲る。
「裕也君!もうやめて!彼死んじゃうよ!」
すると辻井さんが僕と彼の間に入って大きな声で彼に言う。しかし、その行動は彼の行動をヒートアップさせる。
「退いてろ!」
「きゃ!?」
彼に押されて辻井さんが地面にお尻を着く。そして、彼女の白いワンピースが汚れた。それはきっと今日のために一生懸命おめかししたものだろう。それを彼は汚した。その時、僕の中で何かが切れた。
「馬鹿野郎!!」
「な!?ぐえ!?」
僕は即座に立ち上がり彼の頬を思いっきり殴った。あまりにいきなりのことで彼に綺麗に入ったパンチは彼を少し後ろに飛ばす。僕はすかさず尻餅をついていた彼に近づき再度殴る。
「ふざけんな!!どんな気持ちで彼女が可愛い服を着てきたと思ってるんだ!!この大馬鹿野郎!!」
「ちょ!?うえ!?まて!?」
その時の角田は完全に暴走していた。彼女の可愛いが詰まったおめかしを汚した。それは万死に値する。
そしてしばらく殴り続けていた。すると彼は完全に伸び切っていた。
「はあ、すっきりした」
僕は額の汗を拭って気持ちよく息を吐く。そうして伸び切った彼を見る。完全に気を失っていた。
「し、死んでないよね?」
「た、たぶん」
辻井さんも言葉にそう返すも自信がない。
「と、とにかくこの場から離れよう」
「え、でもどこに行くの?」
とりあえず彼が追ってこれない場所で危険がない場所じゃなきゃいけない。そんなとこはどこにも……
「あのさ、私の家に来る?」
「え、でも彼が来ちゃうんじゃ」
「彼、私の家は知らないから大丈夫だと思う」
「わ、分かったじゃあ行こう」
とにかく一刻も早くここから逃げなくてはいけない。そんなことしか頭になかった僕は大事なことを忘れていることに何も気が付かなかった。
「え?角田がいない……」
そう今日は穂乃果と放課後デート。そのことを忘れていた角田は穂乃果にこのことを連絡するのを忘れていたのだった。
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「ここが私の家だよ」
「え?こ、ここが?」
「そう……意外でしょ?」
正直に言うとその通りだった。辻井さん家はかなり年季が入ったアパートでありいつも元気でおしゃれな彼女とは正反対だった。
「ごめん……」
「いいんだよ。みんなそうだから」
きっと彼女は今までもそういう反応をされていたのだろう。特に気にすることもなく先に進む。
「ここが私とママが二人で住んでいる部屋だよ」
205号室。そう書かれた部屋は俗にいうワンルームだった。
「自分の部屋はないんだね……」
「うん。ママと共有でもそっちのほうが楽しいからいいんだよねー。あ、適当に座っていいよ」
彼女はまるで当たり前のように言う。それは両親が不在で仲が良くない角田からすれば分からない感想だった。
僕は辻井さんに言われるまま机を囲うように置かれているクッションに腰を下ろす。そして改めて部屋を見渡す。この一室には今まで辻井さんがとった何かの賞の証書などがあってとてもお母さんの愛情を感じられた。
暖かい。そう感じた。
「いい部屋だね」
「ほんと!?」
辻井さんはとても興奮しているのか机に乗り出し僕に聞いてくる。
「う、うん。お母さんの愛情を感じられていい部屋だね」
「だよねー!!角田は分かってるなー!!」
彼女はとても嬉しそうにうんうんと頷いている。
「皆さ、ここに来たらなんか可哀そうな目で見てきたから正直悲しかったんだ……」
「それで、彼氏にも家は教えなかったの?」
「うん……」
そうか……
普段明るくて元気な彼女にもそういう悩みはあるんだな。
「でも、なんで彼氏と別れなかったの?この部屋の良さが分からない彼氏何て嫌でしょ?やっぱり好きだったから?」
「……彼、ああいう性格だったでしょ?別れを切り出したら怖いと思って言い出せなかったの……」
「確かに彼ならやりそうだね」
「でも、角田のおかげでこれできっぱり別れられた……のかな?」
「いや……どうだろうね?」
そういえば何も聞かずに突撃したせいで別れろとか言ってないし彼女も別れるなんて言ってないような……
「や、やばいかな?」
「た、たぶん」
「ど、どうしよう!?」
彼女は頭を抱えていた。確かにこのままではまた彼女に会いに彼は接近するかもしれない。つまり彼女は危険な状態なわけだ。
「お、落ち着いて」
僕は彼女の手を強く握る。僕も昔はよくパニックになった時こうしておばあちゃんにしてもらっていた。
「キュン……」
「え?キュン?」
「え?な、何でもないよ?だ、大丈夫もう落ち着いたから…」
「う、うん」
僕は手を離してゆっくりと口を開く。
「えっとね、考えがあるんだ」
「考え?」
「うん。あのね、僕たち偽の恋人にならない?」
「え?」
僕が考えた作戦。
それは彼女たちがやったように偽の恋人を演じて彼をあきらめさせる作戦だったのだ。
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