そよ風
「で、栄吉はどんなの持ってるの?この子のお父さんはそれはもうすごくて苦労したのよ」
母さんはため息を吐きながら頬に手をやり悩ましそうにとんでもないことを告げる。
「か、母さん何言ってるの!?」
「何ってなにのチェックよ。大切でしょ?」
「そんなの普通の親はしないから!」
「そう?穂乃果ちゃんはどう思う?」
「え?その……大きかったです」
「あら!あら!」
母さんがにやにやしながらとても嬉しそうに笑っていた。ああ、何年ぶりかな…母さんのあんな愉快そうな笑顔は…
「て、何どさくさに紛れて嘘言ってるのよ!」
先ほどからやけに静かだった望が声を上げる。
「角田もなんで否定しないの!?」
「いや…」
言えない。母親があんなに嬉しそうに笑うのが嬉しかったなんて。子供みたいな感情だ。
「やめて、栄吉君を責めないで!」
大げさな言い方で穂乃果はよよよと泣きまねしていた。
「ちょっと!なんで私が悪いみたいになってるの!?」
「望……ごめん…僕と穂乃果の間にはもう子供が……」
「は!?い、いつの間に!?と言うか色々順序があるでしょ!?」
「はいはい、栄吉も穂乃果ちゃんも悪乗りはそこまでよ?」
「へ?」
望だけがぽかんとしていた。確かに悪乗りが過ぎた。母さんが楽しそうだからついついやってしまった。
「……からかったの?」
望に服の裾を掴まれジト目で睨まれる。
「ごめんね?つい……楽しくて」
嘘は言っていない。本当のことも言ってないけど。
「デート……一回でチャラでいいよ」
「ちょ!?なにどさくさに紛れて言ってるの望!」
「先にやってきたのは穂乃果でしょ?ふふ」
「ちょっと……近くない?」
望は僕の腕に体を密着させているのでその体温も柔らかさもよく感じてしまう。少し体をよじるもそのたびに体の一部が当たって……
「ふん!」
僕は今にもあふれ出そうな自分のパッションをテーブルに頭を叩きつけ粉砕する。煩悩退散!煩悩退散!《《煩悩万歳!》》煩悩退散!煩悩退散!煩悩退散!煩悩退散!
※あれ?角田……お前、煩悩さんを歓迎してないか?俺の気のせいか?
「welcome!!」
※やっぱり歓迎してる!?
「栄吉君!?ど、どうしたの!?ヘドバンと奇声のコンボは怖いんだけど!?」
「だ、大丈夫……もう収まったから」
「??」
男故の問題には気づかずに望は困惑していた。とにもかくにもあれは危なかった。あと少しで僕の中の獣が暴れるところだった。
「とにかく、デートはできないよ……まだ恋人じゃないんだから……」
「そ、そうだね……まだ、だものね?」
「え?い、いや……」
※いや、なんだよその初々しい雰囲気は!?望の逆襲なのか!?
「ふふ、ハーレムと聞いて初めはどうなってるのかと思ったけど、つまりは三角関係って言うわけね?」
「い、いや……そんなことは…」
「「はい!!」」
「二人とも!?」
あまりの速さと大きな声で返答する二人に驚く。なんでややこしく状況するの!?
※望と穂乃果的には友達ではなく恋愛対象として角田の母に扱ってもらうほうがいいと考えているようです。
「分かったわ。この件は責任を持って栄吉に答えを出すようにしっかりさせます」
「か、母さん!?」
「栄吉、覚悟を決めなさい」
母さんは僕の目をじっと見つめ瞳の底を覗くように言ってくる。それはまるですべて見透かれてるようだった。
(この名前のない関係の心地よさに僕は甘えている…)
きっと母さんは分かってる。だから僕が逃げないように二人にあんなことを言ったんだ。
「分かったよ……必ず答えを出すよ」
「よろしい」
僕の言葉を聞き母さんは満足そうにしてその場から立ち上がる。
「じゃあ、私は仕事に戻るから。いつも通りよろしくね」
そう言って母さんは手を振って家を出て行こうとする。その後ろ姿は昔から変わらない。寂しくて胸が締め付けられる。いつもなら黙って見送るだけ。だけど、どうしても聞きたかった。
「母さん!」
「うん?なんだい?」
「なんで、今日は来てくれたの?」
自然と手に力が入る。もしかしたら僕のことを気にしてくれたから来てくれた。そんな言葉を聞きたい。そう思ってしまった。
「仕事先でも聞かれたからね。仕事に支障が出ないようにするために来ただけだよ」
「そう……」
分かっていた。両親は僕のことなど気にしてなどいない。何度目か分からない。こうして落ち込むのは。
「そんなことよりあんたは二人に事だけ考えてな」
母さんは手をひらひらと振って去っていく。その背中が遠くなるほどみじめになる。僕は何を期待してたんだろう。
「……子供じゃないんだからさ……」
誰に言うわけでもなくただぽつりと漏れる。
「何言ってるの?子供でしょ?私たち」
「え?」
穂乃果は当たり前のように言う。
「で、でも僕たち16だよ?もう親離れなんてとっくにしてるでしょ?」
「え?」
「え?」
穂乃果は完全に不意を突かれたように声が漏れる。それは彼女が本気で戸惑っているのが分かるほどマジトーンだった。
「16歳ってま、まだこ、子供だよね?望」
「え?そうじゃないの?私ママにいつも甘えてるし」
「だよね。よ、よかったー」
(そうか……子供なんだ……)
自然と親の仕事の邪魔にならないようにしていたから、自然と親には迷惑をかけないものだと思っていた。
「ねえ、角田。今度の休みにうちで焼肉するんだけどお母さんたちと一緒に来ない?」
「え?急にどうしたの?」
穂乃果は角田の母が去った玄関を見て少し寂しそうに告げる。
「えっと、もう少しあの空気が欲しかったというか…笑顔が欲しいなって」
「笑顔?」
「そう、笑顔」
穂乃果は母親と話しているときの風を受けてとても気持ちよさそうに笑っていた角田をもう一度見たかった。他人の家族の問題を自分がどうにかできるなど思ってはいない。けど、せめて家族で話す場を作ることぐらいしたかった。
「………笑顔になってくれるかな?」
想像などできはしない。
「大丈夫じゃないかな。みんないるし」
「皆?」
「うん。望も私もいるし、仙波さんも呼ぶしけんちゃんさんも呼ぶから男は実質三人だしね」
「お、多いね?」
「多いほうが楽しいでしょ?」
「そ、そう?」
今までは食事は家で一人だったから想像できないな……
「お母さんも来れたらよかったんだけどね……」
ぽつりと穂乃果は呟いた。
「え?お母さん来れないの?」
「うん…遠い場所にいるから」
「へえーそうなんだ」
「……お母さんの分も楽しまないとね穂乃果」
「うん……」
※出産後まだ体調がすぐれないので赤ちゃんと一緒に入院しているだけです。望は死んだと勘違いしているままです。なお、角田は純粋に遠くにいると思っています。
そうして数日経過し休日。
ピンポーン。
「佐藤さん、来たよ」
「はーい。今行くねー」
インターホン越しから彼女の声が聞こえて中からどたばたと音がして玄関が開く。
「穂乃果ちゃん今日はお誘いありがとうね?ほら、あなたも」
母さんに言われて父さんが口を開く。
「今日はお誘いありがとう。これは少ないが追加の肉を持ってきたよ」
父が恐縮そうに買ってきた肉を穂乃果に渡す。
「わあ!高級な肉だ!ありがとうございます!」
彼女は楽しそうに両親と話している。その光景に僕は目を疑う。
(彼女を通すと両親が他の生き物に見える)
普通の両親に見える。いや、そもそも差異はあれど親も人間だ。他人の前では態度も変える。当たり前だ。
(でも……)
それだけ何のだろうか?本当の両親はどっちなんだ…
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次回
本音。
お楽しみに!
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