ハーレム王の凱旋
一同そろってリビングにて無言状態。
それが実に30分ほど続いていた。角田はあまりの無言の重圧を負けてこそこそと穂乃果に小さな声で話しかける。
「ねえ、穂乃果。静流パパン怒ってるよね?」
「でしょうね」
「だよね」
向かい合うように座っている静流パパンは完全に顔にビキビキとあおすじを作っていた。
「あれ見て怒ってないってほうが無理でしょ……」
望は呆れるように小さな声で言う。
「でも、角田の計画通りでしょ?」
「そ、そうなんだけど……」
資金提供のために娘の婚約を認めるような父親だからてっきり愛を忘れていてね……みたいな想像をしていた角田からすればそこまで効果てきめんだとは思っていなかったのも事実だった。
「ごほん、で君はハーレム王になりたい……そう言うのだね?」
「は、はい!」
無言の時間を打ち破ったのは静流パパンの一言。
「その計画の中にうちの可愛い可愛いしずるちゃんを入れると?」
完全に血管が切れそうなほどぶちぎれている静流パパン。しかし、それも仕方ない。
「わ、私は問題ないのお父様。だからお、怒らないで。ね?」
静流もあまりの父親の怒りぶりに鎮めようと必死になって説得しようとするのだが……
「あのね、しずるちゃんはあの人の大切な忘れ形見なんだよ?そんな可愛い子をこんなハーレム王とか言う無職ヒモ野郎にも負けない夢を持っている奴にあげるわけにはいかないよ」
※静流パパンの中ではハーレム王の位は最低ランクのようです。
「忘れ形見?……仙波さんそれってどういうことなの?」
穂乃果が静流パパンの言葉に引っ掛かり静流に問う。
「大したことではないの……ただ、私はお母さんの連れ子だったそれだけなの」
「つまり、お父さんとは血がつながっていないってこと?」
「そうね……でも、血は関係ないわ。大切なお父様よ」
「しずるちゃん……」
お互いに思いあっている。それがよくわかる。二人の関係は確かに普通の親子とは違うのかもしれない。だが、それを超えてお互いが大切だと伝わる。それが仙波親子だった。
「それで、婚約を進めたいんだね」
「ええ……道はそれしかないもの」
お互いを大切に思っている。故の自己犠牲。
「改めて聞きますが、静流パパンはそれでいいんですか?」
「……さっき言った通りだ。貴様に大切な娘を上げることなどない」
「ですが!会社はどうするのですか!お母様と立ち上げた大切な会社は!」
「しずるちゃん……会社は一からでもやり直せる。しかし、取り返しのつかないことはそれ以上に山ほどある。だからいいんだ。大切なもの一つあればもう一度立ち上がれる。私は男だからね」
「お父様……」
その覚悟は本物。決して折れない信念。それがいま静流パパンの中に確かに芽生えた。
「そもそも、乗り気ではなかったのだ。初めからね。ただ、話に聞いていた少年はとても優良物件に見えた。故に娘におせっかいをやいてしまったのだよ。まあ、優良物件どころか紙屑のようなひらひらの夢を持った男だったがね?」
「か、紙屑……そ、そこまで言いますか?」
「ああ、言うね。紙屑、ゴミクズ、生ごみ、だね」
「よ、容赦ない……」
※それほどお前のやってしまったすれ違いはやばいんだよ。
プルプル。
誰かのスマホが鳴っている。その音の出どころは静流パパンのようだった。
「うん?私の携帯のようだね」
静流パパンは電話に出る。その相手は角田パパン。
「はい、はい。え!?そ、それは婚約が破棄になっても資金提供をいただけるということですか!?」
静流パパンは電話越しだというのに頭をぺこぺこしていた。
「で、ですがいいのですか?え?息子が迷惑をかけたと思うからですか……そうですね。損害賠償ものの息子さんでしたね」
もはや静流パパンには角田に対する一切の躊躇が存在しなかった。なのでつい本音が漏れてしまった。
「い、いや!いい過ぎました!生ごみ……いや!不燃ごみです!」
高らかに宣言する静流パパン。
「え?……あ、はい。言いすぎました。すみません……」
さすがに角田パパンも息子の悪口に耐えきれず苦言を申したようだった。
「と、とにかく資金提供ありがとうございます!」
そうして電話は終了する。
「ふふ、はははは。アホめ!お前のようなクソガキに娘をやる必要なぞもう一ミリもなくなったわ!ふははは」
※もはや人格崩壊してない?静流パパン?
「お、お父様……」
さすがに娘もドン引きのようだった。それほどに狂乱していた。
「ほら!さっさと出て行けクソガキ!」
「え!?ちょっと!?」
そうして強制的に家から出させられた角田たち一行だった。しかし、その瞬間角田はひどく疲れたように肩を落として安堵の息を吐く。
「はあ、なんだか分かんないけどうまくいったね?」
「そうね。まあ、最初から角田のお父さんに相談しておけばよかっただけだけどね?」
「そうだねー。さすが角田のお父さん。角田のことをよく知ってるね?」
「……なんか褒められてない気がするんだけど」
「「褒めてないけど?」」
穂乃果と望は声をそろえて肯定する。結局今回も角田の暴走故に苦労させられた話だったのだから仕方ないのだ。
しかし、これで角田の推し活はうまくいった。あとは静流とけんちゃん二人しだいだ。
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角田たちが去ってから少しあとのこと。けんちゃんに静流から電話がかかる。
「はい、どうした?静流」
「けんちゃん……」
電話越しの彼女の声は今にも耐えきれず泣き出しそうだった。
「ど、どうしたんだ!?い、今そっち行くから待ってろ!」
あの、強い静流が泣きそうだなんて一大事だと急いで家を出るけんちゃん。
そうして全力疾走でけんちゃんは静流の家に着く。
「お邪魔します!」
「おお、けんちゃんくんどうし……」
「すみません!今急いでるんで!」
「あ、ああ」
けんちゃんは駆け足で静流の部屋に行きベットの上で布団をかぶっている彼女を見つける。
「どうした!角田に何かされたのか!?」
「……ち、違うの。私、嬉しくて……けんちゃん以外と結婚しなくてよかったって……」
「は?ど、どういうことだ?」
「あのね……」
それからけんちゃんは今日あったことを静流からすべて聞いた。角田はハーレム王になりたいらしく二人の女性とお付き合いしているらしいこと。資金提供は婚約が破棄でもしてもらえること。
「じゃあ、もう婚約の必要はないんだな?」
「うん……だから、私……」
その目は一滴の涙がたまっていた。もう二人に言葉は必要などなかった。
自然の二人の影が重なる。
「……私初めて……」
「お、俺もだよ……」
二人は見つめ合う。
「「ふふふ」」
なんだかおかしくて二人は笑いあった。そうして改めてお互いの大切さを感じ喜んでいたのだった。
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翌日。一緒に登校していた角田と穂乃果たちはどっと疲れていた。
「はあ、なんだか猛烈に疲れたな……」
「そうだね……」
「無駄足感が酷いよね……」
「「「はあ」」」
とりあえず婚約を破棄させることに成功したものの自分たちのしたことが無意味だったことを知り結果三人は妙な疲れを感じていた。
「まあ、推し活は大変なものだからね。これくらいは……うん?」
角田は前向きに生きて行こうと自分に言い聞かせようとしていたのだが、妙な視線を朝から感じて違和感を感じる。
「ねえ、なんか校内に入ってから私たちすっごく見られてない?」
「確かになんか視線を感じる気がする……」
どうも角田だけではなく穂乃果と望も感じていたようだった。不思議に感じながらも三人は教室に向かって歩いていく。その間も視線を多く感じた。
その答えは教室に入って分かった。
「な、なにこれ……」
「う、嘘でしょ?なんで……」
三人の視線は黒板に向かっていた。黒板にはみんなが知らないはずの言葉が大きく書かれていた「ハーレム王角田参上!!」と。
いじめ。
三人の脳内に言葉がよぎる。
「お!みんなハーレム王だぞ!」
クラスメイトの男子が大きな声で言う。
三人の脳内には最悪の状況が想像されていた。
(まずい!このままだと僕のせいで二人までいじめの対象に!)
目をつぶり手を強く握りしめ己の愚かさを呪う角田。そんな彼にクラスメイトは告げる。
「ハーレム王、お待ちしておりました」
「へ?」
まるで家臣の如くクラスメイトは跪く。
「え?ど、どういうこと?」
「あなたはこのクラス、いえ学校の王たるものです」
「ははー」
クラスの男子が全員跪いていた。
「ほ、本当になんなのこれ?」
「ふ、俺だよ」
「け、けんちゃんさん!?」
困惑していた角田の肩を叩くけんちゃん。
「俺が今回の角田の男気をみんなに知らせたんだよ」
「え?それって……ばれてたの?」
「ああ、お前が婚約破棄のためにハーレム王なんて嘘ついたことは分かってるさ」
「……は、恥ずかしい」
角田はあまりの羞恥に身を丸めて座り込む。
「よ!ハーレム王!!」
だが、クラスの喝采は止まないのだった。
※ハーレム王バンザイ!!
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おっす!おらお角田!ハーレム王ちゅうのになっちまったみたいだぞ!しかもそれをかかあが知って大変なことになっちまった!
次回!
穂乃果大奮闘!!
お楽しみに!
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