終幕訪れず。
現在時刻、十時三十分。 佐藤家前。
「……いよいよだね」
「うん……」
角田と望は喉の渇きを感じながら改めて今回実行予定の作戦を確認する。
「私が穂乃果に嘘告を知られてるって話して」
「佐藤さんが僕に謝罪。そして僕も同じく謝る……だよね」
望は角田の言葉に小さく頷く。
二人にとって今日の付き合って一か月記念日パーティーが開かれる今日こそが勝負の日。
穂乃果にとっては代えがたい記念日。そして角田との望にとっても大切で代えがたい日になる。
「準備はいい?佐藤さんに連絡するよ?」
「う、うん」
角田は望の返事を聞き穂乃果に到着した旨を伝える連絡をする。すると家の中からどたばたとする音が聞こえてすぐに玄関のドアが開く。
「いらっしゃい!かく………」
穂乃果は満面の笑みのまま固まっていた。それもそのはずだ今日パーティーに招待したのは角田一人だ。つまり望は完全にお邪魔虫なのだった。
「……角田、なんで望がここにいるの?」
その声は絶対零度を思わすほど低い声で声を聴いた瞬間に角田は薄氷の上に立っているような危ない感覚に襲われた。しかし、何とか表面上に出さないようにゆっくり口を開こうとする。
「あ、あのね」
「いいの角田。私が言うから」
角田の声を遮って望が一歩前に出る。
「あのね、今日は角田に無理言って連れてきてもらったの。穂乃果にどうしても話したいことがあったから」
「話したいこと?……何それ?今日じゃないとだめなの?」
「……うん」
沈黙。
「分かった……二人とも上がって」
望の真剣な表情に何かを察したのか穂乃果は二人を家のリビングにあげる。そこには様々な料理がテーブルの上にあり真ん中には誕生日を祝うかのような大きなケーキが鎮座していた。
(この状態の佐藤さんに言うのか……)
その見れば誰でも分かる気合の入れように角田は少し申し訳なくなり罪悪感が押し寄せる。自分はこんな純粋な人を利用していたのかと。
しかし、ここでやめればさらに彼女を騙し続けることになる。そんなことはできない。そう決意して少し角田の手に力が入る。
「角田はそこに座って。穂乃果はこのクッションを使って」
「ありがとう……」
そうして、三人はテーブルを囲むように座る。
誰も喋らない時間が少し続いた。部屋には飾ってある木製の時計の針の音だけが響いていた。しかし、それを切るように望は口を開く。
「穂乃果に伝えなきゃいけないことがあるの……」
ゆっくりと望の声が部屋に流れている。それは夢のように感じる。
(ああ……これで夢のような時間は終わるのか……)
これは必要なことであのままの関係を続けるなんて決して誠実でもなければ現実ではない。だけど……
あの時間は夢でも何でもない。
確かにそこにあって確かに僕たちはそれぞれ楽しんでいた。
角田の脳内に彼女たちとの確かにあった時間を思い出させる。それは角田に少しの勇気を与える。
(もし、彼女に事実を知られても言おう。友達になってほしい言って)
嫌われるかもしれない。呆れられるのかも。だけど、一から彼女との関係を始めよう。そう角田に思わせられる勇気だった。
「なに?私に伝えなきゃいけない事って」
「それは……」
角田と望の手に力が入る。ここで終わらせる。
リリリリリリリ!
しかしその瞬間大きく穂乃果のスマホが電話を知らせる。
「ごめん。少し待って」
そう言って穂乃果はスマホの画面を見る。
「!?」
そして大きく目を開く。その表情は決して穏やかなものではなかった。
「ど、どうしたの?」
あまりの様子に角田は穂乃果に聞く。しかし……
「な、何でもない……悪いけど少し待ってて」
そう言って彼女は逃げるように部屋を出る。
そうしてその場に置き去りにされた二人はただ茫然としていた。
「なんだったんだろう……」
「わ、分からない。けど……表情が険しかったかも……」
二人は自然と何かあったのではないかとよからぬ妄想が脳内に流れる。
「い、いや。考えすぎかもしれないよ?ほら、今回見たいに勘違いかもしれないし」
「そ、そうだけど……」
角田は自分で言いながらも胸の内には消えない不安があった。
「やっぱり私少し事情を聞いてくるよ」
「え?辻井さん!?」
そう言って彼女は部屋を出て行く。
そうしてしばらく角田は一人リビングに取り残された。そうして待つこと5分後。
「あ、辻井さんどうだった?」
「……」
望は何も言わずに戻ってきた。そしてふらふらと自分の席に座る。
「え?な、何かあったの?」
まさか、嫌な予感が的中したのか?いや、まさか……
「角田……今から私の言うことに話を合わせて」
「え?それってどういう……」
「お待たせ」
事情を聴こうとしていたら穂乃果が戻ってきたため角田は完全には聞けなかった。
「で、なに?私に言わなきゃいけない事って?」
「………落ち着いて聞いて」
望は大きく息を吸い告げる。
「私も角田のことが好きなの」
「……え!?」
勘違いは終幕する予定……だった。
だが、この劇はまだ回り続けるのだった。
_______________
5分前。
(あの様子、穂乃果普通じゃなかった……友達ならわかる)
その確かな直感の元で望は穂乃果に何かあると確信する。
(うん?穂乃果の部屋から声が聞こえる)
そうして耳を澄ませて電話の内容を聞く。だがところどころ聞こえずとぎれとぎれでしか聞こえない。
「うん……お疲れ様お父さん……じゃあ、お母さんはもう……なんだね……分かった……私……幸せになるよ」
聞こえてくる内容から相手は父親のようだが……
(そう言えば……いつもは家にいる穂乃果のママいなかったな……)
優しくていつも笑顔の穂乃果のママ。体が弱くて働けないのでいつも家にいるはずなのにいない。
(………!?)
そうして望は断片的な情報からパズルを完成させる。
お母さんに何かあった⇨お父さんはお母さんのそばにいた。⇨亡くなった連絡。⇨私だけでも幸せに。
「…………」
そうして終幕に向かうはずだった劇はさらに続くことになる。
※下記は本来の穂乃果の電話の内容です
「うん。お疲れ様お父さん」
「ああ、やっと終わったよ」
「じゃあ、お母さんはもう大丈夫なんだね?」
「ああ、子供も母体ももう安心だぞ」
「分かった。私も幸せにならなくちゃね……」
※お子さんおめでとうございます。
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