求めていた言葉
現在、角田は望の家にて今までの経緯を望ママに説明していた。一通り話を聞いた望ママは手を頬において「あらまー……」と息を吐いていた。
「と、言うことなんです!どうかどうかこの哀れで愚かな男に誤解の解き方の神髄を教えてください!」
「ちょっと!?や、やめてよ!?」
「そ、そうよ!?」
漢、角田。頭を床に擦りつけるなどお手の物だった。
「で、では教えてもらえるんですね!?」
土下座の体制のまま顔を上げて彼女たちを見上げ全力で期待の眼差しを向ける。
「い、いや誤解の解き方って言われても……ねえ、ママ?」
「そうねー……」
二人は困った風にお互いを見る。その表情に角田は非常に嫌な予感を背中に感じてじっとりと背中に冷や汗をかいていた。
「ど、どういうことなのでしょうか?」
恐る恐る二人に尋ねる角田。そんな角田を見て二人はまるでため息を吐き告げた。
「あのね落ち着いて聞いてよ?……その……そんな方法は存在しないの」
「………は、はは。つ、辻井さんは冗談がうまいなー。ね?辻井さんのお母さん」
そう言ってお母さんの方向を見るが静かに首を振るだけだった。
「ノーーーーー!!」
誤解の綺麗な解き方
諦めろ
の伝授終了!!
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そうして角田が変わりようのない事実に打ちのめされること10分後。
「落ち着いた?」
「……はい」
そんな都合のいい方法あるわけがない。つまり地道に頑張れという全う至極な結果を改めて実感した角田だった。
そんな角田を癒すように目の前のテーブルの上にはおいしいケーキと紅茶があった。
「大したものじゃないけど、それを食べて元気出してね?」
「う、うっ………ありがとうございます」
望ママに感動とバブみを感じながらケーキと紅茶を堪能する。舌に感じる甘みはまさにバブみとの二重奏。角田を癒す。
「でも、角田君はうちの旦那みたいねー」
「……言われればそうかも……」
「??」
全く何の話か分からない角田を置いて辻井親子は二人して唸る。二人にとってこの角田の妙なポジティブさには覚えがあった。
「えっと、辻井さんのお父さんはそんなに僕に似てるの?」
「……うん……残念なぐらいにね……」
「ざ、残念!?ど、どういうこと!?」
「あのね、角田君のその妙な考え方と言うかポジティブなところは亡くなった旦那によく似てるのよー」
「妙な考え方……ポジティブ?」
角田には全く身に覚えのないことだった。この男は非常に残念なことに自分のことを一般人だと誤認している。
※こんな無駄ポジティブ野郎は存在しません。
「まさか……自分の事を普通の人だと思ってるの?」
「え?違うの?」
この救いようのない鈍感さこそが角田クオリティーだ。
「あのね、そもそも私が言うのは変だけど普通の人間は罰ゲームを使って理想の生活を楽しもうとか思わないからね?」
「だ、だって僕みたいなやつがあの状況で佐藤さんを振るのは後々怖いし、逃げられないなら選択肢は実質一つじゃない!?」
角田の悲痛な叫びに二人は「あー」と言う風な様子で妙に納得していた。
「妙にあの人に似てる理由が分かったわ」
「だね」
「ど、どういうこと?」
角田の問いに望ママは少し真面目な顔をして角田に向き合い静かに告げる。
「角田君……僕みたいな。なんていうのはよくないわ」
その声は優しくしかし、厳しくまるで言い聞かせるようだった。
「そうだね。だめだよ角田」
「え?そ、そんなにだめなの?」
「ええ」
角田には理解できなかった。それが今回の件とどういう風に関係してまずかったのか。しかし、辻井親子にははっきりと分かっていた。
「あなたのそのネガティブさが行き過ぎた結果、反転してポジティブになってしまったのよ。だから今までの勘違いにたどり着いたのよ」
「反転……」
角田には思い当たる節があった。たくさん。
「角田、穂乃果がどれだけ態度に好きだって出してても自然と自分が好かれるはずないってその思考になるのを避けてたんでしょ?」
「……」
角田は望の目を見れなかった。だから視線は床に向いていた。しかし、望は許さない。
「答えて」
ほっぺを両手で掴まれて顔は強制的に望の顔と向き合うことに。そこで映ったのは少し泣きそうな望の顔だった。
「辻井さん……」
「忘れないで……大した理由じゃないと思てるかもしれないけど私もあなたが好きだから……」
「………うん」
大した理由じゃない。
もうそんな風には角田には思えない。きっと僕は彼女にとって大切なものなのだ。そんな彼女に僕はまっすぐでありたい。だから……
「……昔から誰も僕を見てくれなかった」
静かに角田は話し出す。それを辻井親子は静かに聞いていた。
「母さんも……父さんも」
二人とも角田にとっては大事な人で一番身近な人物だった。しかし、それが角田にとっては苦痛だった。
「両親には僕はちょっとした気まぐれで生まれた存在だと言われている気がしたんだ……」
仕事のこと以外に関心はなくどれだけテストで好成績を出しても習い事を頑張っても両親は何も言わない。むしろ、目に入れたくないように視線を逸らして「仕事で忙しい」そうとしか言わなかった。
「友達もいなくてさ……だから……」
「もういいよ……」
優しく角田の顔は望の胸に抱きしめられる。お日様の匂いだった。
「……辻井さん?」
「もう我慢しなくていいの……角田は確かにここにいるよ?」
「!?……」
欲しかった言葉。
形もばらばらできっと簡単に人がくれないものだ。
だけど、きっといつかはもらえる言葉。
だから、そんな時は少しぐらい泣いたってかまわないはずだ。
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「どう?少しは落ち着いた?」
「はい……すみません」
「いいのよ。若いうちはたくさん泣くこともいいことよ」
望ママはまるですべてのことを受け入れるようににっこりと微笑む。
「あのね、でね、少し考えたのだけど穂乃果ちゃんに運命を託すのはどうかしら?」
「どういうことですか?」
「これは穂乃果ちゃんや望ちゃんが始めたことだからその当事者の二人を使って解決するべきことだと思うの」
「そうだよね……」
望もさすがに責任を感じているのか賛成のようだ。
「だから望ちゃんから穂乃果ちゃんに角田君が罰ゲームのことを知ってるかもしれないって話して穂乃果ちゃんに角田君に謝罪してもらうようにするの。そうすれば角田君も自然と謝れていいでしょ?」
「え?それって僕だけに都合よくありませんか?」
「それは当然よ。望ちゃんたちが始めたことが原因なんだから角田君は気にしなくていいのよ。望ちゃんもそれでいいわよね?」
「うん。私たちが始めたことだから責任はとるよ。だから角田は気にしないで」
「……うん。分かったよ」
こうして罰ゲームから始まった勘違いの迷路は終わりに向けて走り出す。
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「ふふ、付き合って一か月記念パーティー楽しみだなー」
そんなことが起こっているとも知らずに穂乃果は一人罰ゲームの期限など忘れて自宅で記念パーティーの準備に励んでいた。
リリリリリリ!!
そんな彼女のスマホに電話がかかる。
着信先は病院だった。
それに気づき彼女は慌てて電話に出る。
「うん……うん。分かった……」
電話を切る彼女の表情は下を向いていて見えない。
「………私絶対に幸せになるから」
ただ、誰もいない家の中で静かに彼女の声だけが響いていた。
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