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第八話 おカネを稼ごう!


 さあ第四コーナーから最後の直線!

 ここで先頭を走るのはモダンダークネス

 各馬一斉に追い上げを開始しました!

 あーっとしかし、一番人気ムーンダリアは上がってこない!

 馬群の中へ沈んでいく!


 先頭争いはモダンダークネスをかわし、

 二番人気、三番人気のリアルスウィートとスマートドット!

 だがここであーっと、その二頭に並んで三頭が躍り出る!

 サンデーサンライズ、パープルミスト、ミカヅキハヤテだ!


 ここで伏兵三頭を交え、各馬横並びの状況!

 この力比べを制するのは誰だ!

 

 ムーンダリアは上がってこない! ムーンダリアは上がってこない!


 残り二百メートル! 頭ひとつ抜けてミカヅキハヤテ!

 ミカヅキハヤテ抜け出すか!?


 いや、ここで後方から馬群を突き抜けて迫るのはプチアイドル!

 まさかのプチアイドルだ! ものすごい剛脚で先頭に迫っている!

 ミカヅキハヤテか! プチアイドルか! ミカヅキハヤテ!


 いや!


 プチアイドルだーーーーーーッ!


 並みいる強豪をハナ差で制し、最後方からまさかのプチアイドル!

 見事一着でゴーーーーールインッ!!



 とんでもない大番狂わせが起きてしまったーーーーーーッ!!



 ここでプチアイドルに跨るセーラ騎手、渾身のガッツポーズ!

 場内は騒然、凄まじい歓声と悲鳴が響き渡っております!


 これはすごい! レース史上に残る奇跡のレースとなりました!




 レース結果


 17頭立て 2400メートル



 1着:プチアイドル    14番人気 単勝オッズ:200.0

 2着:ミカヅキハヤテ   12番人気 単勝オッズ:124.7

 3着:サンデーサンライズ 10番人気 単勝オッズ: 99.3

 4着:パープルミスト   11番人気 単勝オッズ:112.0

 5着:リアルスウィート   2番人気 単勝オッズ: 3.2

 6着:スマートドット 3番人気 単勝オッズ: 3.0


 8着:モダンダークネス   5番人気 単勝オッズ: 10.9



12着:ムーンダリア     1番人気 単勝オッズ: 3.0




 荒れに荒れた今日一番の大レース。

 熱気と強熱の渦に呑まれた競馬場で、馬券を握り締めたまま真っ白に燃え尽きた男がいた。

 その手にはこう書かれた馬券が握られている。



【単勝 10番 ムーンダリア 10000ゴールド】



 まさかの大金星を挙げたプチアイドルへの惜しみない称賛と歓声の中、その場にがっくりと膝を付いた俺は、涙と鼻水と共に溢れる魂の叫びを喉の底から絞り出した。


「なんでだよトサーーーーーキーーーーンッ!!!!

 お金返して――ーーーーーーーッ!!!!」


 冒険家ロックの10000ゴールドは、ただの紙切れと化した。


 この状況を説明するには、例によってまた少し時間を遡らなくてはならない。




 本日の朝。

 ダンジョン地下五階でのクエストで9500ゴールドを得た俺は、次なる目標について考えていた。


「今回は色々と上手くいったものの、毎度都合よくこうなるとは限らないしな。

 1億ゴールドを稼ごうと思ったら、やっぱりチマチマとクエストやってる場合じゃねえんだよなあ……」


 となれば、手っ取り早く一獲千金を狙う方法はひとつしかない。

 俺はベッドから飛び起きると、意気揚々と着替えてとある場所へ足を運んだ。


 そして辿り着いたのがここ。

 お馬さんたちが一等賞を目指し、日夜レースを繰り広げる競馬場であった。

 しかしさすがの俺でも、いきなりレースに全財産を突っ込むほど愚かではない。


 まずは適当な額で賭け、その日の流れを掴むのが玄人(プロ)というものである。

 その結果、俺は300、300、400ゴールドと3レース連続で勝利し、まるで労せず1000ゴールドを得る事に成功してしまった。


「ふっ……自分の才能が恐ろしいぜ……てかギャンブルって簡単じゃね?」


 これは俺に流れが来ている間違いない。

 こういう場合は下手な知恵や小細工に頼らず、流れに身を任せるのが勝利を引き寄せる秘訣だ。そして俺は今日一番の大レースの時間を待ち、パドックの前列でお披露目される競走馬たちを眺めていた。


「ねえロック、ここは?」


 表の賑やかさに触発されたのか、金の腕輪からカーネが姿を現わした。

 彼女はパドックを歩く馬や、耳にエンピツを挟んで情報誌や新聞を読むおっさんたちを物珍しそうに眺めている。


「ようカーネ。ここは競馬場だ。

 馬のレースでどれが1等になるのか当てるギャンブルだな」

「へえ、なんだか面白そうね。お馬さんも可愛いわぁ」


 口ぶりからしてカーネは競馬について詳しくなさそうだったが、馬を見て喜んでいたのでそのまま出しておいてやることにした。


「なんならカーネも賭けてみるか?

 競馬ってのは、やっぱりカネを賭けなきゃ見る方も熱が入らないからな」


 俺は1ゴールド硬貨をカーネに渡してそう言った。

 本来なら他人に余分なカネを渡したりしないが、今日の俺はツイている。

 よって1ゴールド程度は気前よくくれてやることにしたのだ。


「わあ、ありがとうロック。えっと、それじゃどの子に賭けようかしら……」


 カーネは子供のような笑顔で喜び、パドックを回る馬たちを観察している。

 やがて一頭の小柄な牝馬を見つけたカーネは、その馬を指して言った。


「私、あのコにする。プチアイドルちゃんっていうんですって。

 それにピンクのマスクも可愛いわ」


 カーネが選んだプチアイドルは地方レースで勝ち負けを繰り返し、出場回避した馬の枠にギリギリ滑り込んで来ただけの、言い方は悪いが数合わせのための馬に過ぎない。


 だがカーネのような初心者にはそんな理屈などどうでもよく、ただ自分が気に入ったかどうかで選べばよいのだ。

 実際、健全に競馬を楽しむならそれが一番だろう。


(だが、すでに必勝の方程式は完成しているッ!

 なぜなら俺はギャンブルが上手いから!)


 ここまでの流れからして、次の勝利も揺るぎないと確信していた俺はフッとほくそ笑む。そしてパドックのお披露目を見終えた後は、馬券売り場に向かって二枚の馬券を購入した。


「ほれ、こっちがお前の分」


 カーネに渡した馬券には


【リトルアイドル 単勝 1ゴールド】


 と書かれている。


「へえ、これが馬券かあ。

 リトルアイドルちゃんが勝ったら、これをおカネに代えてもらえるのね」

「おう、そういうことだ」

「うふふ、それじゃいっぱい応援しちゃお。ロックはどのコの馬券を買ったの?」


 そう尋ねられ、俺は掛け金の部分だけ指で隠した馬券をカーネに見せる。


「俺は当然、ここまで三連勝中の一番人気ムーンダリアだ。

 競馬ってのはなあ、確実に勝てる馬を見極めるのが勝利の鍵なのさ。

 ムーンダリアは今回の距離に若干の不安があるが、前のレースで圧巻の走りを見せてくれたからな。

 それに騎手は上り調子でこれまた連勝中のトサーキン。

 この組み合わせなら、まったく負ける気がしねえ。

 その点お前は、まだまだ俺の読みには及ばないが……

 初心者ってのはそういうもんだから気にしなくていいぞ」

「うふふ、レースの結果が楽しみね」


 そんな講釈を垂れつつ臨んだレースの結果は、17頭中14番人気のプチアイドルが劇的な大勝利。


 まさかの大番狂わせとなったのだ――。





「なんで、なんでここで負けるんだよトサーキン……

 どう見てもここは勝つ流れじゃないですかヤダーーーーーッ!!!!」


 くしゃくしゃに握り締めた俺の馬券を引っ張り出したカーネは、そこに書かれた掛け金を見て呆れた顔を向けて来た。


「ねえロック、この1万ゴールドって……

 持ってたおカネ、全部賭けちゃったの?」

「……」


 口から魂が抜けて干からびた死体のようになった俺を見つめ、彼女は小さくため息をつく。


「5年で1万ゴールドしか貯められなかったって話、

 理由が分かっちゃったかも……」


 実際、真っ当に働いて真っ当に貯金していれば、普通の人間であればもう少し貯蓄を伸ばせる所ではある。だが、俺はそんな常識の枠に囚われるような人間ではないのだ。


「返して、俺の一万ゴールド……やっぱり今の無し、今の無しで……

 へへ、へへへ……」


 競馬場の床に突っ伏して死にかけている俺の前に、カーネは自分の馬券を広げて見せてくる。


「そんなにガッカリしないでロック。ほら、私の勝ち分はあなたにあげるから」


 健気にそう言ってくれるカーネの気遣いにはグッとくるものがあるが、その賭け金1ゴールドという文字を見て俺の中に稲妻が走る。


「プチアイドルのオッズは単勝200.0……とんでもねえ万馬券じゃねえかコレ……な、なぜだ……」


 俺はわなわなと震え、そしてガバッと顔だけ上げて全力の叫びを上げた。


「なんで俺はあの時、100ゴールドでもプチアイドルに突っ込んでおかなかったんだーーーーーッ!!!!」


 ロックの叫び声は虚しく競馬場の空へ吸い込まれていく。

 そして周囲には、大体同じようなことを叫んで突っ伏しているおっさんたちが大勢いたのであった。





 所持金            9500ゴールド


 馬券の結果


  勝ち    300+300+400=1000ゴールド


  負け       -10000ゴールド


 カーネの馬券       +200ゴールド


 合計 (10500-10000)+200=700ゴールド



 現在の所持金        700ゴールド



 

 またもスッカラカン一歩手前に逆戻りした俺は、とぼとぼと歩いて冒険者ギルドの酒場へ向かい、カウンター席で一番の安酒を頼んで突っ伏していた。



「やあロック、その様子だとまたギャンブルで大負けしたのか?

 相変わらず懲りないな」


 酒場のマスターはイカしたあご髭を生やしたナイスミドルである。

 クマのようなギルド受付とは違い、スラリとした長身で誰にでも愛想がよく、女性からの受けもいい。


「うるせー、ほっといてくれ。同情するならカネよこせちくしょー」


 傷心の俺は出された安酒をちびちび飲みながら、つらつらとレースの愚痴を酒場のマスターに垂れ流す。彼も仕事柄、こういうのを受け流すのは得意なので、時々相槌を打ちながら俺の話を聞いてくれている。


「――なあマスター。もっとこう、でかい夢とロマンのある話ってねーのか……

 例えば1億ゴールドくらい、一発で稼げちまうような」

「ははは、1億ゴールドと来たか。そりゃあ大きく出たなあロック」

「こっちは真剣なんだぞー。

 どうしてもたくさん稼がなきゃならねーんだ」

「ほう……」


 マスターはそんな俺を見て少し考え込み、棚のワインを整理しながら語り始めた。


「そういえば昔、耳に挟んだことがあるな。

 ロック、お前は黄金竜の伝説を知ってるか?」

「黄金竜? なんだそりゃ。名前の響きは実に素晴らしいけど」

「黄金竜ってのは名前の通り、全身が金で出来てるらしくてな。

 そのウロコ一枚でも持ち帰ることが出来たら、家が建つくらいの大金になるって言われてるんだ」

「そいつぁ確かに夢のある話だな……でも、そんなの実在すんのかぁ?」

「この町の北西に広がる死の砂漠。

 それを越えた先にある険しい山脈に、黄金竜のねぐらがあるって話だ。

 もちろん本当なのか、ただの伝説か俺は知らないが……

 もし本当に黄金竜がいて、それを退治できたなら、1億ゴールドくらい楽勝だろうさ」

「ふーん。伝説の黄金竜、ね」


 以前までの俺なら、この話も鼻でバカバカしいと笑っていただろうが、今は違う。

 魔神ゴルドーの遺跡でカーネと出会ってしまったように、伝説だのなんだのは実際に確かめてみるまで分からないのだ。


(もし本当に黄金竜とやらが存在するなら、

 こいつを目標にするのが手っ取り早そうだな)


 真偽の程は定かでないにしろ、当面の目標が立つというのは人間にとって重要だ。

 漠然とただ1億ゴールドを稼げと言われるよりは、具体的なターゲットが居た方が色々と行動を起こしやすい。


「ありがとうマスター、いい話が聞けたよ」

「おう、当分は真面目に労働して、真っ当に稼げよ」

「うるせー、大きなお世話だ!」


 俺は残りの安酒を飲み干すと、二階の自室へと引き上げていった。


 



ギャンブル描写はフィクションなので大目に見てください


不定期連載中

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