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第三十九話 黄金竜 討伐



「グオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!」


 黄金竜は勢いを付けて起き上がり、吼えた。

 大気を揺るがす声が響き渡る中、黄金竜が広げた翼に異変が起きた。


 胴体から骨格を伝って翼幕へと電流が走り、赤、黄、緑、青、紫と鮮やかな色に変色し、激しく発光する。そして切断された左翼の断面からは、溢れた電気によって新たな翼が形作られていたのだ。


「つ、翼を電気で作ってやがる……!! こいつどうするつもりだ!?」


 黄金竜はそのまま羽ばたいて上空へ飛び上がり、周囲を旋回するように飛行し始めた。その身体に帯びた電気と気流に影響されたのか、上空の暗雲も激しく渦を巻き、辺りに激しい稲妻が雨のように降り注いできた。


「どわあああっ!?」


 稲妻の威力はこれまでと比較にならず、落雷のあった地面がその熱で真っ赤に溶け、溶岩のように噴き出してしまっている。これだけの力を単独で引き起こすだけでも恐ろしいが、空を旋回していた黄金竜は更なる動きを見せた。


 飛び回りながら稲妻を身体に受け、身に纏う電撃とその輝きが一層強くなる。

 最後には巨大な黄金の光の塊のように変化した黄金竜は、決着をつけてやるとばかりに殺気を放つ。


「まずいぞ、とんでもない大技使う気だアイツ!

 あんなもん食らったら、この辺全部が溶けて消えちまう!」


 俺が自分の右側に視線を向けた時には、カーネもすでに次の行動の体勢に入っていた。


「カーネ、次もありったけだ! これで決着付けてやる!」

「全部で5000万ゴールド分よ、ロック」


 俺は小さく頷いて、左側にいるマーネを見る。


「よし、マーネも防御魔法しといてくれ。目いっぱいで頼むぜ」

「分かったわ。あとは任せたわよ」


 迎え撃つ体勢は整った。後は俺と黄金竜、どっちが生き残るかの力比べだ。


「かかって来やがれ!!」


 俺が叫ぶと同時に、破壊のエネルギーそのものと化した黄金竜が急降下してきた。黄金の球体のような姿のそれに向かって、俺もカネの力が実体と化した黄金の刃を前方に踏み込みながら力いっぱい叩き付けた。


 ――ガガガガガガガガガッ!!!!


 力と力が激しくぶつかり、そして鍔迫り合いのようにお互いの動きが止まり睨み合う。目が眩みそうな電撃の向こうで殺意を漲らせた黄金竜に向けて、俺は一歩、二歩と踏み込んでいく。


「さ、さすが5000万ゴールドの力だぜ、負ける気がしねえ……!」

「グオオオアアアァァァッ!!」


 黄金竜も負けじと吼え押し返して来るが、俺は剣の柄から感じる手応えに確信を持っていた。


「俺とカーネに出会っちまったのが運の尽きだったな、黄金竜さんよ。

 残った金塊はありがたく貰っといてやるぜ!」


 俺は剣を握る両手に全ての力を込め、裂帛の気合と共に剣を押し込んだ。


「だらっしゃああああぁぁぁーーーーーーーーッ!!!!」


 その瞬間、大気が爆ぜた。


 5000万ゴールドの刃が、膨大な破壊のエネルギーの塊を両断したのだ。

 限界まで凝縮された電撃が一気に解き放たれ、それが大爆発を起こす。


 全ての感覚がなくなるほどの光と轟音の向こう、ようやく視界が戻ってきた俺が見たものは、肩から尻尾の付け根まで身体が裂け、高熱で全身が溶けかかった黄金竜の姿だった。


「ガ……グアァ……!!」


 呻き声のような声を漏らし、黄金竜は地響きを立てながらその場に倒れ込む。


 俺の周囲は爆発のせいでなにもかもが吹っ飛び、地面も抉れて大きなすり鉢状になってしまっている。エミリアとフロリーナが気になって離れた場所を探すと、二人ともマーネの魔法に包まれており、どうにか無傷で済んだようだ。


「やれやれ無事だったか……マーネがいなきゃ今ので全員黒焦げになってたかもな。助かったぜ」


 俺がそう言うと、マーネはハッと顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。


「ふ、ふん。当たり前でしょ。このくらいどうってことないわ」


 わかりやすい態度のマーネから再び黄金竜に目を戻すと、身体の半分が裂けてなお、黄金竜はまだ息があった。


 頭がくっ付いていない方の胴体は、すでに塊の黄金へと変わり形が崩れ始めている。前足の爪を地面に突き立て這いずろうとする黄金竜の生命力と執念は大したものだが、状況はすでに勝負ありだ。


「さっきの爆発のせいで身体の内側もボロボロなんだろお前。

 いま楽にしてやるからな」


 俺は黄金竜の顔の前に近付くと、カーネに聞いた。


「残りの耐久値はどんなもんだ?」

「……12000よ」


 俺が攻撃に使った額は全部で7150万ゴールド相当だったはずなので、自爆のダメージもかなり大きかったらしい。


 文字通り、今は首の皮一枚でなんとか息がある程度ということだろう。

 俺は金塊と化した黄金竜の一部を指し、カーネに頼む。


「じゃあ、残りはそれで頼む」


 カーネが腕輪に力を注ぎ込むのを確認すると、俺は剣を黄金竜の眉間に突き立てた。その手応えは硬く重く、何度やっても好きになれない。


「……」


 黄金竜は悲鳴を上げる事もなく、静かに息絶えた。


 するとその身体は全てが黄金へと変わってしまい、俺の目の前には山のような金塊が残るばかりだった。だが目を凝らしてみると、金塊にはゆらゆらと動く、炎のようなものがずっと纏わりついて消えない。


「おっと、そうだった。ようやくコレの出番だぜ」


 バックパックから取り出した『点かずのランタン』を俺が掲げると、黄金に宿っていた炎のようなものがランタンへと吸い寄せられるように集まり、やがてランタンに金色に揺らめく火が灯った。


「……これが黄金郷へのカギになるんだったな」


 火の点いたランタンを腰にぶら下げ、ついに俺は本命であるおたから――黄金竜の身体が変化した金塊の山に近付き、カーネを呼ぶ。


「あえてこいつの金額は聞かないでおくが……カーネ、自由になれそうか?」


 そう尋ねると、カーネは黄金の周りを飛び回って金額の査定をし始めた。


 少し時間がかかりそうだったので、この間に俺は怪我をしたエミリアとフロリーナの元へ行き、マーネの治癒魔法で回復を頼んだ。


 当然タダではないが、山と積み上がった黄金の一部にとっては、この程度の消費など問題にはならないだろう。二人を連れてカーネの所へ戻ると、彼女は珍しく興奮した様子だった。


「ロック、凄いわ。これ全部で腕輪の呪いを解くことが出来そうよ」


 嬉しそうに笑うカーネの笑顔と、目の前に積み上がる山のような黄金。

 俺は腕組みをして考え、まずフロリーナに言った。


「なあ、この金塊を運んで飛べそうか?」


 そう尋ねると、フロリーナはぶんぶんと首を振る。


「こんなの持ったら飛べませんよぉ。金塊ってすごく重いんですから」


 それについてはよく知っている。


 そして俺たちが立っているのは険しい山の頂上付近であり、登るだけでもひと苦労という場所だ。


「私には財宝の価値はよく分からないが、持ち帰れないのでは意味がない気がするな」


 いきなり確信を突いて来たエミリアの言葉に、俺はがっくりと肩を落とす。


「いやまあ、薄々分かっちゃいたんだよ!

 ちょっとくらい夢見れたらなーとか思ったけどさあッ!」


 一生どころか数回生まれ変わっても遊んで暮らせるほどの大金が目の前にあるというのに、それを運ぶ手段がない。


 最初から俺が選べる道はひとつしかなかったようだ。


「わかった、わかりましたよ。カーネ、この金塊は全部くれてやる。

 晴れてお互い自由の身ってわけだな」

「でも……いいの? 私、今のままでも別に……」


 カーネは少し戸惑う様子も見せたが、こっちもすでに肚は決まっている。


「えらい苦労してここまで来て、死にそうな目に遭ってやっとこさ手に入れたんだぞ。そのおたからを無駄にして帰るなんざ、俺の美学が許さねえッ!」


 ハッキリ言って悔しい。


 血の涙と血尿が出そうな気分だが、ここへ来たこと自体を無駄にするのは、あってはならない事だ。


「いいから早く持ってけ。こうして眺めてるだけで惜しくて惜しくて気持ちが揺らいでくるんだよチクショー!」


 俺が握り拳を作ってわななくと、カーネはくすっと笑って俺の頬に手を触れてきた。


「ありがとう、ロック。私、あなたに出会えてよかったわ」


 カーネの綺麗な瞳には、いつもと違う感情の色があった気がした。


 彼女はくるりと金塊の方へ向き直ると、両手を掲げ光を発した。

 すると積み上がった金塊は光の粒となり、右腕の金の腕輪へと残らず吸い込まれて消えた。


「……これで終わりか? なんか特に変化が起きたようには感じないが」

「そうねえ、私も別に変った所はないかも」


 奇妙に思い腕輪に触れてみたりするが、新しい能力が追加されたとか見た目が変わったとか、そんなことは無い。


「な、なんか甲斐がねえなコレ……っと、そうだ」


 ふと思い出し、俺は金の腕輪を左手て掴み、そっと右腕を引いてみる。


「抜けた……」


 すると、今までどうやっても外せなかった金の腕輪があっさり外せてしまった。


「抜けたな」

「抜けちゃったわね」


 俺とカーネ、互いにそう呟く以外に感想は出てこなかった。


「……はあ、帰るか」


 肩透かしを食らった気分で踵を返すと、後ろから俺の左腕にカーネがくっ付いてきた。


「あ、待ってロック」


 それだけならいつものこと――と思ったのだが、どうも様子がおかしい。


 俺の顔の横には美しい黄金の髪があり、腕にはたぷんとして柔らかな感触と温かな体温が伝わってくる。


 そしていい匂いもする。


「カーネ?」


 俺が左を向くと、いつか見た人間と同じサイズになったカーネが立っていた。


「お前、人間と同じ大きさになってんじゃねーか。また勝手にカネ使ったのか!?」

「ううん、知らないわ。気付いたらこうなってたの」

「どういうことだよ……もしかして腕輪の呪いが解けたからか?」

「そうかもしれないわね、うふふ」


 カーネはニコニコと笑い、俺にぴったりと身体をくっつけてくる。


 当然、それを黙って見ていられないヤツが俺の周りをブンブンと飛び回り始める。


「ダ、ダメよお姉様、この男とそんなにくっついたら!

 ロック、お姉様から離れなさいよっ!」


 もはや何度聞いたか分からない定番のセリフだが、今回はこっちも普段と様子が違って来た。


「離れなさいって言ってんでしょーが……っ!」


 そう言って俺の襟首を掴むマーネも、どういうわけかデカくなっていた。


「なんでお前も大きくなってんだよ」

「え、あれ? 変ね、500ゴールド払ってもらってないのに」


 マーネも姉同様、この現象について心当たりはないようだ。


「理由は分からないけど好都合だわ。ふんぎぎぎっ!」


 マーネは俺の右側に回り込み、空いている腕をぐいぐい引っ張ってくる。


 それはまあいいのだが、彼女の格好は小さい時と同じ、レオタードのように見える独特の衣装である。


 太ももから下は生足で、肌の露出は姉より多いくらいである。


「なあマーネ。人間と同じ大きさでその格好だと、なんか痴女みたいだな」

「誰が痴女ですって!? 性獣のアンタに言われたくないわよ、このスケベ男!」

「紳士だっつーの!!」


 またしてもいつもの言い合いが始まったが、勢い余って俺の腕を掴む手がすっぽ抜けた瞬間、後ろに転びそうになったマーネはポンッと音を立て、また普段通りの小さな妖精の姿に戻っていた。


「なんだ、元に戻ったぞ。時間切れか?」


 人間サイズへの変身は500ゴールドで3分という制限時間がある。


 それと同じかと思ったが、マーネはすぐにまた人間大の大きさになり、俺の腕を引っ張ってくる。


「もしかして、お前ら大きさを自由に変えられるようになったんじゃないのか?

 カーネ、ちょっと試してくれ」

「はぁい」


 いつものゆるい返事をすると、カーネの姿は元通りの小さな妖精に戻る。

 もう一度合図をしてみると、パッと人間の大きさになった。


「……なるほど、1億ゴールド払った見返りはこれか? こういうことなのか?」


 頼むから違っててくれと思いつつ、俺は柔らかい左腕とギャーギャーうるさい右側の声を聞きながら、黒雲が流れて晴れた空をじっと見上げていた。



 黄金竜との対決は俺の完全勝利で幕を閉じた。


 この時、俺たちはついに黄金郷へと至る資格の全てを手に入れたのだった。







アイテム、素材解説


金のウロコ


黄金竜の身体から剥がれ落ちた黄金のウロコ

それは紛れもない純金であり、かなり重たい

黄金竜の身体の一部は本体から離れると黄金へ変わる特性があるが、

並大抵の攻撃で剥がすことは出来ない


カーネの鑑定によるとウロコ1枚当たり15万ゴールドの値が付くという


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