第三十八話 対決 黄金竜!
「分かったわ。10000ゴールド入りまぁーす」
カーネが両手を掲げると、財布が軽くなる代わりに俺の身体に力がみなぎる。
かつてはオークキングを一撃で倒した威力なのだから、相手がいかにドラゴンであろうとそれなりに堪えるはずだ。
「どらあっ! 食らいやがれッ!!」
俺は剣を右下から左上へと振り上げる逆袈裟斬りを放った。
その軌道に沿って一直線に斬撃のエネルギーが飛び、青黒いドラゴンの胸元と右の翼の一部を確かに傷付けることに成功した。確かに青黒いドラゴンのウロコは切り裂かれて血が流れているが、やはりこれだけでドラゴンを倒すには至らない。
傷を負った青黒いドラゴンは傷口に前足で触れると、体液の付いた指を見た途端、目を血走らせて叫んだ。
「グオオオオオオオオオオオォォォ-------ッ!!!!」
それは稲妻が轟いたかのような凄まじい叫びだった。
すると今まで晴れていた空に黒く重い雲が立ち込め、周囲の地面から空に向けて、パリパリと青白いスパークが伸び始める。
「なっ、なんだ……!?」
次の瞬間、青黒いドラゴンの身体に極太の稲妻が落ち、大気を揺るがす轟音と、全てを塗り潰す白い閃光に周囲は飲み込まれた。
思わず腕で覆い隠した目を開けると、稲妻を受けた青黒いドラゴンの体表がギラギラと輝き、全身に電流を纏っていた。その電撃によって変貌したのか、青黒かったドラゴンのウロコは青白く発光し、その輝きが周囲を照らすほどだった。
「う、ウロコが光って……!?」
俺は眼前のドラゴンが放つ猛烈な殺気に戦慄していた。
全身に鳥肌が立ち、生物としての本能が全力で危機を告げている。
そうしている間も嫌な気配はどんどん膨れ上がり、それと同じようにドラゴンにみなぎる力も増していく。
「な、なんかやべえッ! マーネ、なんでもいいから防御してくれ!」
異様な雰囲気を察してか、マーネも張り詰めた表情で答える。
「6000ゴールド!」
「分かった急いでくれ!」
俺が許可を出すのと同時に、マーネはすでに呪文を完成させていたらしく、両手を左右に突き出して叫ぶ。
「魔力防護壁!」
魔法による防壁は俺だけでなく、エミリアとフロリーナの身体も瞬時に包み込む。
光の六角形を組み合わせたような球体の防壁が展開し終わった直後、青白く輝くドラゴンは四つ足の姿勢を取り、そして貯め込んだ力を解き放つ。
それは凄まじい電圧と電流の嵐だった。
ドラゴンの身体から四方に放たれる電撃は岩盤を砕き、頭上の黒雲からも次々に稲妻が落ちてくる。なんの対策も無ければ、俺たちは電撃に飲み込まれ、骨のひと欠片も残さず砕け燃え尽きていただろう。
「うわあああああっ!?」
魔力防護壁に守られていてなお、その内側に伝わる破壊の奔流は凄まじく、身体がバラバラになりそうな気分になる衝撃と轟音が何度も叩き付けられた。
「うっ……くううっ……!」
魔法を展開するマーネも歯を食いしばり、苦しそうな声を漏らしている。
出会って以来、コイツがこんな表情をするのを始めて見た。
「お、おい、大丈夫かよマーネ!」
「う、うるさい! 気が散るから黙ってて!」
時間にすれば十秒にも満たない出来事だったが、防壁に守られている間は、それがひどく長く続いたように思えた。
ようやく電撃の放出が終わると、マーネも疲れたようにうなだれ、俺たちを囲む防壁も割れるようにして崩れてしまった。
「はぁ、はぁ……危なかったわ……
もう数秒続いてたら、魔法が持たなかったかも」
「そ、そんなにヤベえのかよ……!」
途方もないエネルギーを放出したというのに、目の前のドラゴンに疲労は見られない。そして膨大な電流によって体質が変化したのか、全身を包む青黒いウロコが熱を帯びて赤く溶け、それが冷えると黄金に変化し再び固まっていった。
「ウロコが黄金に……やっぱりこいつが黄金竜だったのか……!」
俺たちを見下ろす黄金竜はまばゆく、あまりにも強大だった。
そして同時に俺は本能で直感してしまった。
これはただの人間が相手をしていい生き物ではないのだと。
「ねえロック、どうするの? あんなに暴れられたら手が付けられないわ」
「ああ、まったく対抗策が思い浮かばねえ。
気が進まないけど……黄金竜の耐久力は分かるか」
「ええ、見てみるわね」
カーネはいつものように黄金の竜を見つめたが、突然ハッとした表情を浮かべ、珍しく青ざめていた。
「こ、これって」
「見えたんなら教えてくれ」
「でも……」
「いいんだ、とにかく事実を言ってくれ」
俺が促すとカーネは決心したらしく、そして浮かない顔で答えた。
「黄金竜の耐久力は……1億よ」
やはりな、と俺は思った。これは単なる勘などではない。
金の腕輪から自由になるための1億ゴールド。
黄金郷へ至るために必要な黄金竜の魂。
そしてカーネが告げた黄金竜の耐久力1億。
全ては最初から繋がっていたと考える方が自然だろう。
金の腕輪を手にした人間が、全てを揃え黄金郷へ至るために――。
これが仕組まれていた事だとしても、今は余計な事を考えている暇はない。
どうにかして黄金竜を倒さなければ、俺たちはここで全滅だ。
(落ち着け、冷静になるんだ……1億ゴールドなんて大金、いちいち用意しなきゃコイツを倒せないってんなら、この仕掛けを考えた奴はただの馬鹿だ。
だが、そんなワケが無いだろ……あるはずだ、黄金竜に対抗する方法が……!)
俺は脳をフル回転させて考えを巡らせたが、思うだけでアイデアが降って来るなら苦労はしない。だが、電気を帯びて輝く黄金のウロコを見た時、頭の中で絡まっていた糸が解けていく感覚が走った。
(黄金で出来たウロコ……そうか、そういうことかよッ!)
俺は腰の剣を抜き、カーネに向かって叫んだ。
「40000ゴールド分だカーネ! やってくれ!」
「で、でも……いいの?」
「いいから早く!」
「わ、わかったわ」
カーネが両手を掲げた直後、俺の腕輪に数字が浮かび全身に力がみなぎる。
続けて俺はマーネに目を向けて言う。
「さっきの防御魔法をかけて、それからいつもの移動魔法で俺を黄金竜までぶっ飛ばしてくれ!」
「後でやっぱりやめたなんて出来ないわよ。覚悟の上でしょうね」
「黙ってても全滅するだけだ。だったらイチかバチかやるしかねえだろ!」
「……分かったわ。魔力防御壁!」
マーネが呪文を唱え、俺の周囲に魔法の防壁が展開される。
そして間髪を入れず、マーネは続けて呪文を唱えた。
「疾風衝!」
球状の防壁を纏ったまま、俺は砲弾のように黄金竜へとブッ飛んでいく。
カーネとマーネも俺と一緒にくっ付いてきているが、二人とも俺の背中に掴まって身を隠している。
「グアアアアアアアッ!!」
待ち構える黄金竜は口を大きく開き、口内から極太の電撃を放ってきた。
魔力防御壁のおかげで消し炭にならずに済んだが、防壁越しでも伝わる強烈なエネルギーの余波で、身体中が焼けそうなくらいに熱い。
「うおおおおおおおおーーーーーーっ!!」
ここで少しでも狙いが逸れれば次はない。
俺は剣を突き出して構えたまま、電撃を切り裂くようにして一直線に飛び続ける。そして――。
――ザシュッ!!
すり抜けざまに振り抜いた剣の一撃が、黄金竜の側頭部を捉えた。
もちろんそれだけで黄金竜を倒せはしないが、俺が期待していたのはカーネの能力の『相手に関係なく金額分のダメージは必ず与えられる』という特性の方だった。
「……!?」
俺の攻撃によって黄金竜の頭部を覆っていた金のウロコが剥がれ、周囲に飛び散った。重い音を立てて地面に落下したウロコは、変わらず黄金の輝きを放ち続けている。
俺は黄金竜の身体の脇を通り抜けて反対側に落下したが、五体満足なのを確かめるとすぐに立ち上がり、足元に散らばった金のウロコのひとつを拾い上げた。
それはまだ熱を帯びて熱く、ずしりと重かった。
「カーネ、このウロコでいくらだ?」
俺は金のウロコを肩の上に持って行き、背中にしがみついているカーネに見せる。
「え、えっと……すごいわ、これ一枚で15万ゴールドはあるわよ」
「ははっ、さすが黄金竜サマだぜ。ウロコ一枚で家が建つってのは、あながち嘘じゃねえってコトだな!」
ついつい笑みが浮かんできてしまう俺の視界には、同じ大きさのウロコがまだまだ散らばっている。
「思った通りだ……見えて来たぜ、俺の勝ち筋ってヤツがよー!」
ざっと見ただけでも落ちているウロコは十枚ほどはある。
黄金竜の身体から剥がれ落ちた金のウロコは、もはやただのお宝でしかない。
つまり、これをそのまま俺の攻撃に使うことが出来てしまうのだ。
俺はポケットに手を突っ込んでから、足元に落ちている金のウロコを指す。
「カーネ、その辺に落ちてるウロコ全部だ! 行くぞ!」
「はーい、任せて。だいたい150万ゴールドくらい入りまーす」
カーネが両手を掲げ、散らばった金のウロコを全て力に変えて金の腕輪に送り込む。俺の身体の中にはかつてないほどの力が迸り、もはやマーネの助けを借りずとも攻撃が届くと、無意識にそう実感していた。
「うおりゃああああーーーーーっ!!」
気合い一閃、俺が上段に構えた剣を振り下ろすと同時に、有り余るパワーが実体を成して剣先から十数メートルほども伸び、巨大な刃となって黄金竜に襲いかかった。
「……!?」
その一撃は空を切り裂き、大気を震わせる。
巨大な刃を叩き付けられた黄金竜の背中や翼からは、砕け剥がれ落ちた金のウロコが大量に舞い落ちてくる。
打ち据えられた黄金竜は大きく体勢を崩し、後ずさって膝を付くように倒れ込んだ。
「さっきより派手にウロコが剥がれたな。お前に個人的な恨みは無いけどよ、ここまで来たら殺るか殺られるかだけだ。悪く思うなよ!」
さっきと同じようにカーネに頼むと、破片になって飛び散った黄金が再び俺の力となって集まって来る。
「ロック、次は2000万ゴールドぶんよ」
「へっ、とんでもない額になってきたな。これでも食らいやがれ!」
俺が剣を構えると、それだけで巨大なエネルギーの刃が形作られる。
しかもさっきより長く、全体が黄金の輝きに満ちている。
カネさえ払えばそれと同じだけのダメージを与えるというカーネの能力には、本当に際限が無いようである。
「どりゃああああああああーーーーっ!!」
2000万ゴールドぶんの威力ともなれば、桁違いな耐久力を誇る黄金竜にとってもダメージは軽くない。
俺が振り下ろした上段からの一撃を、黄金竜は身をよじって躱そうとしたが間に合わず、左の翼を半分ほど切り落とし、そのまま地面に叩き付けられた刃は固い岩盤すら真っ二つに叩き割っていた。
「グギャアアアァァァァァァッ!!」
翼を切断された黄金竜は苦痛の声を上げ、地面を転がってのたうち回る。
一方、切り落とされて地に落ちた左の翼は、驚くことにその全てが黄金の塊となり、細かく分かれて積み上がっていた。
「ウロコだけじゃなくて、全身が金になるのかよコイツ……
エルリスが言ってた通り、まともなドラゴンって感じじゃないな」
黄金竜の異様な変化に俺が驚いていると、倒れ込んでいた黄金竜の内側で殺気が爆発的に膨れ上がっていた。
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