第二十七話 温泉パニック!
「――ふー、食った食った。片付けが終わったら、温泉に浸かってのんびりするか」
食事を終えた俺たちは近くを流れる温泉の小川で洗い物をし、登山の疲れを癒すために目の前の温泉へ入ることにした。妖精の二人が温泉に浸かることに意味があるかは不明だが、こういうものは気分も大事だ。
俺は荷物からバスタオルを引っ張り出し、エミリアに渡そうと振り返る。その視界に飛び込んできたのは、目の前に男がいることなど気にも留めず、平然と服を脱いで一糸纏わぬ姿となったエミリアだった。
「ぶっほうッ!?」
俺はひっくり返りそうになったが、彼女の姿に釘付けになってしまった。
すらりと長い手足に、無駄な肉のないしなやかな身体。
くびれた腰とは対照的に、大きく自己主張するふたつのおっぱい。
エミリアの青い瞳と褐色の綺麗な肌も手伝って、それは男を誘惑しに来た夢魔の類かと勘違いしてしまいそうな姿だった。
ちなみに乳首は綺麗なピンク色である。
「どうしたロック、そんな顔をして。温泉に入るんじゃないのか?」
「いやちょっと待て! なんでお前は裸で平然としてんだッ!?」
「裸だと不都合があるのか?」
怪訝そうに聞いて来るエミリアに対し、俺は一瞬のうちに様々な感情が渦巻いて眩暈がしてきた。最初から世間知らずで色々とズレているとは思っていたが、そもそもの感覚からして普通の人間とは違う世界にいるようだ。
そうは言いつつ彼女の裸体から目が離せずにいると、急に視界を遮るものがあった。
「もうっ、ロックったら。いつまでも見ちゃダメ」
そう言いながら俺の目を塞いできたのはカーネである。
見えなくなる直前、彼女の顔がむくれていたのは気のせいだろうか。
「と、とにかく男の前で気安く裸になるんじゃありませんッ!
これで乳を隠せッ!」
前が見えないまま俺が投げたバスタオルを受けとり、エミリアはカーネに言われてそれを身に付けた様子だ。やっとのことでカーネが離れると、今度はしっかりタオルで大事な部分を隠したエミリアが、変わらない表情で立っている。
「また粗相をしてしまったらしい。申し訳ない」
「いや粗相ってか、ご褒美だったけど。マジ凄かったぜってえ忘れねえ」
俺はついさっき見たエミリアの裸を、グッと深く心に刻み込む。
「だが、なぜ男性の前で裸でいてはいけないのだろう」
「お前な、ヴィクターの前でもその調子だったのか?」
「人前に出るときは服を着ろと教えられたが、それ以外はなにも言われていない」
「あんの変態吸血鬼め……部下の教育くらいちゃんとしとかんかいッ!」
わずかな間に色々と疲れてしまったが、目の前に立つエミリアは実際色々とすごい。タオルを巻いていてもハッキリわかるでかい果実は、男なら目が離せなくなるのも仕方のないことである。
そう、仕方がないのだ。
「あのなあ、女が男に裸を見せるってのは、普通は特別な相手と二人きりの時だけなんだよ。いやまあそうじゃない場合もあるかもしれんが、基本的にそういうものだと思え」
「特別……特別な男と二人きりで裸だと、その先はどうなるのだ?」
「だーーーっ! それを俺の口から言わせんな!
さっきから視線が刺さって痛いんじゃい!!」
俺の両サイドからは、凍り付くような視線のマーネと、目が笑っていないカーネの視線がズブズブと突き刺さっている。
「ロック、さっきからじーっとエミリアの胸を見てるのね」
「はっ……!?」
カーネの口調は穏やかだが、その瞳の奥には強烈なプレッシャーが宿っている。
「やっぱり思った通りだわ……このケダモノ。性獣。
お姉さまの事もずっとそんな目で見てたんでしょう」
「はうあっ!?」
マーネも氷点下の殺意を込めた視線で、今にも俺を呪い殺さんばかりである。
逃げ道を失い嫌な汗をダラダラ流す俺を見て、さすがに空気を読んだのか、エミリアが動揺した様子を見せながら言った。
「と、とにかく温泉に入ろう。続きはその後ということで」
一足先に温泉に浸かったエミリアに続き、俺も服を脱いで前を隠しつつ、少しエミリアから距離を取って温泉に入った。温泉の温かさは旅と登山の疲れを癒してくれる素晴らしいものだったが、今の俺はそれどころではなかった。
カーネとマーネは俺を監視するようにじっと見ていたが、やがてカーネは思い立ったように俺から離れ、荷物の入ったバックパックを漁ってから戻って来た。その手にはタオルが握られており、カーネはするりと服を脱ぐと手早くタオルを身体に巻き、俺の左腕にくっ付いてきた。
それだけならよかったのだが、カーネの身体が光ったと思ったその瞬間、彼女の身体は人間と同じサイズに変身していた。
「なっ!? お、おいカーネ!?」
「……ロックのばか」
むくれた顔でそう呟きながら、カーネは俺の左腕にしがみついてぐいぐい身体を寄せてくる。当然、その度にたぷんとした豊満な例のアレが俺の腕に押し当てられ、つぶれて形が変わったお乳上という、なかなか巡り合えない光景と感触が一気に襲いかかって来た。
「いきなりなにしてんだお前! てか、大きくなるそのカネはどうした!?」
「ふーんだ。ロックが悪いんだから」
カーネはまともに答えようとはしないが、ぐいぐいと身体を押し付けてくるのだけは止めない。
「ちょっと待ってカーネさんッ! みんなが見てる、ここじゃダメーーッ!」
怒涛の感触と光景に思考が追い付かない俺の視界の端で、銀色の方ことマーネはショック死でもしそうなくらいに表情を引きつらせていた。
「い、いやああああーーーーーっ!?
ダメよお姉さま、そんな変態に触れたら汚されてしまうわッ!!」
耳を衝くような悲鳴を上げるマーネだが、カーネはじっと俺の腕にしがみついたままである。
「ひいいいっ!? ダメよ、ダメダメ!
こんなの絶対に許されるはずが無いわッ!!
お姉さまから離れなさいよロック!」
「そのお姉さまが離れてくれないんだから仕方ないだろーがッ!」
マーネはひどく狼狽えながら俺の周囲を飛び回った後、なにかを決意したようにガバッと顔を上げる。
「か、かくなる上は……お姉さまへの思いをナメないでちょうだいッ!」
マーネも俺のバックパックに顔を突っ込んで何かを漁り、タオルを持ち出して衣服を脱ぎ身体に巻く。そして俺の正面に飛来すると、血走った眼で俺を睨み付けた。
「こ、こっちを見なさいこのスケベ!」
マーネが叫んだ途端、彼女の身体が光を放ち、姉と同様に人間と同じ大きさになってしまった。やはり彼女も姉同様、人間と同じサイズになると驚くような美人である。姉と違って身体つきは薄めだが、それはそれで女としての魅力は十分以上に備えている。
マーネは俺の顔を両手で掴むと、鬼気迫る顔をぐっと近付けてきた。
「あ、あんたの視線でお姉さまを汚されるくらいなら、私が身代わりになってやるわッ! さあっ!!」
「急にハジケすぎだろお前ら!!」
マーネは俺の顔を引っ張って姉から引き剥がそうとするが、カーネもしっかりと俺の腕にしがみついて離れようとしない。バチャバチャと水音を立てながら俺たちが暴れていると、ふとした弾みで手が滑ったマーネは前のめりになってしまう。
「きゃっ!」
咄嗟に俺が肩を支えてマーネは無事だったが、反射的に突き出したマーネの右手は、あろうことか俺の股間のアレを握り込んでいた。
「えっ……ちょ、なに……これ……」
指に伝わる感触に、マーネの顔はどんどん青ざめていく。
紳士である俺は出来る限りの男前な顔を作り、渋い声でキメてやった。
「ふっ。それは俺のおたから様だ」
数秒ほど、時間が凍り付く。そして時は動き出す。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーっ!!
いやああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」
人生で一度聞くかどうかというような絶叫を上げ、マーネはそれを握り込んでいた手を離し、強烈なビンタをかましてきた。
バチーーーーン!!!!
「ぶぺら!?」
視界がチカチカする痛みの向こうで、マーネは耳まで真っ赤になっている。
「よっ、よよよ……よくも私にあんな汚物を握らせたわね!
も、もう殺すしかなくなっちゃったわ……!」
マーネは髪を逆立ててなにやら呪文を唱え始めたが、そこでじっと俺にくっ付いていたカーネが口を開く。
「やめなさいマーネット。ロックに謝るのが先でしょ」
そう言われたマーネはハッと我に返るが、その顔は今にも泣き出しそうである。
そしてマーネの本名はマーネットというらしい。
「だっ、だだっ……だってお姉さま!
この男、私にあんな汚らわしいモノを……!」
俺のご子息様に向かって失敬だなとツッコミたかったが、ここは黙っておく。
「先に手を出したのはあなたじゃない。
ちゃんと謝るまで、お姉ちゃん口きいてあげないわよ」
「そ、そんなあ!?」
それはマーネにとって死刑宣告にも等しいようであった。
目の前の銀髪の女は涙を浮かべながら、悔しそうに俺の顔を見る。
「ぶったのは悪かったわよ……だからその……お姉さまから離れなさいよ早く」
一応の謝罪ではあるが、マーネの表情からは恨めしさがまだ滲み出ている。
せっかくなので俺は、少し調子に乗ってやることにした。
「んー? それが謝る時の態度かあ? 一言余計なんじゃないのかマーネット」
聞いたばかりのマーネの本名を口にすると、マーネは頭を掻きむしるようにして絶叫した。
「キィーーーーーッ!! やめてその名前で呼ばないでよ!!」
「いやキィーって。いいだろ本名で呼ぶくらい」
「良くないわよ!! それは家族同士での呼び名なんだから!」
「ん、ああ。前にカーネがそんなこと言ってたっけ」
「家族以外で私たちの本名を呼んでいいのは、伴侶となる男だけなのよスカタン!」
「……えっ」
眉を吊り上げて怒るマーネから視線をカーネに移すと、相変わらずぴったりとくっ付いて来て動こうとしない。
「な、なあカーネ。前に本名で呼んじまったけど、お前そんな話しなかったよな。
まさか……」
俺がそう聞くと、カーネは赤くなった顔をこっちに向けて微笑むだけだった。
それが温泉でのぼせただけなのか、それとも別の感情だったのか、今の俺には分からない。
「うふふ、ヒミツ。でも、よそ見は程々に……ね?」
「う……はい」
この状況でどうしろというのだと思う一方、ここで余計な反論をするのは非常にまずいという直感があった。
俺に密着してくる豊満な美女カーネ、目の前でじっと俺と姉の様子を監視しているスレンダー美女のマーネ、少し離れてこっちを見守っている褐色肌のエミリア。
いずれも劣らぬ一級品の美女が、布切れ一枚を纏って同じ温泉に浸かっているこの状況。これでナニも反応しないというのは、男としての完全敗北――不能者の烙印を押されても仕方がない。
「と、ところでカーネ、いつまでそうしてるつもりだ?」
「んー、どうしようかしら」
タオル一枚挟んではいるが、ほぼ裸で男と密着していることについてカーネはどう思っているのか。いくら考えてもカーネの顔を見ても、俺にはさっぱりである。
(分からん……! 女の考えることは分からんが過ぎる!)
こっちから動いて反応を確かめたいが、目の前のマーネ、ついでにエミリアの目が光っている状況ではそれも出来ない。傍から見れば幸せこの上ない状況だろうが、逆にそれが俺の身動きを絶妙に封じてしまっているのだ。
(せめて一人ずつイベントが来ればいいものを、なんで三人同時なんだッ!!
なんかの修行かこれはよおおおおぉぉぉぉぉ!!)
結局俺は身動きが取れぬまま、のぼせる直前まで温泉に浸かり続けるしかなかった。
「ぬおお……世界が揺れている……」
温泉から上がり、フラフラになった俺は水を一杯飲んだ後、適当に着替えてそのまま倒れ込むように寝てしまった。
(……あれ、なんか大事なことを忘れてるような)
カーネとマーネが人間サイズに変身するための500ゴールド、三分以上の延長料金1000ゴールド。二人分合わせて3000ゴールドが財布から消えていたのに気付いたのは、夜が明けてからの事だった。
冒険者ロックの手記
胸回り比較
カーネ すごい
マーネ ひかえめ(形は〇)
エミリア でっかい




