第二十四話 黄金郷の伝説
死者の森の吸血鬼討伐 結果報告
所持金 22170ゴールド
消費
魔法:火竜の業火 10000ゴールド
差引 22170-10000=12170ゴールド
収入
吸血鬼の財宝 500000ゴールド
取り分 250000ゴールド
公爵への譲渡分 150000ゴールド
残り 100000ゴールド
差引 100000+12170=112170ゴールド
現在の所持金 112170ゴールド
冒険者ギルドの自室で、カーネが今回の仕事の結果を空中に表示してくれていた。強敵二体と戦いはしたものの、それで9万ゴールドの稼ぎは破格であった。
「今回のお仕事はいっぱい稼げてよかったわね」
そう言って喜んでいるカーネの隣で、珍しく自分から表に出ているマーネが腕組みをして、部屋のベッドに腰掛ける俺を見下ろしている。
「それにしても意外だったわね。
あんたが受け取った財宝の一部を他人に譲るなんて」
マーネの言う通り、本来なら俺の取り分は25万ゴールドのはずだった。
しかしそのうち15万ゴールドを吸血鬼ヴィクターからの貢ぎ物と称して、ゼニンスキー公爵に渡した。おかげで俺の取り分は当初の半分以下になってしまったが、そこで憤慨するような俺ではない。
「確かに15万ゴールドくれてやったのは痛かった、実に痛かった……
正直、血の涙と血尿が出そうな気分だったぜ」
「カネにセコいあんたが善意であんな選択するとは思えないし、
なにか理由があるんでしょ?」
「まあな。魔族の大物とコネが作れるチャンスなんて、そうそうあるもんじゃないからな。この程度で吸血鬼に恩が売れるなら安いもんだぜ」
得意げにふふんと鼻を鳴らす俺を、マーネは呆れ顔でじっと見てくる。
「まったく、なにが恩よ。
そもそも渡したお金は元からヴィクターのものじゃない。
あんたの懐は別に痛んでないじゃないの」
「ぐっ……余計な所を突っ込みやがって」
「……でも、これで当分はヴィクターが敵視される心配は無さそうね。
吸血鬼からの貢ぎ物を受け取ったって事実がある以上、すぐに攻め込んだりしたらゼニンスキーが信用を失うだけだもの」
「だな。会話してみた限り、下手な人間よりヴィクターの方が信用できると思うぜ。変態だけど」
「そうね。お母様の話をしてる時の目に嘘は無かったと思うわ。
どうしようもない変態だけど」
意見の一致を見たところで、俺とマーネはうんうんと同じタイミングで頷く。
俺とマーネが話し込んでいると、カーネがふわりと飛んで俺の左肩に腰を下ろしてきた。カーネは俺の頬に手を当て、いつものように微笑んで俺の顔を見ている。
「ねえロック、次はどうするか考えてるの?」
「ん? そうだな……耳に挟んだ黄金郷とやらも非常に興味をそそられるし、この『点かずのランタン』ってのもそれに関係してるらしいからな。
いっちょ黄金郷とかその辺の伝説について調べようと思っててな」
「ふふ、なんだか楽しそうね。次はどんな冒険になるのかしら」
カーネはそう言いながら俺の頬にもたれかかってきたが、その様子を見ていたマーネは頬を膨らませ、俺の鼻と唇の間にある急所(人中という)にヒールの急降下キックを放ってきた。
「ぐあああ痛ってえ!?」
鋭い痛みに俺が口元を押さえて涙目になっていると、マーネは怒りの表情で眉を吊り上げ、俺をズビシッと指して来る。
「鼻の下伸ばしてんじゃないわよスケベ!
そうやって少しずつお姉さまの心を絡め取って、いつか思い通りにしてやろうって魂胆なんでしょ!」
「急になんなんだお前はッ! 俺はなんも言ってねーだろが!」
「言わなくてもその好色な顔が物語ってるのよ!
この色情狂! 性欲モンスター!」
「普段俺がどんな姿に見えてんのこの人!?」
ギャーギャーと言い争いをする横で、カーネは俺の顔にぴったりと密着してニコニコしてたが、俺もマーネも叫び疲れるまでそれに気付くことは無かった。
一日の休養を挟み、帰還から二日後。俺は調べ物をするためにメルカトル公設の図書館に来ていた。ここには貿易によってさまざまな文献が集められ、古今東西のあらゆる歴史を読むことが出来る。
数々の遺跡やダンジョンに挑む冒険者にとって、実はこうした歴史資料というのは謎を紐解くのに非常に重要であり、資料を読む知恵のない奴は冒険者として大成することは無いと言われているくらいだ。
俺は受付に座る眼鏡の司書さんに、事前に登録してあるカードを見せる。
「登録番号005869番、冒険者ギルド所属のロック様ですね。
本日はどのような本をお探しでしょう?」
慣れた口調で尋ねて来る司書さんに、俺は黄金郷について記された資料が無いかを聞いてみた。彼女は分厚い目録を引っ張り出して該当するページに目を通していたが、なぜか怪訝そうな顔で何度も見返している。
「なあ、どうしたんだ?」
「い、いえ……お探しの本なのですけど、それに関わるものが一冊しか無くて」
「へっ、一冊だけ?」
この図書館はそこらの金持ち屋敷など比較にならないほど巨大である。
並べられた棚も、そこに納められた本や文献も数え切れないほどに揃っている。
にも関わらず、黄金郷に関する本がたったの一冊だけとは、司書の女性でなくとも首を傾げたくなる話だった。
「おかしいですね、メルカトル図書館の蔵書は世界一と自負しておりましたのに」
「まーまー、一冊でも見つかっただけで良かったよ。本棚の場所は?」
「ええと、BブロックのC列ですね」
「分かった、ありがとなお姉さん」
俺は司書のお姉さんに軽く手を振り、教えてもらった本棚の場所へ向かった。
その本棚もびっしりと本が並べられていて、教えてもらわなければ他とまったく見分けは付かなかっただろう。
本棚に振られた頭文字を辿って歩いていると、本棚の中で一ヶ所だけすっぽりと本が抜けている場所があった。そしてそれこそが、探していた黄金郷の本が収められている部分だった。
「変だな、どうしてここだけ棚が空なんだ? それはそれとして……お、これか?」
黄金郷という文字を見つけて手に取った本は、厚みのない古びた本だった。
正確なタイトルは『地の底に沈んだ黄金郷』と大きな文字で書かれている。とりあえず本を開いてみると、それは独特な絵柄で記された、古い絵本のようだった。
「なんだこりゃ。おとぎ話かよ」
奇妙に思いつつも、俺はその絵本に目を落としてみた。
かつて、この地に王国がありました
王様はとても勇敢で、人々からも慕われていました
周囲の国々と争っていた王様は、故郷の小さな国を見て言いました
「もっと民を栄えさせ、お金や暮らしに不自由しない国を作りたい」
そして王様は様々な魔術を研究し、とうとう『黄金の秘術』を作りました
『黄金の秘術』は望むままに黄金を生み出すという、夢のような魔法でした
王様の国は手に入れた黄金によって、世界中を支配するほどの大国になりました
しかし王様はいつからか黄金に夢中になり、国の全てを黄金に変えてしまいました
建物も、壁も、地面も、草木も。
すべてが黄金に輝く黄金郷が誕生したのです
ですが国中を金に変えてしまったために、大変なことが起こりました
土地が重くなりすぎて、黄金郷はどんどん地面に沈み始めたのです
誰もそれを止めることが出来ず、黄金郷は深い深い地面の底に消えてしまいました
そして黄金郷と一緒に、王様も国の民もどこかへ行ってしまいました
その様子を見ていた二人の古い神様がいました
空の神様と、海の神様です
「欲張りな人間のせいで、地面に大きな穴が開いてしまった」
「あの黄金を見たら、また人間は間違ってしまう。穴を埋めてしまおう」
神様たちは海岸に面した土地の一部を持ち上げ、それを黄金郷が沈んだ穴に投げ込んで塞ぎました
こうしてできたのがメルカトル湾で、湾の中に残る小島はその名残だといいます
絵本はこれで終わりだった。絵柄が独特ではあったが、話の内容はおおむね理解できる話だった。最後に出てきた二人の神様というのは、片方は翼の生えた大きな竜で、もう片方は山のような巨人の姿で描かれていた。
小さな事だが、これもなにかのヒントになるかもしれないと、俺は気に留めておくことにした。
「……」
俺は絵本を閉じ、小さく息を吐いてから心の中で叫ぶ。
(望むままに黄金を生み出す秘術だと……そんなの欲しい、絶対欲しいよッ!)
声を出すのを我慢して悶えつつ、俺は絵本を本棚に戻すと、司書のお姉さんに軽く挨拶をして図書館を後にした。
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